スキン・ステープラーはよくない


 スキン・ステープラー,わかりやすくいうと皮膚縫合用のホッチキスである(ちなみにホッチキスは登録商標であり,ステープラーが一般名となる)。簡便なため好んで縫合に用いる医者がいるが,私はこれが大嫌いだ。理由は二つ,

  1. 抜くまで痛い。抜く時も痛い。
  2. きれいに縫えない。

 要するにこれは,「医者に優しく,患者に酷い」縫合手段である。


 まず「痛み」について。以前,私の同僚の医者が事故で四肢に多発列挫創を受傷し,事故現場近くの救急病院で縫合処置を受け,その後,私が傷の治療をしたことがある。傷の一部はナイロン糸で縫われ,それ以外はステープラーで縫われていたが,彼によると,糸で縫合された部分は全く痛くないのに,ステープラーで縫われた部分は鈍痛が続いているという。痛いから速く抜いて欲しいと言っていた。

 同様に,後頭部裂傷に対してステープラーで縫合された患者さんからは,痛くて仰向けに寝れないので首を寝違えてしまった,と苦笑されたこともあった。寝る時に下になる部分はステープラー縫合はしてはいけないと思う。


 さらに,ステープラーではきれいに縫えないことが多いのも問題。手術創のように皮膚が垂直に切れている場合はステープラーでもきれいに縫えるが,大半の裂創のような「皮膚が垂直でなく斜めに切れている」場合,ステープラーで縫合すると創縁の内反が多いのだ。これを避ける事は事実上,困難である。まして,下腿前面の裂挫創のように,皮膚が皮弁状に切れ,創縁が挫滅されている場合,ステープラーを外すとものの見事に傷が開く事が多い。そのほとんどは,内反した皮膚により皮下組織同士の癒合が邪魔されるための創離開であるようだ。


 このような理由から,研修医には,外傷創の縫合にはステープラーを使わないように指導している。

(2005/08/17)

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