MRSAがいなくなっても創面は無菌にならない


 ここで,「MRSAが出た! 大変だ! 院内感染だ! 効く抗生剤はバンコマイシンしかない!」と考えて,バンコマイシンを投与したり強力な消毒をするとどうなるだろうか。

 運良く,MRSAが検出されなくなったとしよう。では創面(肉芽)は無菌になっているだろうか。

 ここで前述の「無菌の皮膚の傷(皮膚に連続した傷)はない」という原理が効いてくる。MRSAを除去するとそこは「細菌空白地帯」になり,別の細菌がそこに侵入するのだ。この細菌の侵入を防ぐことは理論的に不可能である。傷口にバリケードを張ろうが,滅菌ガーゼで覆おうが,滅菌フィルムを張ろうが,進入禁止の立て札を立てようが,消毒薬の風呂に一日中患者を漬けようが,イソジンゲルで全身の皮膚を覆おうが,全て無駄である。細菌は必ずどこかからか入り込む。それが細菌という生物であり,入り込めないなら細菌ではない。


 「湿った栄養豊富な無菌地帯(=創面)」で次に登場するのは緑膿菌であることが多いようだ。普段皮膚にいる細菌ではないが,糞便にはいくらでもいるし,病院内だったら水周りには結構生息している。だから,MRSAが消えた無菌の創にこいつが登場する。。

 これを生態系的に考えると,次の3つの解釈が成り立ちそうだ。

  1. 肉芽面が消毒薬などで荒らされ,MRSA(黄色ブドウ球菌)生存に適さない状態になり,逆に緑膿菌に絶好な状態の肉芽になった
  2. 消毒などで肉芽の状態が変化し,緑膿菌しか棲めなくなった
  3. たまたま定着した緑膿菌が,自分の棲息に絶好の状態に環境(肉芽の状態)を変えた(働きかけた)
 多分,これらが複合的に関わっているのかな(・・・山勘だけど)

 そして,緑膿菌を消そうとするとどうなるか。多分その次はカンジダだな。創面が消毒や薬剤で変化してカンジダしか棲めなくなったか,カンジダに絶好の条件に変わったか,解釈はどちらでもいい。いずれにしてもカンジダが登場する。
 そしてカンジダを消すと,さらに面倒なカビか,さらに変な細菌だろう。要するにある細菌を消してしまっても,その創面(肉芽面)は別の細菌の培地でしかないのだ。
 しつこいようだが,栄養があって湿度があって温度が適しているような部分があって,細菌がそこに目をつけないわけがないし,細菌はそれに気が付かないような間抜けではない。


 要するに,「創面からMRSAが検出された! 院内感染だから皆殺しだ!」と考えると,エンドレスの細菌交代無限地獄に嵌まり込むしかないのだ。創面は無菌にはならないから当然である。

 「MRSAは困るが,緑膿菌はもっと困る。何とかして細菌が一つもいない傷にならないものか」と考えてもそれは無駄である。創面の細菌を消す手段はただ一つ,傷を治す,つまり細菌の居場所をなくす事である。居場所があるから菌がいるだけであって,居場所がなくなれば菌なんて消えてしまうのだ。

 消毒などで細菌が一時的にいなくなったとしても,それはその細菌に適した肉芽の状態でなくなったから撤退しただけであって,その状態を好む別の細菌にとっては絶好の繁殖地だったりするわけだ。まして,消毒薬の中で好んで繁殖する細菌も現実に存在するわけで,そういう細菌にとっては日々の消毒は,自分たちの絶好の環境を提供してくれる「ありがたい行為」でしかないのである。
 ここに消毒の無意味さがよく現れている。


 要するに,傷が治ってしまえば緑膿菌は消えてしまうのだから,緑膿菌を消すためには「治癒の速い肉芽」の状態,すなわち黄色ブドウ球菌が生息できる肉芽環境(これについては後述する)に戻すのが最善ではないか,とならないだろうか。つまり,消毒薬などの組織破壊性のある薬剤や軟膏(ゲーベンクリームやユーパスタ,ブロメライン軟膏など)の使用を止め,抗生剤の投与を止め,ガーゼを創内に詰め込むのを止めれば,再生能力が残っていれば肉芽の状態が改善し,肉芽増殖が再開するはずだ。


 創面からMRSAが検出されたと大騒ぎしている医師,看護師に問いたい。あなたは一体,創面にどういう細菌がいたら安心するのか。どういう細菌なら創面にいていいのか。MRSAでなく緑膿菌がいれば安心するのか,カンジダが検出されればいいのか,プロテウスなら安心なのか,大腸菌なら許せるのか・・・。どういう細菌がいる状態を理想として治療をしているのか。

 傷が無菌という状態がありえない以上,MRSAを排除するのなら,そこにいて欲しい細菌を想定しておくべきである。「MRSAを消したら緑膿菌が!」と大騒ぎするのは愚の骨頂である。そのあたりが全くわかっていない医者,看護師が多すぎて悲しくなるぞ。

(2005/09/29)