ダニ切除の方法
当院は農村地帯にあり、また自衛隊駐屯地・演習場を持つため、この時期(4月〜7月)はダニ咬症(マダニ)の患者さんが極めて多い。マダニは人に食いつくと同時に唾液を分泌し、これが石灰化するため引っ張っても取れず、外科的切除を要する。当院で行っているダニ切除法を供覧する。
- ダニ咬症(下顎部)の症例である(図1)。シュルツェマダニの幼虫と思われるが、血液をかなり吸っており、噛まれてから少なくとも1日以上経過していると考えられる。この状態では引っ張っても取ることは不可能であり、無理に引っ張ろうとすると頭部が皮膚に遺残し、頭部切除に難儀することになる。
- まず1%キシロカインにて局所麻酔を行う(図2)。キシロカインの量は0.2〜0.3mlもあれば十分である。
- 次にダニの胸部をアドソンの摂子で掴み、ダニの体軸と「水平」にダニ頭部ぎりぎりのところにメスを入れる(図3)。メスを入れる深さは2〜3mm程度で十分である。噛まれてから時間がたっていないケースではこれだけで取れることがある。ダニの腹部は掴んではならない。ダニ消化管内に存在するライム病ボレリアなどを腹部を掴むことでわざわざ皮膚に注入することになる。
- 上の操作で取れないときは反対側(最初にダニの背側からメスを入れた場合は腹側から)もやはりダニの体軸と水平に、かつダニ頭部ぎりぎりにメスを入れる(図4)。99%の症例ではこの2つの操作でダニ摘除が可能である。
- 切除後のダニである。矢印の部分にダニの頭部がちゃんと残っているのが分かる(図5)。
- 傷跡はスピッツメスの大きさと比較して分かるように極めて小さい(図6)。もちろん縫合は不要である。後処置はカットバン程度で十分である。切除後はライム病予防のためアジスロマイシン(ジスロマック)500mg/dayを3日間投与する。
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- マダニは様々な病原体を媒介するが、特にライム病は頻度が高く神経障害、心筋症などを来すこともあるため要注意である。以前勤務していた病院で認めたライム病による遊走性紅斑の症例を写真に呈示する(図7)。ジスロマック投与でライム病治療期間が有意に短縮できるという報告もあり、1日1回服用で良いため服薬コンプライアンスも高い。予防投与としては有用であると考える。
兼古 稔(misama@gaea.ocn.ne.jp)
(2006/06/01)
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