常在菌が定着している組織(皮膚や粘膜)の消毒


 常在菌が定着している組織(皮膚や粘膜)の消毒をどう考えたらいいか,ですが,消毒の対象が通過菌なのか常在菌なのかを考えれば,答えが出そうです。

  1. 皮膚や粘膜に付着している外来菌(通過菌,病原菌)を除去するためには,1回限りの消毒をするのは問題ない(例:執刀前の術野の消毒)

  2. 皮膚常在菌のうち,表皮ブドウ球菌が感染を起こすのは末期的日和見感染などかなりまれな状況であることがわかっている。つまり,感染予防のために表皮ブドウ球菌しかいない皮膚(=通過菌がいない)を消毒するのは意味がない。

  3. 表皮ブドウ球菌が起こす感染は,カテーテル刺入直後のカテーテル熱,関節穿刺直後の化膿性関節炎など,特殊な状況のみである。つまり,感染予防のために皮膚の消毒を繰り返す必要はなく,これらの操作をする直前のみでよい。

  4. 表皮ブドウ球菌を減少させる(例:頻回の消毒)行為は,皮膚表面にMRSAなどの病原菌が定着する原因となる。すなわち,一生懸命消毒薬などで手洗いすればするほど,院内感染が増える。

  5. 表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌が定着している皮膚(粘膜)では,外来菌(病原菌)が定着することは生物学的に不可能である。病原菌が定着できるのは,医師や看護師が常在菌を除去してくれたときのみであり,医原性である。

  6. 術野を消毒薬含有ドレープで覆うなら,速やかに消毒効果が消滅し,消毒効果が持続しないものが望ましい(=通過菌を除去し,常在菌叢をできるだけ乱さないため)

  7. 通過菌を除去する目的であれば,消毒と物理的洗浄(=水道水洗浄)は同等の効果と考えられる。

  8. 前記から,人工刺入物(各種カテーテル,骨折固定用のピン,縫合糸,PEG,気管切開など)の刺入部の感染予防としては,消毒と洗浄は同等であることが結論できる。

  9. 執刀前の手洗いも,手に付着している通過菌を除去するためには有効だが,通過菌が付着していなければ「感染予防」としては無意味である。

  10. 創周囲の皮膚を繰り返し石鹸で洗うと感染を助長する。垢を落とす程度なら問題ないが,それ以上の洗浄は危険である。


 要するに,通過菌の除去のためには1回だけ消毒するか洗浄すればいい,通過菌が除去できたらそれ以後の消毒(洗浄)は無駄でありむしろ危険,ということになります。

(2005/12/27)

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