反復性術後胸骨骨髄炎の治療例


 症例は79歳男性。狭心症で冠動脈バイパス術を受けたが,胸骨正中切開部の縫合創部が一部治癒せず,数箇所で胸骨を縫合したワイヤーが露出したため,術後5ヶ月目に当科紹介となり,ワイヤー除去,腐骨除去を行うこととなった。
 創からはMRSAが検出されていたが,常在菌で感染しているわけではないという判断のもとに,MRSAは全く気にせずに,除菌などという馬鹿な真似はせずに,直ちに手術を行うこととした。

 全身麻酔下に正中切開の瘢痕を切除し,胸骨に至った。露出しているワイヤー3本とその周囲のワイヤー数本を全て除去し,遊離している腐骨も全て除去し,創面は縫合せず,アルギン酸塩で被覆するのみとして手術を終了した。


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  1. 手術終了時の状態。創の大きさは11×6センチ,創面には骨断端が露出していた。
  2. アルギン酸塩被覆材(カルトスタット)で創を覆い,フィルム材で密封した。
  3. 手術翌日の状態。既に創面は肉芽で覆われている。


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  1. 術後5日目。著名な肉芽形成が見られた。この頃までアルギン酸で覆い,これ以降はポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)貼付のみとした。軟膏,フィブラストなどは一切使用していない。術後4日目からシャワー浴を始め,1週間目から入浴も開始。
  2. 術後9日目。一部は深いが,それ以外は肉芽でほぼ平坦になっている。
  3. 術後22日目。肉芽の著名な収縮は起こり,創は急激に縮小している。なお,術後26日目に退院となり,週2回程度の外来通院とした。


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  1. 術後57日目。幅1センチ以下の過剰肉芽を残すのみとなったため,リンデロン軟膏塗布も併用し,1ヶ月ほどで創は上皮化した。
  2. 術後108日目の状態。軽度の瘢痕拘縮を認めるが,潰瘍の再発はなく,また感染の再発もない。現在,術後10ヶ月を経過しているが,やはり感染も潰瘍も再発はない。


 この症例では,術後は創縫合はせず,胸骨もワイヤー除去したままで開きっぱなしの状態であったが,術後は創痛もなく呼吸も異常がなかった。このような症例では,デブリードマンの手術後,創を解放のまま治癒させるのが正しい選択のようである。

 もしも一時的に創閉鎖させるとしたら,腹直筋皮弁は恐らく使えないだろうから,大網移植+植皮になるだろうが,これでは開腹術も必要になり,高齢者ではかなり問題になると思う。その意味で,湿潤治療について知っているかどうかは,術後成績を大きく左右することになるだろうし,患者にとっても開腹術などの余計な負担が全くないのだから,湿潤治療を選択した判断は正しかったと思う。


 今回は,術直後は止血もかねてアルギン酸を使用し,その後はポリウレタンフォームを使用したが,止血が確認されたら「フィルム材を貼付した紙おむつ」で創面を覆う方法でもいいと思う。これなら,「被覆材使用2週間の壁」に頭を悩ますこともなくなる。


 なお,手術でワイヤーを除去し,左右泣き別れ状態になった胸骨は6センチ以上左右が離れていたが,治癒した時点の触診では左右は結合しているように思われた。今後,CTで確認してみようと思う。
 恐らく,左右の胸骨の間にできた肉芽が収縮するとともに両者を引っ張り寄せ,最終的に結合させたものと思われる(もちろん骨性癒合ではなく,瘢痕組織による癒合だろうが)


 術後57日目の線状過剰肉芽になってから完全上皮化までが長かった。とはいっても,患者さん自身はこの治療期間中も特に不便もなく,2週間の1度の通院だけだったため不満もなかったようである。
 もしも,「何とか早く治して欲しい」といわれたら,過剰肉芽を全て切除してアルギン酸などで被覆するなどすれば,もう少し治療期間を圧縮できたかもしれない。


 術前の抗生剤投与はなし。術後は主治医の希望で5日くらい抗生剤の点滴投与したが,恐らくこれも不要だったと思う。なお,全経過を通じ創感染は認められなかった。

(2005/06/29)

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