この症候群では外胚葉形成不全が必発とされる。上記のように薄い頭髪,爪の形成不全,歯牙の欠損,口腔前庭小帯多発などがそれにあたる,とされていて,自験例は全ての症状が揃っていた。
細い毛が疎に生えているのが本症候群の特徴とされていて,初診時の自験例(当時生後1ヶ月)もそうだった。ところが2歳,3歳となるにつれて髪が次第に増えてきて,密度も色も全く正常になったのである。考えてみたら,生まれたてから真っ黒な髪がフサフサ,なんて赤ん坊はいないのである。そこらの赤ん坊をみていると,1歳頃まで髪の毛が薄かったのに,いつの間にかフサフサに,なんてことは珍しくもなんともない。となると,生後2ヶ月や3ヶ月の時点で「髪の毛の密度がまばらだから外胚葉形成不全だ」とは言えないことになる。実際,初診時の印象では「髪の毛が薄いといわれればそういう気もするけど・・・」という程度だった。
それから爪形成不全。自験例では確かに全ての指で爪が欠損していたり,小さな爪だった。ところが,指のレントゲン写真を撮ってみると,末節骨の形成不全も合併しているのだ。もちろん,中胚葉形成不全の症状である。
末節骨と爪の形成には非常に密接な関係があり,爪の形成は末節骨によって誘導される,という論文を当時読んだ記憶がある。実際,先天性の爪異常で手指のレントゲンを撮ると,末節骨の異常がほとんどの例で見つかる(例:先天性示指爪甲不全症)。こういう場合,「爪の欠損があるから外胚葉形成不全」と言えるのだろうか。これはもしかしたら,末節骨形成不全(=中胚葉形成不全)の続発症状であって,外胚葉形成不全ではないのではないか。
このように,外胚葉形成不全の症状についてまとめていくうちに,何がなんだか判らなくなってしまった。
この症候群は,どんな先天異常の教科書にも取り上げられているものであり,どれにも「外胚葉形成不全あり」と明記されている。症例報告の全ての論文で「頭髪が薄く,爪が欠損」と書かれているためだ(歯牙については記載していない論文がある)。だから教科書には外胚葉形成不全の合併率は100%と書かれている。過去の報告例をまとめて症候群の臨床像をまとめるため,当然そうなるはずだ。
しかし,実際の患者さんを長期間追跡していくと,外胚葉形成不全といえるかどうか,判断がつけられなくなってしまったのだ。
(2006/01/05)