高齢者皮膚は極めて脆弱でわずかな刺激で剥離することが多い。当院の経験では背部褥瘡の処置中に体を支えていたわずか3分の間に、支えていた部位の皮膚剥離を来したこともある。当院では従来皮膚剥離創は局所麻酔下に縫合していたが、2004年頃よりテープ固定+湿潤療法(OWT)に変更し、従来法に比べ極めて安価かつ苦痛なく処置し得たので報告する。
対象症例は80〜93歳(平均年齢88.3歳)の当院入院患者15人30例。部位は四肢27例、背部3例。
うち1例の治療経過を写真にて供覧する。
受傷当日
図のように右手背に出来た皮膚剥離の場合、まず看護師が外科医師に報告し、ラップを巻いておく。ラップを巻いて数分でほぼ全例止血が得られたが、止血しにくかった症例ではアルギン酸塩ドレッシング材をあて、上からラップした。ラップは皮膚にテープ固定しない。
創縫合の基本通り、皮膚を内翻させないように丁寧に摂子で伸ばす。局所麻酔は用いないが、患者が痛がったことはない。もし痛がる場合はキシロカインゼリーをラップに密封して5分もおけば無痛で出来ると思われる。皮膚を伸ばす時、上の写真のようにアドソンの無鉤摂子を使うと比較的容易に皮膚を戻すことが出来る。アドソンの無鉤摂子はバネ力が比較的弱いので脆弱な皮弁でも傷めにくく、比較的安価(1本3000〜4000円)であるため、このような作業には大変向いている。
皮膚を伸ばし終わったらサージカルテープ(ロイコストリップR)を用い、皮弁を固定する。
次に上のようにラップを当てる。四肢の場合には全周に巻けばテープ固定の必要が無く、副損傷を作らずに済む。背部など体幹部の場合はやむを得ず広めにラップを当て、皮膚に優しいテープ(優肌絆R、スキナゲートRなど)をもちいて固定する。
その後、上のように厚めに包帯固定する。これはラップの固定と言うよりむしろクッション目的の意味合いが強い。体幹部では包帯固定は行わない。上のようにエスパ帯で固定をすると末梢部に浮腫を生じることもあるので、最近では緩いストッキネットをクッション目的で上にかぶせている。ストッキネットでもラップはずれたことがない。
処置翌日は浸出液のため、サージカルテープが緩んでいるのでこれを交換する。処置後3日目には皮弁がほぼ固着しているのでサージカルテープはもはや不要となる。
受傷後7日目の状態である。ほとんど傷跡が分からない状態になっている。
本法を15人30例に行い、背部で皮弁壊死した1例を除き、5〜7日で治癒し得た。皮弁壊死した症例も皮弁を除去し、受傷から3週間で治癒し得た。
本法は極めて安価に行えること、患者に苦痛がないことに加え、接着性のある被覆材のように副損傷を作る心配がない、厚みのないラップを用いることで背部など圧のかかる部位でも比較的治癒がよいなど利点が多い。また、30例中10例以上は筆者が不在中の受傷で、看護師より受傷の報告を受けラップを巻いておくことだけを指示し、翌日に皮弁を戻しているが治癒遅延はなかった。最長のものでは受傷後2日目に皮弁を戻しても生着している。よって当院のように小規模で外科医師が常に常駐できないような施設では極めてメリットが大きい。もちろん処置に湿潤療法と同様の同意書が必要なのは言うまでもない。
従来の皮弁縫合やガーゼ軟膏処置は論外としても、他の被覆材に比べても薄く接着性のないラップは高齢者皮膚剥離には有利な点が多いと思われる。
(2005/09/15)