母指先端に潰瘍を生じた非定型抗酸菌症の1例(投稿)

鳥取県立中央病院皮膚科 河上真巳


 鳥取中央病院の河上先生から興味深い経過をたどった非定型抗酸菌による難治性潰瘍の症例の投稿をいただきましたので,公開させていただきます。


 56歳女性の右拇指先端に生じた潰瘍および結節。土いじり(農作業)はよく行うが、熱帯魚等の魚飼育歴はない。また、患指の外傷の既往は明らかではない。

右拇指に自覚症状のない発赤腫脹が生じ、近医で切開排膿等による処置を受けたが改善しないため当科紹介された。初診時の所見(図1)。右第1指先端に点状潰瘍及び膿疱を呈していた。初診時の同指のX-p所見(図2)。末節骨にpunched out lesionを認めた。

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 初診時、真菌症のスポロトリコーシス(リンパ管型)を疑い、ヨウ化カリウム内服、点状潰瘍に対しては流水洗浄後ハイドロジェルを用いた湿潤療法処置を2週間行うも症状増悪、右第1指尖部の膿疱は自壊して潰瘍は拡大傾向を示し(図3)、潰瘍はゾンデで確認したところ、末節骨直上まで達していた。初診時に行った膿汁、及び潰瘍から採取した組織片についてそれぞれ一般細菌培養、真菌培養行ったが陰性。またスポロトリキン皮内反応も陰性。

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 次は非定型抗酸菌症を疑い、再度、潰瘍部から組織片を採取し抗酸菌培養を提出、診断的治療を兼ねてミノサイクリン200mg/日及びガチフロキサシン300mg/日内服、潰瘍に対しては消毒を行わず徹底した水道水による流水洗浄(注射器シリンジで潰瘍内腔に水圧をかけて洗浄)の上、白色ワセリンを用いたフィルムドレッシング処置を1週間行ったところ潰瘍は縮小傾向を認めた。抗酸菌培養同定結果が判明するまで同治療を3週間続行した。

 3週間後にようやく抗酸菌培養にて菌の発育を認め、DDH法(DNA-DNA hybridization)にて本菌はMycobacterium marinum(以下、M.marinumと略)と同定された。起炎菌をM.marinumと同定してからは内服薬はミノサイクリン200mg/日単独投与とし、創部を乾燥させず湿潤環境を保つよう心がけた。治療開始2ヵ月後には指尖部の潰瘍は閉鎖したため、本人の判断でフィルムドレッシングは中断していた(図4)。この時点で再度、右第1指のX線写真を撮影してみたが、末節骨のpunched out legionは初診時と変わらず残したままであった(図5)。この所見は起炎菌による骨髄炎の可能性があった、との当院整形外科医談。ミノサイクリンは投与開始から合計6ヶ月間内服し終了。その時点での写真(図6)。その後現在に至るまで症状再発を認めず、患指の機能障害も認めない。

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 本症例についてはM.marinumに感受性のあるミノサイクリン投与が治療に有効であったが、潰瘍に対してはやはり消毒とガーゼを廃し、流水洗浄と湿潤療法が奏功したと思われる。結局、末節骨に生じた破壊病変はそのまま残してしまったが、何とか整容的にも機能的にも不満のないレベルで改善することが出来、再発することなく今日まで経過している。

(2006/03/11)

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