創面を覆うものは浸出液のみでよい


 湿潤治療の本質とは何か。それは「創面を湿潤に保つ」ことである。湿潤に保てるのであれば,その手段は何だっていい。被覆材を使ってもいいし,食品包装用ラップでもいい。ガーゼの表面にオプサイトなどのフィルムを貼付してツルツルにし,それで創を覆ってもよい。ガーゼの替わりに紙おむつを選んでその表面にフィルムを貼付すれば,浸出液が多い創に非常に有用だ(この方法は鳥谷部先生のサイトで詳しく紹介されている)。浸出液が多くて創周囲の皮膚にアセモができる場合,台所用の「穴あきポリ袋」がとてもよい。これで創を覆い,その上に紙おむつを当てれば完璧である。


 だから創を密封する必要もない。創を密封しなければ創面が湿潤に保たれないのであれば密封するし,密封しなくても湿潤に保てるのであれば密封は不要だ。

 浸出液が多い創(例:黄色期の褥瘡)であれば,創に直接ガーゼを当てようが紙おむつを当てようが,創面は湿潤に保たれて乾燥する事はない。
 逆に,浸出液が少ない時にガーゼを当てると乾燥するから,その場合はラップや被覆材になる。
 口唇のように被覆材が張れない場合は,口内炎用の軟膏を頻回に塗布させればいいし,あるいは一日中,唇を舐め回してもらってもいい(通常はそれが面倒なので油脂性基剤の軟膏を塗布する)
 頭皮挫創でも軟膏塗布でよい。この時,塗布の回数を質問するのもナンセンス。乾かないようにすればいいのだから,一日に3回でも乾燥しなければそれでいいし,6回塗布しても乾いてしまう場合は7回でも8回でも塗布すべきだ。要するにそれは,温度と湿度の問題である。患者さんが自分で決めればいいことであって,医者に決めてもらうことではない。


 このように考えると,創面を直接覆うものは「浸出液のみ」でいいということに気がつくはずだ。要するに,創面がしっとりと浸出液で覆われていれば,その上に空気があろうと被覆材があろうとラップがあろうと問題にはならない。だから,創面に被覆材が直接あたっている必要もない。


 陥凹している創面に被覆材を貼付するように工夫する必要もない(例:ハイドロサイトに渦巻きの切れ込みを入れる)し,浸出液が創面を覆っていれば,あとはそれが蒸発しないようになっていればいい。だから,たとえば術後の創離開で深い陥凹になっていても,それを覆うのは「オプサイトを貼付した紙おむつ」だけでいいし,なにもハイドロゲルなどを詰め込む必要はない。「オプサイト貼付紙おむつ」を作るのが面倒だったらポリウレタンフォームをポンと載せて絆創膏固定すればいいし,ラップを張ってもいいだろう。

 同様に,深いポケットに軟膏ガーゼを詰め込むのも不要である。創面を軟膏で覆うことがそもそも不要だからだ。


 最近,鳥谷部先生がドレッシングを

  1. 開放性乾燥型ドレッシング
  2. 開放性湿潤型ドレッシング
  3. 閉鎖性乾燥型ドレッシング
  4. 閉鎖性湿潤型ドレッシング
に分類しているが,これは要するに,閉鎖と湿潤が必ずしも両立しない場合があること,開放であっても湿潤が保てることを指摘したものである。
 たとえば,軟膏塗布をしてオプサイトなどで覆っておくと創面は湿潤になると思われているが,軟膏基剤が吸湿性の高いものの場合(例:カデックス軟膏,アクトシン軟膏,ユーパスタ,ブロメライン軟膏など),浸出液が少なければいくらフィルムで覆っていても,やはり創面は乾燥してしまうと予想される。つまり,「密封してあるから湿潤療法」でもないし,「開放療法みたいだけど実は湿潤治療」ということもあるのである。


 「創面は医療材料で覆われていなければいけないはずだ」という考えの呪縛はかなり強烈である。事実私も,この呪縛から完全に逃れたのはここ数年だ。それまでは被覆材を創面に直接接触させるためにいろいろな工夫をしてきたからだ。しかし,「創面を覆うものは浸出液のみでよい。医療材料が創面に触れている必要性はない」ことに気がつくと,いろいろな発想が生まれるようになったし,治療材料や治療方法に拘泥することがなくなってきた。

 そしてこのようなことに気づくと,創傷被覆材を創面に貼付していても,実は被覆材は創面に接していないことがわかってくる。この場合,創面を覆っているのは浸出液であり,被覆材は創面に直接触れているわけではない。もしも直接触れていたら,それは被覆材が浸出液を完全に吸収していることを意味し,この場合,創面は乾燥していることになり,創治癒は望めないことになる。


 「創面を覆っている被覆材は,創面に直接触れていない。直接触れてている状態だったら,創面は乾燥している」ことに気がつくと,「褥瘡のラップ療法」の本質が見えてくるし,この治療に対する日本褥瘡学会の反発が全く的外れであり,感情的なものでしかないことが明らかになる。

 「褥瘡のラップ療法」に対する日本褥瘡学会の攻撃を見ていると,彼らは「創面は医療材料で覆われていけないはずだ」という呪縛から逃れていないから,「創面を食品包装用ラップで覆うなんてもってのほか」と攻撃していることが見えてくる。

 ちょっと考えればわかるが,ラップ療法でのラップはあくまでも「創面を浸出液が覆う」のを助けているだけであり,創面に触れているのは浸出液だけである。ラップは直接触れていない(浸出液が覆っているのだから,ラップが触れる余地はない。これは初歩的理科である)のである。ラップは単に,乾燥を防いでいるだけの補助的役割でしかない。だから「ラップを使っているから治療ではない」というのは,単なる勘違いである。

 要するに,ラップであろうと被覆材であろうと台所用の穴あき水切りポリ袋であろうと,治療の本質は同じなのだ。どれもこれも,「浸出液が創面を覆う」ことを助けているだけであり,それ以上でもそれ以下でもない。


 「創面を覆うものは浸出液だけでよい」ことが理解できれば,「外傷の湿潤治療」「褥創のラップ療法」の本質が見えてくるはずだ。

(2005/05/27)

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