「湿潤治療で熱傷を治療すると,それ以前になかった高熱を出したり敗血症を起こす症例が見られる」というのは紛れもない事実である。だが,熱傷治療だけ,あるいは湿潤治療だけ見ていてると,この問題の本質が見えてこない。その本質とは,カテーテル熱を考えるとよくわかるはずだ。
カテーテル熱はカテーテルが登場してから新たに発症した感染症であり,カテーテルがない時代には存在しなかった。当たり前である。これは「内視鏡検査,内視鏡手術に合併する消化管穿孔」とか,「解熱剤の副作用」と本質的に同じであって,内視鏡のない時代には「内視鏡による合併症」はなかったし,解熱剤がなかった時代には「解熱剤による副作用」も存在しなかった。同様に,「熱傷を湿潤治療した際の発熱」も湿潤治療が存在しなかった時代には発症しなかった。
もちろん,カテーテル熱の発生は次第に減っている。その発症原因,発症機序が明らかにされ,それを防ぐ方法が開発されたからだ。しかし,それでもカテーテル熱は発生している。そこには,皮膚の構造と皮膚常在菌の生育様式(刺入部皮膚を無菌にできたとしても,皮下で毛孔をかすめたらカテーテルは細菌汚染される),細菌という生物の本質(とりあえず水とエネルギー源があれば,どこでも生きていける)が絡んでいるからだ。だから,いくらカテーテル熱予防策を厳密に行っても,その発生をゼロにすることは不可能だ。
もしも,「カテーテル熱は絶対に発生してはいけない」と考えるのであれば,カテーテルそのものを廃止するしかない。カテーテル治療そのものを全廃すれば,カテーテル熱の発生は根絶できるだろう。同様に,内視鏡による合併症をゼロにしたかったら内視鏡治療を全廃すればいいし,解熱剤の合併症ゼロを目指すなら解熱剤をこの世からなくせば問題は解決する。
しかし,この解決法がいかに無意味かは,皆さん,ご存知の通りである。なぜかというと,カテーテルや内視鏡や解熱剤によってもたらされるメリットが,合併症というデメリットを凌駕しているからである。だからこそ,カテーテルや内視鏡治療が一般化したのであり,合併症込みで治療法を受け入れているのである。
では,熱傷での発熱をどう考えたらいいか。熱傷を湿潤治療すると発熱するのはこれまで発生したことがない問題である。なぜそれ以前にこの問題がなかったかといえば,「創面を乾燥させない熱傷治療」が存在しなかったからである。これはつまり,自動車ができる前には自動車事故がなかったのと同じだ。自動車が作られたから自動車事故が発生したのだ。
問題の本質は,この治療法のメリットとデメリット(副作用)を秤にかけたときにどちらがより大きいか,デメリット(副作用)込みで受け入れられる治療か,という点にあると思う。
(2007/06/08)