脳外科での無剃毛手術について
川内市医師会立 市民病院 脳神経外科 時村 洋先生


 鹿児島県の川内市民病院,脳外科の時村先生から,以前から行っている無剃毛による開頭手術と術後の処置についての投稿をいただきました。開頭術でも剃毛が必要ないことについてはすでに The effect of hair on infection after cranial surgery. (Bekar A, et al., Acta Neurochir., 2001;143(6):533-6) などの論文がありますが,時村先生は5年ほど前(正確には2000年5月より)から下記のような完全無剃毛手術を積極的に行っておられますが,下記のように,術後創感染の発生率は驚くほど低いものとなっています。

 以下,時村先生の治療法とその成績です。

 手術の様子の写真はこちらです。医療関係者のみご覧ください。


執刀までの流れ

  1. 搬入前30分抗生剤投与
  2. 皮切をマーキング
  3. 10%providone-iodine solutionにて頭部をブラッシング(スポンジで)
  4. 櫛で切開線を境に髪を分ける
  5. 乾くのを待つ
  6. 紙テープで髪を固定
  7. シーツをかけて接着剤付イソジンドレープをかぶせる
  8. 皮膚切開

創内に頭髪が入ると感染するのではないのか,という疑問に対しての時村先生の回答

ドレープもですが、皮膚切開後ガーゼで皮膚を覆い開創しますのでそれ以後ガーゼを外すまで頭髪は出てきません。ただ閉創の時にガーゼを取り除くと出てきます。しかしこの時は筋肉の縫合は終わっており,皮下(帽状腱膜)縫いの段階ですので、創内に入ってきたら取り除くこと。それから生理食塩水で洗浄をします。


皮膚縫合終了後の処置

  1. 手術終了時術場で洗髪(滅菌水で)
  2. 術後1日目まで抗生剤投与。同日ガーゼ除去。創は開放としガーゼは当てない。
  3. 2日目洗髪(通常のシャンプー)し,洗髪後ワセリン塗布(保湿のため)。
  4. 4日目同様に洗髪
  5. 5日目抜糸、洗髪


手術数と創感染数

  1. 現在までに,上記の完全無剃毛手術は312例。
  2. そのうちマイナーなものも含め,創感染は4例(うち1例は疑い例)
    1. Ventriculo-Peritoneal Shunt(Shunt system抜去で対応)
    2. 未破裂脳動脈瘤(創周囲に発赤あり、排膿なし。抗生剤投与で改善)
    3. Parasagittal meningioma(人工硬膜使用例,人工硬膜除去,大体筋膜で補填)
    4. STA-MCA anastomosis(排膿,抗生剤投与で改善)
 症例2は感染と言えるかどうかわかりませんが,一度学会で発表したので入れています。この4例だとすると術後感染発生率は1.28%です。文献的にも当院の成績でも無悌毛が感染を増やすということにはなりません。それからこの2を除く3例ですが、人工物使用が2例、頭皮の血流不全(頭皮の動脈を脳動脈に繋いだため)が1例、と何れも感染を起こしやすい条件ありと考えられます。今後はこのような症例には少し抗生剤を長めに使うなどの対応策はどうかと考えています。


完全無剃毛手術を受けた患者さんの感想など


この完全無剃毛脳外科手術を見学なさりたい方は,時村先生にメールなどでご連絡ください。見学,大歓迎だそうです。


 最後に私(夏井)の感想です。312例の手術をしてわずか4例(確実なものは3例)しか術後感染がないというのは素晴らしい結果だと思います。これまで「術後感染予防のため」に行ってきた剃毛と手術創の消毒が,実は術後感染の元凶であったという厳然とした証拠になります。
 また同時に,現在の術後創感染対策(Surgical Site Infection, SSI)の議論がいかに的外れかよくわかります。現在,SSI対策として提唱されている方法を厳密に実施したとしても,時村先生が示された「創感染例は300例中3例のみ」という成績には遠く及ばないからです。

 そして何より感動的なのが,患者さんの感想です。脳外科医にとっては「手術するんだから頭の毛を剃るくらい問題ないだろう」,「命が助かるんだから頭の毛のことをとやかく言うものではない」と考えがちでしょうが,患者さんは剃毛されることで実は大きく傷ついているのです。だから,「髪の毛が本のままで退院できるなんて夢みたい」と喜んでいらっしゃるのです。

 患者さんのことを最優先に考えている脳外科の先生,術後の創感染を減らしたいと考えている脳外科の先生は是非,時村先生に連絡し,病院を訪れてください。この手術が直に見られるなら,鹿児島までの航空券なんて安いものでしょう。なおその際は,ビデオやデジカメを忘れずに・・・。

(2005/04/13)

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