前章で毛穴と汗管の事を書いた。真皮層の中にある表皮,それが毛穴であり汗管だ。だから,表皮が欠損するような外傷(すりむき傷,熱傷など)があると,この「真皮の中に残った表皮」ともいうべき毛穴と汗管から表皮細胞が遊走し,傷の表面を覆い,それで傷が治癒するということになる。
これが表皮欠損創における「創傷治癒」のメカニズムである。模式図的に書くとこのようになる。
図でわかると思うが,表皮が欠損し,真皮が露出した傷では毛穴や汗管が顔を出している。ここから表皮細胞が周辺に遊離し,同時に,周辺(の健常な)皮膚からも表皮細胞が遊離することで,表皮が再生し,傷が治癒する。
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「真皮が表皮再生の鍵」というのはこういう意味である。つまり,表皮欠損創において毛穴(=真皮に残された表皮成分)さえ残っていれば,表皮はすぐに再生できる,というわけだ。
ということは,表皮欠損創の場合,真皮さえ生きていれば表皮は再生できるし,真皮が死んでしまえば表皮は再生できないということになる。極めて単純な理論である。
さて,この真皮であるが,これは非常に丈夫な組織である。血流が豊富なためだが,滅多なことでは死なず,感染にも非常に強い(少々ばい菌がついたって大丈夫,ってことですね)。
しかし,この真皮の唯一の弱点が乾燥なのである。乾燥させると真皮は,あれよあれよという間に死んでしまい,真っ黒い痂皮(カサブタ)になる。つまり痂皮は死んでしまった表皮と真皮のミイラなのである。
死んだものは生き返らない。死者は蘇らない。もちろん,ミイラも生き返ったりしない(・・・生き返ると主張した新興宗教もあるけどね・・・)。同様に,死んだ真皮は生き返らないし,痂皮(=ミイラ)からは表皮は再生しない。
(2001/10/01)