小児の手掌3度熱傷:プラスモイスト使用例


 症例は1歳9ヶ月男児。熱湯が手にかかって熱傷を受傷し,近医を受診し翌日当科を受診した。

初診時:3月22日 水疱を除去したところ プラスモイスト ドレッシング終了

 手掌尺側,小指指尖部などに水疱形成を認め,水疱膜を除去した。水疱膜を除去したところ,潰瘍底は白くなっていた。
 長方形のプラスモイストの真ん中あたりに直径2センチ弱の穴を開け,ここから母指を出し,残りの指と手掌をひとまとめにしてミトンのように覆った。


3月29日 4月3日 4月11日 4月16日

 小指指尖部は順調に上皮化したが,4月初めには手掌は写真のように3度熱傷の常態となった。この頃から,ドレッシングは手掌をすっぽり覆うようにしたが指は全て出して使えるようにした。過剰肉芽の収縮を期待し,プラスモイストにステロイド軟膏(デルモベート)を併用し,4月11日過ぎ頃から急速に肉芽収縮が認められた。


4月18日 4月23日 6月6日

 4月中旬には全て上皮化した。さらに1ヵ月半経過観察をしたが(転勤のため,これ以上は観察できなかった),小指の軽度の伸展障害を認めた。
 なお,治療の全期間を通じて屈曲拘縮予防のための装具などは使用せず,自由に指を使わせていた。


 乳児の手指では伸筋腱より屈筋腱の方が優位にあるため,一日の大半を指を握った状態で生活している。このため,掌側の熱傷では屈曲拘縮はほぼ必発であり,どんなことをしてもその発生を予防することは不可能だと思う。この症例でも軽度の小指伸展障害を認めているのはそのためであろう。

 だが,このような手指の屈曲拘縮は関節拘縮さえ起こさなければ数年後でも治療可能で伸ばせるようになる。だからこの症例では,伸展位に保持するようなシーネもつけなかったし,屈曲拘縮の予防も積極的にはしなかった。

 この子に指を使って欲しかったからである。


 子供は手指を使ってこそ脳が発達するといわれている。その大事な時期に,たかが屈曲拘縮予防のために指を使わせず,そのため脳が発達しなかったらそれこそ一大事であろう。瘢痕拘縮は手術で治療できるが,脳の発達の遅れは手術では治療できないのである。だからこの赤ちゃんには,思う存分,手を使ったもらった。

 その意味でも,私は「小児の手の熱傷は手の安静のために包帯をグルグル巻き・ドラえもん状態にする」という方針は間違っていると思う。手が使えないストレスがどれほど辛いものかは,「包帯ドラえもん好き医者」は自分の手を包帯でドラえもんにして一日過ごしてみるべきだろう。もしもそれで苦痛とストレスを感じるのであれば,赤ちゃんはそれ以上の苦痛をストレスを感じているのだ。

 熱傷の手を使うという目的にはドレッシングはなるべく薄いほうがいいし,そのためにはプラスモイストは結構いいと思う。

(2007/08/31)

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