創感染の主犯が細菌でなく,異物や壊死組織であることは説明した。実際の症例ではどのようなものが問題になるだろうか? 思いつくままに列記すると
まず痂皮(カサブタ)。これは前にも少し書いたが,平たく言えば「死んだ皮膚や血液が固まったもの」である。いわば,皮膚のミイラである。すりむき傷を乾かしたり,消毒を繰り返すと真皮が死に,これが痂皮になる。
一般には,「カサブタができると傷が治る」,「カサブタが出来たら剥がしてはダメ」とか「カサブタが出来ると傷が速く治る」なんて言われていると思うが,すべて間違いである。カサブタは「傷が治らない」状態そのものであり,あってはいけないものである。
事実,カサブタは異物であり,感染の温床にしかなっていない。
カサブタの周囲が赤く腫れたりすることはよく経験すると思うが,これがまさに「感染の4徴候」のうちの「腫脹」「発赤」に相当し,たいていの場合は熱を持ち,痛みを伴っているから,これぞ4徴候そろい踏み。これこそが「傷が化膿している」状態なのだ。
後述するように,カサブタを見つけたら即刻除去すべきである。カサブタのない状態にして,被覆材などを使えば見る見るうちに傷が治ってゆく。
次に縫合糸。
手術の際,絹糸は最もよく使われる手術材料だ。特に血管の結紮や皮膚の縫合にはよく使われる。しかし,時にこいつは創感染の原因になる。「縫合糸膿瘍」といって絹糸の周囲が赤く腫れあがり,膿が出ている状態だ。
実は絹糸が感染源になりやすい理由がある。絹糸は細い繊維が何本もより合わさって出来ている糸(撚り糸)だ。問題はこの「より合わさっている」こと。絹糸の繊維と繊維の間に細菌が入り込んでしまうと,人体はこれを排除できないのだ。
通常,組織の中に細菌が紛れ込んでも,好中球という細胞が出てきてこいつらを食べて排除するが,より合わさっている絹糸の繊維の間には,好中球はサイズ的に入り込めないらしい。つまり,絹糸にくっついた細菌は,通常の好中球による除去は出来ず,絹糸ごと除去しない限りずっとそこにとどまっている。
よく,手術の跡がぽつんと赤く腫れ,膿が出ることがあるが,これが縫合糸膿瘍だ。術後何年たっても,思いだしたように「発赤→排膿」を繰り返すことがあるが,これは絹糸を摘出しない限り治らない。
縫合糸膿瘍の治療は,縫合糸の除去であり,それ以外の治療はないし,それ以外の治療法(抗生物質の投与とか消毒とか)は不必要だ。
(2001/10/12)