「肉芽は皮膚と同様に,深部で作られて次第に表面に向かって移動し,表面に達したものから剥がれ落ちる」という鳥谷部先生の仮説である。このターンオーバーが正常に回っている肉芽が「健康な肉芽」,即ち「早期に治癒する肉芽」であり,ターンオーバーがうまく動いていないのが「不良肉芽」,つまり「なかなか治らない肉芽」である。ターンオーバーがうまくいかないから肉芽がブヨブヨして変に水っぽいとも考えられる。
鳥谷部先生によると,この状態は『行く川の流れは絶えずして,しかも元の流れにあらず』なんだそうである。「川の水(肉芽表面)はいつも同じに見えるが,常に流れていて(ターンオーバーがあって)新たな水なんだよ」ということらしい。ちなみに鳥谷部先生は,これとかシェークスピアとか,文学上の名句,警句をもじって使うのが好きである。
この仮説の良いところは,「治癒が速い肉芽は常に表面が新鮮に見え,創感染も起こらないが,治癒が遅れている肉芽表面は新鮮さに欠け,しかも感染する事がある」という現実を一義的に説明できる点にある。特にに感染については,肉芽表面が細菌と共にはがれ落ちる事で細菌数が増えないようになっているのと,深部から表面への物質の移動が細菌の深部への侵入を物理的に防いでいる事で,うまく説明できるようだ。
さらにこの仮説は,いつの時点まで肉芽形成が続くのか,何が肉芽形成をストップさせるのか,肉芽形成ストップに上皮化完了がどのように関与しているのかなど,面白い問題を幾つも提示できるところにある。
実際にこれが本当なのか,単なる与太話なのかは実感すれば比較的簡単に証明できると思う。実験設備と時間がある人,やってみませんか?
(2005/10/11)