というわけで,表皮欠損創(すりむき傷や熱傷,褥瘡など)をなぜガーゼで覆ってはいけないかという理由をまとめる。
ガーゼが傷を覆う材料として一般化したのは,1870年代から80年代の頃とされている。それまでもさまざまな素材が使われてきたが,手に入りやすいこと,安価なこと,滅菌処理しても材質が劣化しないことなどから,ガーゼは不動の地位を占めることとなった。
現在でも,ほとんどの医療施設では「傷といえばガーゼ」であり,ガーゼ以外の「傷を覆うもの」はごく稀にしか使われていないと思う。
その原因の一つはやはり,ガーゼが極めて安価なことだろうし,それ以上に,「傷といえばガーゼ」という知識があまりに基本的なものであるため,大部分の医療人にとって,よもやそれが間違っているかも・・・という考えが浮かぶことが皆無なためだろうと思う。
ほとんどの医者,看護婦,そして患者にとって「傷にはガーゼ」は,「カレーに福神漬け」「刺身にワサビ」「スキーにストック」「ショパンにピアノ」「プッチーニにオペラ」・・・同様,不可分の存在であり,この組み合わせ以外のものがあるなんて考えられないのだ。要するに,医者や看護婦になったその日から「傷にはガーゼ」と教え込まれてきたため,その組み合わせが本当に理想的かどうかを考えることすらなかったのだ。
事実,130年間にわたり,真実と教えられてきたものを否定するには,多大なエネルギーを必要とする。
だが,過去130年間信じられてこようと,500年間にわたり真理と捉えられてこようと,間違いは間違いである。
最新の知見から,ガーゼという素材が創傷治癒にとって理想的な素材でもなく,かえってそれを妨害するだけということが明らかになった現在,もうそろそろガーゼに引導を渡す時期ではないだろうか? 間違いだったとわかったとき,それを捨て去るだけの知性を持つべきではないだろうか?
過去の知識に引きずられて,患者を苦しめることはもう止めにしてもいいのではないだろうか?
(2001/10/02)