創傷治療:雑感
- 局所麻酔
- 局所麻酔を痛くなく打つには,出来るだけ細い針で,ゆっくりと注射するのが原則。急速に注射すると薬剤が広がる時の痛みがある。
- 上記のような理由から筆者は,「1mlの針付き注射」を使用している(以前,インシュリン自己注射用に使われていたもの)。針が29Gと極細で,しかもゆっくり打つのに最適である。
- 傷がある場合,局所麻酔の注射は「創面」から行い,決して皮膚から刺さない。創面から刺すと痛くないが,皮膚からだと痛い。理由はそれだけである。
ちなみに,「創面から注射すると,深部に細菌を押し込めることになるために,してはいけない」と書いてある教科書もあるが,これは明らかに間違っている。注射針で押し込める細菌量では,感染は引き起こせないからだ。
- 創の洗浄
- 原則的に水道水でよい。この辺についてはAngeras MH, Brandberg A, Falk A, Seeman T.: Comparison between sterile saline and tap water for the cleaning of acute traumatic soft tissue wounds, Eur J Surg 1992 Jun-Jul;158(6-7):347-50で,動物実験で創の洗浄を水道水と生理食塩水で行い,両者で創の細菌数も感染率も有意差がなかったという実験からも明らかである。同様の内容はWOUND IRRIGATION AND TAP WATERでも言及されている。
- 骨折があり創外固定をしている場合でも,水道水による洗浄は可能である。特に,指の骨折などでのワイヤーは,そのまま洗っても全く問題がない。
ただし,水分で調節が狂ってしまうような精密な創外固定器を使用している場合は困るだろうが,その場合も,シャワー浴は可能である。
- 「傷を濡らしてはいけない」「傷を濡らすとばい菌が入る」と信じている医者も多数折られると思うが,洗っていない創面を自分の目で見て欲しい。垢が関東ローム層のように積み重なっているはずだ。これを見て「きれいだ」と思う医者がいたら,私はその感覚を疑う。
垢が積み重なっている創は非常に「汚い」のだ。垢が積み重なっている皮膚はばい菌だらけである。「傷は濡らしていけない」と思い込んでいる医者は,せっせと細菌培養にいそしんでいるようなものだ。「傷からばい菌が入らないように」というのなら,まず皮膚をきれいにしなければ始まらない。そのためにはまず傷を洗い,垢を落とすことである。
まして,垢の上を消毒するなんて,ナンセンスの極みである(イソジンなどの消毒薬は,垢などの有機物があるとすぐに失活してしまうのだから・・・)。
- 縫合創,あるいは開放創を洗う際,石鹸を使ってもいいかどうかも問題になる。基本的に石鹸は界面活性剤であり,創面の細胞に障害性を持っているのは確かである。
筆者は洗浄の際,周囲の皮膚の汚れは石鹸でなければ効果的に落とせないし,そのあと,十分量の水道水で洗い流せばそれほど障害性はないだろうと判断し,石鹸の使用は特に制限していない。
- 頭皮裂傷で創縫合した後,「傷を濡らしてはいけない」と洗髪を禁止する医者がいる。当然,患者さんは1週間にわたり,フケだらけの頭で暮らすことになる。こういうナンセンスな命令をする医者は,自分で「頭を洗わない1週間」を経験してみるべきであろう。それが以下に不合理で,馬鹿げた命令かわかるはずだ。
繰り返すが,頭部の縫合後の傷は,受傷翌日に洗髪しても,ほとんど痛くないし,さらに感染率は劇的に下がるはずだ。
- 滅菌水か水道水か?
- 前述のように,創感染は「異物・壊死組織」+「細菌」で起こり,細菌単独で起こることは極めて稀であり,創感染の予防,あるいは感染してしまった創の治療では,「細菌の除去」より「異物・壊死組織の除去」がより効果的であることは既に説明した。
創洗浄をする際,滅菌水がいいのか,滅菌されていない水道水でもいいのかは,この原理を理解すれば一目瞭然であろう。
- 創面の異物・壊死組織を洗い流すためには,できるだけ大量の流水で行うことが効果的であることは明白である。「少量の滅菌水」よりは「大量の水道の流水」の方が感染予防効果が高いのである。
もちろん,滅菌水を「湯水の如く」使えば,さらに効果が高いのかもしれないが,それはどう考えても非現実的だ。
水道水が決して無菌でないことを心配する人もいるだろうが,例え水道水に細菌が含まれていたとしても,ほとんどは無害な細菌であるし,まして流水である。流水中の細菌が創面に取り付くなど,どう考えても起こりえない現象であろう。
- 創洗浄の際,確かに生理食塩水の方が疼痛は少ない。これは事実である。しかし,私の経験上,創面を肉芽が覆ってしまえば,洗浄による疼痛はほとんどなくなるようだ。
患者さんの疼痛を最小限に・・・という場合は,最初の数日間は生理食塩水による洗浄を行い,その後,水道水洗浄に切り替えたほうがいいと思われる。
(2001/11/03)
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