手術後に傷をガーゼで覆う必要はあるのか?
外科にしろ整形外科にしろ耳鼻科にしろ,手術後の縫合創はガーゼで覆っている。大抵は滅菌されているガーゼである。手術後,傷を消毒した後,その滅菌ガーゼを,滅菌ピンセットでうやうやしくつまみ,傷の上を覆うのが,いわば儀式と化している。
こういうのを医学では「清潔操作」と呼んでいる。
消毒した傷口に患者の手が触れようものなら,「触るんじゃない! 傷が不潔になって化膿するだろ!」と烈火の如く怒られたりするのだ。もちろん,そのガーゼを素手で扱うなんて御法度中の御法度。
とにかく,外科の手術の後は,「傷が化膿しないように」厳密な清潔操作をするのが常識となっている。
だがよくよく考えると,これらの医学的根拠は希薄になってくる。よく考えてみると,どれもが嘘じゃないかという気がしてくる。
術後の「清潔操作」って,本当に必要なんだろうか?
滅菌されたガーゼを使う意味はあるのか?
- 皮膚には常在菌(表皮ブドウ球菌など)が必ずいる。常在菌がいる状態が,健康な皮膚だ。そしてこれらの常在菌は,毛穴の奥深くまで棲みついている。
- ということは,手術して縫合した傷周囲の皮膚にも,傷からちょっと離れた皮膚にも,常在菌は必ずいる。
- 皮膚をいくら消毒したところで,これらの常在菌を完全に死滅させることは不可能。一時的に全て除去できたところで,ちょっと時間がたてば,毛穴の奥からまた,細菌が増殖するのは当たり前だ。
つまり,皮膚を消毒するのは,大腸粘膜を消毒して大腸菌を全て取り去ろうとするのと同様,不毛の努力である。
- ということは,傷の周囲を消毒しても皮膚常在菌を除去できるわけではない。
- つまり,「傷の周りを消毒」しても,医学で言う「清潔な皮膚(=細菌のいない皮膚)」は作り出せるはずがない。皮膚に関する限り「清潔(=無菌)」というのは根拠のない幻想である。
- 以上の理由から,「消毒されてはいるが,常在菌だらけの傷(とその周囲の皮膚)」を「滅菌されたガーゼ」で覆うのが医学常識であるが,これは全く,意味がない行為だと結論できる。
そもそも,「滅菌ガーゼ」にしても「清潔操作」にしても,それが目的とするのは「外から細菌を持ち込まないように」というものだろう。つまり,本来「細菌がいない」臓器を扱うための操作だ。
しかし,開放創にしろ,縫合創にしろ,そこには必ず皮膚常在菌が存在する。常在菌がたくさんいるのに,「外から細菌を持ち込まないように」というのは全くナンセンスだ。まして,滅菌されているからといって,ガーゼを盲信するのは滑稽としか言いようがない。
傷を手で触れるのはいけないことか?
- 前述のように,傷の周囲をいくら消毒したところで,皮膚は無菌化できない。「消毒したから無菌」というのは単なる医者・看護婦の思い込みである。
- ほとんどの場合,手術創は消毒のみで,洗浄されていない。つまり,垢まみれ,汗まみれとなっている。
- 一方,患者さんの手は,一日に何回も洗っているはず。垢も汗もほど良く落ちている。
- 「消毒はしているが垢まみれ・汗まみれの手術創」と,「一日に何度も洗っている患者さんの手」とどちらがきれいだろうか?
常識的に考えれば,前者の方がより「汚い」という結果にならないだろうか?
- 従って,「手術した傷に患者の手が触れた」からといって,非難するのは間違っている。「消毒しかしていない」手術創よりは,手の方が比べ物にならないほど清潔なのである。
「消毒しかしていない」傷が,もっとも「不潔」である。
ガーゼは何のため?
- 上述のように,たとえ滅菌されたガーゼであっても,「外からの細菌の侵入を防ぐ」効果もなければ,「創を清潔(=無菌)に保つ」ことも不可能だ。これらの目的に,ガーゼという素材は全く無力である。
- ガーゼに意味があるとすれば,それは,出血を吸収し,多すぎる浸出液を吸収するためだろう。これ以外の意味をガーゼに見出すことは難しい。
- となると,手術後の傷の被覆に「滅菌ガーゼ」を使う意味があるのだろうか?
手術後の傷の被覆のためだけなら,「洗濯して汚れを落としたガーゼ」で十分なんじゃないだろうか? 理論的に,「滅菌ガーゼ」でなければいけない必然性は全くないと思われる。
- ちなみに私は,頭皮裂傷で縫合した場合,手術当日はガーゼをあてるが(出血を吸収するため),出血がなければ次の日からはガーゼ無しにしている(一切ドレッシングをあてない)。
「出血のためのガーゼ」と考えているので,当然である。
(2001/11/04)
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