熱湯による熱傷が3度熱傷になるわけがない!


 いつも思うのだが,熱湯による火傷が3度熱傷になるわけがない。常識で考えれば絶対にそうなる。だって,いくら熱湯と言ったって熱湯の中に漬かっているわけじゃあるまいし,意識がある患者なら反射的に熱湯を払いのけ,そばにあるティッシュかなんかで拭き取り,水道で冷やすはずだ。漫然とお湯がかかった状態を維持している人なんていないって。熱湯に皮膚が接触している時間は数秒から長くて10秒くらいだろう。
 であれば,熱による皮膚の損傷もせいぜい10秒程度しか続いていないのではないだろうか。

 となると,この「熱湯による皮膚損傷」で3度熱傷が起こるのか,起こせるのか,という点が不思議になってこないだろうか。


 もちろん,熱に触れたために血管攣縮がおきるとか,サイトカインが遊離するとか,さまざまな現象が起こることは解明されていることは知っている。しかし,それらをいくら積み重ねたとしても,熱湯での熱傷が3度熱傷になることは説明できないのだ。だって,そのわずかな時間で表皮と真皮全層が損傷を受けて壊死するなんて,どう考えてもありえないもの。
 創面全体で血管攣縮が起き,それが長時間続いて皮膚への血流が途絶するというなら3度熱傷(皮膚全層壊死)になっても不思議ないけど,そんなことってある? だって,皮膚への血流って結局は筋膜を貫く穿通枝動脈で,ここから途絶しないと皮膚壊死にはならないはずだ。そんな血管攣縮が皮膚表面の損傷で起こせるの?

 実際私は,現在の湿潤治療に切り替えてから,熱湯による熱傷で3度熱傷になった例は2例ほどしか診たことがない。数百例中で2例である。その2例も,てんかん発作を起こして意識消失して鍋に手を入れて煮込んでしまった1例と,意識消失発作で熱湯を浴びた1例のみである。要するに,受傷時に意識があって運動障害もない患者は3度熱傷にならないのである。

 もちろん,受傷直後から3度熱傷であることはあるが,それは低温熱傷とか,ドロドロに溶けたコールタールを浴びたとか,ガソリンをかぶって火をつけたとか,そういう特殊状況での熱傷のみである。


 他の病院で3度熱傷と診断され植皮が必要だと説明された患者を診る機会が多いが,本当に3度熱傷だったのは半分もない。半数以上は2度の深い熱傷で真皮下層が保たれていて,湿潤状態さえ維持していれば勝手に治る熱傷であり,実際その通りに治っている。実際,幾つかの大学病院で3度熱傷と診断され,セカンドオピニオンとして紹介された患者はすべて2度熱傷であり,湿潤治療で速いもので10日くらい,遅い場合でも1ヵ月半くらいで治癒している。

 大学病院以外にも,さまざまな熱傷センターで3度熱傷と診断を受けた患者が,ことごとく2度熱傷なのである。これらについては全例で経過写真を撮っているから,証拠はばっちりである。


 ということは,その熱傷専門医が3度熱傷をきちんと診断できていないのである。もしかしたらそのお医者様は,熱傷の診断がきちんとできていないのではないかと思われる。この程度の診断もできないで「熱傷専門医」とは笑止千万である。

 で,こういう「治療の経過で3度になりました」という熱傷症例の経過を見ていると,それまで真皮層が保たれている2度だったのに,ガーゼを剥がすたびに傷が深くなり,ゲーベンを塗るたびに皮膚が壊死し,ユーパスタを塗るたびに傷が乾いて痂皮となり,それが剥がれると3度熱傷になっている・・・という経過をたどっているはずだ。

 皮膚が熱により損傷を受けるのは上述のように受傷直後だけである。それ以後は熱はない。とすれば,「段階的に熱による皮膚の破壊が進行」するわけがない。これは医学の常識以前の問題で,簡単な理科の知識である。
 とすれば,皮膚損傷が進行したのは熱湯による最初の損傷ではなく,自分たちの治療方法(創を消毒する,ゲーベンを塗りたくる,ユーパスタ・ガーゼをあてる・・・)が悪化の原因だって,常識ある医者なら気がつきそうなものだ

 このように考えると,本当は2度熱傷で保存的治療で治癒するものなのに,医者の診断の間違いで3度熱傷と診断され,植皮術が行われている例が全国各地でかなりの数に登るのではないかと思われる。医者が無能なために手術となる患者さんこそ,いい迷惑である。


 別に熱傷専門医に恨みがあるわけではないが,熱湯による熱傷が3度になるのを見ても不思議に思わないのは,自分の目で熱傷創を見ていない証拠だと思う。自分の頭を使って患者を診ているのなら,どこかでその異常さに気がつきそうなものだ。

 専門医を名乗るなら,最低限,自分の脳味噌を使いながら診察しろ! 自分の頭で考えながら治療にあたれ! それができないなら,専門医を名乗るな!

(2007/01/26)

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