有害商品・キズドライ


 まず,この2枚の写真を見ていただきたい。いずれも「キズドライ」という市販されている医薬品を使って,傷が化膿し,蜂窩織炎(皮膚・軟部組織が細菌で感染している状態のことを言う)を起こしている例である。

 特に左側の症例(膝小僧のすりむき傷)では,キズドライで乾いた傷の周囲が真っ赤に腫れあがっていることが明らかだ。この患者さんは,痛みのために歩くのも困難になり,病院を受診した。

 このように,すりむき傷にキズドライを散布した結果,ひどい蜂窩織炎を起こして病院を受診する例は少なくない。

 いわばこの商品は,「傷が化膿するために最適の環境」を作り出しているのだから,化膿するのは当たり前。化膿せずに治ることもあるかもしれないが,それはごく幸運だっただけに過ぎない。論理的には,こいつは化膿を引き起こすだけの商品であり,有害である。


 まずこの商品の商品コンセプトを見てみよう。

 製造・販売元の小○製薬の公式ホームページを見てみると「ジュクジュクした傷口にスプレーするだけで,スリ傷、キリ傷などの浸出液を吸収してサラサラにする殺菌消毒薬」と明記されている。

 さらにその商品特長として
  • 血液の存在下でも優れた殺菌力を持つ、新配合の殺菌成分「イソプロピルメチルフェノール」が傷口を殺菌消毒し、化膿を防ぎます
  • 白いパウダーが分泌液を吸収し、傷口をサラッとさせます
  • 局所麻酔薬「塩酸ジブカイン」が痛みを鎮めます
  • 「アラントイン」の創傷修復作用により、創傷面の皮ふ形成を促進し、傷の治りを早めます
 が挙げられている。

 また「出血が多いときは,ティッシュペーパーなどで血を拭き取ってからご使用ください」ともあるので,出血している傷に使える商品であることも明記している。
 さらに,このような説明図もつけられている。
 明らかに「傷がジュクジュクしているから傷が治らない。その点このキズドライはジュクジュクの原因である浸出液の分泌を押さえ,しかも,消毒・殺菌効果まで持っている画期的な商品だ」と言っていることが読み取れる。


 はっきり言って,これは自分たちが創傷治癒に関して全く無知であることを公表している宣伝文である。この会社は,創傷治癒について全く何も知らないのに,創傷の治療薬を売っているのである(これはまるで,風邪という病気のことを知らない企業が,風邪薬を作って売っているようなものだ)
 正しい知識を持たずに医薬品を作り,正しい治療の理論を全く反する商品を売るという企業姿勢は,このまま野放しにしていいのだろうか?
 これははっきり言って,犯罪行為ではないだろうか?


 私はこれまで説明してきたことが理解できれば,

 が正しい知識であることは,もうお判りだろうと思う。

 一般には「傷は乾かすと治る」「傷は消毒しないと化膿する」と信じられているかもしれないが,これらが全て嘘であることは,創傷治癒についてちょっと研究すればすぐにわかる。小○製薬が「傷を乾かして治す」「創面を殺菌する」ということを信じて製品を作っているのだとすると,それは「地震はナマズが起こす」「地球は平らだ」ということを信じているようなものだ。


 つまり,あらゆる意味において,この商品は誤った知識を基に作られているのだ。傷を乾かして治すというコンセプトも,傷を殺菌するというコンセプトも,全て間違っている。創傷治癒について,基本的に根本的に全面的に勘違いしている。

 例えて言えば,「地震探知計」と称してナマズを売っているようなものだ。普通,こんな商品を出したら笑いものだろう。小○製薬がしているのは,つまりそういうことだ。

 現在,このメーカーが笑いものになっていないのは,創傷治癒についての正しい知識をほとんどの人が持っていないからであり,130年前から続いている誤った知識を盲信している医者がほとんどを占めているからだ。
 しかし,間違っているものは間違っている。間違った知識に基づく商品でも,人体に害がなければほっといてもいいだろうが,この商品の場合,前述のように高率に感染を併発するのだ。これは外傷を扱う臨床医なら誰でも薄々感じているはずだ。


 さて,このようにキズドライで化膿した患者が来た場合の処置法だが,キズドライが固まってできる痂皮様なものが感染源になっているのは明らかなので,この除去を最初に行う。最初に示した例の場合,

@ A B

 @が初診時の状態。著明な発赤が認められる。局所麻酔下に創表面を覆っている痂皮様の組織を除去し(歯ブラシなどで軽く出血するまでデブリードマンしたほうがよい),アルギン酸被覆材で被覆(A)。Bは次の日の状態。発赤が消褪しているのがわかる。
 このような感染創の場合,創を密封することに躊躇する人が多いと思われるが,痂皮様の異物を完全に除去できたら,密封しても感染は進まず,むしろ感染症状が軽快していることが,この例からわかる。


 もう一つの例。肘の擦過傷にキズドライを使用し,3日後,あまりの痛みに受診した症例。

@ A B

 @は初診時の状態。直ちに局所麻酔科にデブリードマンを行い,アルギン酸塩で被覆し,Aは24時間後(この時点で疼痛は全くなくなった)。Bは5日目の状態で,アルギン酸塩の被覆で完全に上皮化している。


 キズドライをどうしても使いたいなら,出血のない傷に限るべきであろう。出血がある(=真皮が露出している)傷には絶対に使ってはいけない。治癒が遅れるか,下手すると化膿するのがおちだ。

 「キズドライを使って傷が治った経験があるけれど」というメールをいただくこともあるが,これはあくまで,表皮のごく表面だけの傷に使ったものと思われる。そういうごく浅い傷が治ったからといって,この商品を盲信するのは非常に危険だ。


 さてその後,このサイトのファンという方から「小○製薬に,キズドライについての疑問を問いただす電話をしてみたところ,とんでもない答えが返ってきました」とメールが来ました。彼の質問は次の3つ。

この質問に対し,回答したのは「キズドライの製品開発担当者」と名乗る人物。

 最初に質問に対しては,「医師にかかるような傷には使用しないでください。」の一点張り! 質問者が「キズドライを使ったために傷が化膿し,医者にかかる羽目になった症例がいるのだが」と問い詰めても,回答者は全く質問の意味が理解できなかったようで,要領を得なかったということでした。

 またどんな質問に対しても,「周囲の医者が問題ないと言っているので」というのを繰り返すだけだったそうです。さらに「キズドライに医学的科学的根拠はないんですか?」とつっこんだところ、周りの医師の意見からは・・・と言葉を濁すのみだったようで,確たる医学的根拠は示されなかったようです。

 要するに,開発担当者ですらその商品の医学的根拠を何も考えていないのは明らかなようです。要するにこの会社は,インチキ商品であろうと有害商品であろうと売れればいい,とお考えなのでしょう。これが卑しくも「医薬品」を開発販売しているのは,許しがたい犯罪行為ではないでしょうか。こんな商品を作っていて恥ずかしくないのでしょうか?

 さらに質問者が熱冷○シートについて「医療現場等では額よりも腋窩や頸部を冷却しますよね。」と質問したら,絶句し,それっきりだったそうです。要するに,医学の知識がない人が開発したのがこの会社の商品と思われます。

(2002/07/26)

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