大多数の小児顔面裂創はテーピングで治療可能です。無理に押さえつけて大暴れさせながら縫合するのと,テーピングで治療するのでは結果はほとんど変わりません。少なくとも,縫合が下手な医者が縫合するよりは,格段にきれいに治ります。
症例は5歳男児。転倒して前額部を裂創。直ちに当科を受信。
初診時の状態 | テーピング | ガーゼと絆創膏で圧迫 |
翌日の状態 | 3日後の状態 | 5日後の状態 |
テーピングで治療をしてみるとわかりますが,このくらいの裂創なら十分に治療可能ですし,もっとパックリと開いている傷でも大丈夫です。2日間,テーピングと圧迫をしていればほとんど治癒しますし,その後,さらにテーピングを続けたりハイドロコロイドを貼付しておけばさらにきれいに治ります。この場合のテーピングの期間は1ヶ月以上必要で,3ヶ月くらいテーピングしておけばほとんどわからなくなります。
万一傷が残ったらどうしてくれるのか,という心配なさる先生もいらっしゃると思いますが,そんなときのために形成外科医が存在しています。傷をきれいにしたくてウズウズしているのが形成外科医ですから,どんどん形成外科医を活用(=紹介)しましょう。
とはいっても,私の経験では,修正が必要になった患者さんはこれまでいませんので,よほどのことがなければ修正手術は不要でしょう。
翌日は必ずテープを剥がして傷の様子を観察してください。テープを張りっぱなしにして,ごく稀にテープによる接触性皮膚炎を起こすことがありますし,血液などでテープが剥がれていることもあるからです。
また,圧迫が不十分だと血腫を作り,感染源になりますが,翌日診た時にそれに気がつけば対処できます。つまり,この時点で血腫除去ができれば感染を起こしませんので,翌日に十分に観察することがきわめて重要なのです。なお,この血腫はドレナージして除去するしかありませんので,必ずナイロン糸などでドレナージし,ハイドロサイトで吸収します。
ちなみに,小さく切ったガーゼを創内に入れる先生もいらっしゃいますが,ガーゼにドレナージ効果はほとんどありません。空気に触れた部分で滲出液中の蛋白が凝固し,その時点で毛管現象はストップします。
口唇や眼瞼などのテーピングができない部分の裂創で,縫合するまでもないけどちょっと不安,という場合は,軟膏(口内炎用軟膏か眼軟膏)を一日に何度も塗布して創面の乾燥を防ぐと,比較的早期に上皮化します。ちょっと広がった瘢痕で治癒した場合も,「肉芽は自然に収縮する」ため,数ヵ月後に見るとほとんど線状瘢痕になるようです。
よく,形成外科の先生から,「いくらテーピングがきれいといっても,形成外科の専門医が丁寧に縫合した方がきれいだろう。だから,顔面裂創は形成外科専門医に任せるべきだ。患者は最善の治療を受ける権利がある」と言われたこともあります。これは理想ですが実際には実現不可能です。日本全国津々浦々の病院に形成外科専門医がいるわけでないからです。現実に,多くの病院や診療所で顔面裂創を縫合しているのは形成外科医以外の外科系医師です。
私が「縫合するよりテーピングの方がきれい」といっているのは,こういう多くの「形成外科医以外に縫合されている」場合と比較してのことです。
形成外科医が丁寧に縫合したのを100点満点とすれば,形成外科医以外が縫合した顔面裂創は良くて50点でそれに達しないほうが多いです。それに比べ,駆け出しの研修医がテーピングと圧迫で治療したものは,確実に70点は取れます。この方法で,全ての研修医が70点取れるのであれば,そちらの方がいいのではないかと思います。
もしも,すべての裂創患者に100点満点の治療を使用とすれば,形成外科医を今の10倍に増やしても足りないでしょう。これは極めて非現実的です。
それなら,日本全国どこでも70点の治療が受けられた方が,お互い幸せじゃないかと思いますが,如何でしょうか。
平成24年度の診療報酬改定で,「局麻を使用しない小児の裂傷の治療にも縫合と同じに算定してよい」となった。
小児創傷処理(筋肉に達しない2.5cm未満の創傷) 440点
疑義解釈資料その1(平成24年3月30日)
- (問175)小児創傷処理(6歳未満)について、切創、刺創、割創又は挫創に対して、ボンド又はテープにより創傷処理を行った場合に算定できるか。
- (答)6歳未満の患者であって、筋肉、臓器に達しない創傷に対して、切除、結紮又は縫合と医療上同等の創傷処理を行った場合は、算定して差し支えない。
- ex) 6歳未満の創傷患者に、局麻剤を用いず、ステリストリップで創の処理を行った場合。
(2012/06/07)