創感染はどこで起きているのだろうか。以前は,「感染源となる異物や壊死組織があると感染する」と説明してきたし,教科書にもそのような説明が書かれているが,これではあまりに大雑把過ぎるため,現実のさまざまな創感染を説明することが難しかった。創感染の諸相を説明するためには,「感染が実際に起きている場」を明確にする必要があることに気がついた。
では,創感染はどこで起こるのだろうか。恐らくそれは,「循環から孤立した体液の貯留」で起きている。いわばこれが「感染の場」である。この貯留した体液に細菌が侵入して増殖することで創感染が起きていると考えると,創感染に関するあらゆる問題も疑問も実にクリアカットに,一元的に説明できるようになるのである。
「循環から孤立した体液の貯留」とは具体的に言うと,血腫でありリンパ液や組織間液の貯留である。これらは栄養が豊富で(何しろ蛋白質の固まりである),しかも温度は37℃近くと,細菌の繁殖の場としては絶好の環境である。おまけに,循環系から切り離されているため,細胞性免疫も体液性免疫も機能を発揮することはできないし,恐らく貪食細胞は侵入できないだろう。そして,抗生剤を全身投与したとしてもそれがここに到達することはない。抗生剤は血流に乗って運ばれ,患部に到達するものだからだ。
つまりこの「循環から孤立した体液」は体内にありながら異物であり,あらゆる意味で細菌が繁殖するのに絶好の環境を提供している。細菌にとってはまさにエデンの園である。
このような体液の貯留があれば,細菌の侵入進路はどうでもよい。皮膚側から細菌が侵入してもいいし,菌血症で細菌が運ばれてもいい。恐らく最初の感染の発症には,小数の細菌が接触するだけで感染が発症すると思われるし,感染の成立にはそれで十分だろう。
逆に,このような異物としての体液の貯留ができてしまうと,その後の創感染の発症を完全に防ぐことが不可能であることを意味している。たとえ皮膚や創縁を完璧に消毒したとしても,菌血症があれば感染してしまうからだ。従って,術後に患者を無菌室に閉じ込めたとしても,創感染は起きてしまうのだ。
これが事実だとすると,次のようなさまざまな創感染の疑問も見事に氷解する。
上記について,読者の皆様,ちょっと考えてみてください。どこに「体液の貯留」が起きているのかが判れば,簡単に説明がつくものばかりです。
(2005/06/08)