傷を化膿させないために


 これらを踏まえて次の段階に行く。「傷が化膿しないようにする」ためにはどうしたらいいだろうか?

 細菌は異物・壊死組織と一緒だと傷を化膿させる。したがって,傷が化膿しないようにするには細菌を除去するのでなく,異物・壊死組織を除く方が大事だ,ということになる。これらがなければ,細菌はとてもおとなしい存在なのだ。創感染の予防は一にも二にも,異物・壊死組織の除去である。


 それでは,異物・壊死組織を除くにはどうしたらいいだろうか? 傷を消毒する? 消毒したって異物は除けない。もっとも効果的なのは直接取り除いてしまうこと(これを「外科的デブリードマン」という)であり,その次に有効なのは大量の水で洗い流すことだ。異物・壊死組織さえ取り除いてしまえば,細菌が創面にいたってもう感染は起こせない。つまり,創感染予防という観点からは,細菌の存在は無視してよいことになる。

 なぜ「傷は消毒してはいけないか」というと,前述のように消毒薬に「組織障害性」があることとともに,「消毒したところで感染を防ぐ効果がない」からだ。

 要するに,「細菌がいるから感染する」と誤解しているから,「化膿しないようにするためには細菌を除かなければいけない」→「傷は消毒しないと感染する」という方向になってしまうのだ。
 繰り返すが,創面に細菌がいたってかまわないのだ。異物・壊死組織さえなければ細菌は悪さをしないのである。


 それでは,化膿してしまった傷の場合はどうだろうか? この場合も,前述の

 という方程式(?)を考えると答えは明白。


 化膿している場合は,ベースには必ず異物や壊死組織が存在する。だからこれらを取り除いてやれば,細菌数は200個になるわけで,この細菌数では感染を起こすことはない。
 つまり,「化膿した傷」の場合も,細菌を除去するのでなく,感染源となっている異物・壊死組織を除去すべきなのである。「敵は本能寺にあり」でなく「敵は異物・壊死組織にあり」なのである。決して,倒すべき,排除すべき相手は細菌ではないのである。


 となると,化膿している傷の治療と称して,消毒することは正しいだろうか? もちろん答えは否。消毒したって感染源は取り除けない。化膿している傷の治療として最も効果的なのは,外科的な異物・壊死組織の除去であり,大量の水による洗浄である。

 つまり,

という事実が導き出せるのだ。

(2001/10/12)