人体はブラックボックス


 なぜ治療法はパラダイム(=正しいかどうかは不明だが,とりあえず多くの人が正しいと思っている)になってしまうのだろうか。それは,人体が巨大なブラックボックスだからである。ブラックボックスだから,あるインプット(医療行為)をして状態改善というアウトプット(治療結果)が得られたとしても,それがインプットが直接的に病気を治した結果なのか,あるいは,治癒を阻害する因子を除去することで間接的に状態を改善したのかが不明瞭なことが少なくない。

 物理であれば「気体にかける圧力を倍にすると体積が半分になる」と単純明快だが,ブラックボックスである人体では,「風が吹くと桶屋が儲かる」式の反応が多く,風が吹いたから桶屋が儲かったのか,猫が少なくなったから桶屋が儲かったのか,その両方なのか,そのいずれでもなく偶然桶屋が儲かったのか,それが判然としないのである。人体があまりに複雑膨大なシステムであり,一つの反応(現象)に複数の因子が絡んでいて,それらが複雑に相互作用し合っているからだ。

 だが,臨床現場では因果関係があろうとなかろうと,とりあえず状態を改善させなければいけない。だから,科学的因果関係がなくてもとりあえず治療法が広まることがある。理由付けは後からやってくる世界だからだ。だから,「栄養不足では病気が治らないだろうから,栄養をつければ病気がよくなるはずだ。だから褥瘡治療も栄養管理が必要だ」というような,とってつけたような説明がまかり通って,いつの間にか「常識」になってしまうことが珍しくない。

 しかし,そのような因果関係不明の治療法であっても医学界や社会に広まってしまえばパラダイムとして確立してしまうし,パラダイムになってしまえばそれは常識になり,正しいかどうかを疑う人は滅多に出てこなくなる。まさに,ブラックボックスなるがゆえに,因習的治療,伝承的治療が除去できないのである。

(2007/02/05)

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