以前から何度か掲示板で話題になっているのが「蛆によるデブリードマン」である。
これと湿潤治療のデブリードマンの違いについてちょっと考察してみた。例によって眉唾かもしれないが,お付き合いの程を・・・。
まず,壊死組織のある傷の断面は下図のようになっているはずだ。黒色壊死(あるいは壊死組織)の下には肉芽組織があり,その下に健常組織がある。
ちなみに,このような壊死組織がある創が創感染を起こすのは,下図のように壊死組織の下に浸出液などが溜まり,ここに細菌が侵入して繁殖するのが始まりだと私は考えている。壊死組織の下に溜まった浸出液は血液循環の支配下ではないので,抗生剤を投与しても届かないし,免疫細胞も入り込めない。一方,浸出液だから蛋白質だらけで温かく,繁殖には絶好である。
したがって,壊死組織を伴った創の感染では抗生剤の投与は本質的な治療にはならない(蜂窩織炎の治療にはなるが・・・)。本質的な治療とは溜まった液体を外に出すか,あるいは壊死組織全体の除去である。前者はドレナージ,つまり黒色壊死に穴を開けて液体がたまらないようにすればいいし,後者はデブリードマンである。
さて,デブリードマンには2種類ある。壊死組織表面側からの壊死組織除去と,壊死組織診部(=肉芽面)からの除去である。
下図が「壊死組織表面からのデブリードマン」だ。これに相当するのが蛆(マゴット)によるデブリと,外科的切除だ。壊死組織表面に放たれた蛆は表面から壊死組織を食っていき,やがて壊死組織は薄くなり,最後には消失する。外科的デブリもこれと同様の経過をたどる。
一方,肉芽面からのデブリは下図のようになる。すなわち,肉芽から分泌される浸出液に含まれる蛋白分解酵素の働きで,壊死組織が肉芽面から浮き上がり,一気に除去できるのがこの方法の特徴だ。なお,上述の理由から,この状態は感染しやすい状態でもあるので,適度にドレナージを行いつつ経過観察する必要があるだろう。
要するに同じように見える壊死組織のデブリでも,その様式は異なっているのだ。どちらの方が効率がいいかは一概に言えないことは上記の模式図から明らかだ。
恐らく,「肉芽面からのデブリ」は最終的には浸出液の量とその中の蛋白分解酵素の量で決まるだろうから,局所治療が正しければどんなに厚い壊死組織だろうと薄い壊死組織だろうと同じ速度で肉芽面から除去できるだろう。
一方,表面からのデブリでは壊死組織の体積がもろに効いてくるはずだし,結局,蛆を使ったデブリ速度は蛆の食欲と蛆の数(密度)のみの関数となるだろう。
また,蛆によるデブリでは蛆が逃げ出さないようにフィルムで覆っているとすれば,それは図らずも湿潤治療を併用していることになり,この場合は「肉芽からのデブリ」も同時に起こっていることが予想される。
となると,蛆によるデブリがどれほどの治療効果(=壊死組織除去作用)を持つかについて判定するのであれば,「黒色・黄色壊死が覆っていて何もしない」のをコントロールにして,「フィルム(ラップ)単独群」とし,それと「蛆+フィルム」,「蛆単独でフィルムなし」を比較しなければ,治療効果については判断できないのである。
(2006/12/06)