指尖部損傷・切断指の治療方針(試案)


 指尖部損傷,切断指の処置について総合的立場から説明した本はまだあまりないと思うので,勝手に作ってしまった。考え方としては,次のような流れになる。


  1. 骨露出がない場合。野菜のスライサーで指をスライスしちゃった,なんていうのがこれに当たる。多くの指尖部損傷はこれだろう。この場合は,直ちにアルギン酸(カルトスタットやソーブサン)で創面を覆い,翌日からは「水仕事をしなければいけない人はハイドロコロイド(デュオアクティブETなど)」,「力仕事系ならポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)」に変更。
    なお,受傷直後に創面を無理に洗う必要はない。痛いだけである。どうしても洗う必要性があると判断したら,きちんと局所麻酔をしてから洗うこと。

  2. 関節軟骨が露出している場合。軟骨が露出しているといくら湿潤治療でも創閉鎖は望めない(軟骨表面に肉芽が上がらないから)。この場合は局所麻酔下に軟骨と骨を削ってからアルギン酸貼付で湿潤治療にしてもいいが,軟骨を削る操作で結果的に創縫合(つまり断端形成)できる場合が少なくない。そういう場合はさっさと創縫合して閉鎖したほうが,治療期間を短縮できるだろう。
    関節軟骨が露出している場合,創面には必ず屈筋腱(深指屈筋腱)が露出しているが,この状態で湿潤治療を続けていると,まれに化膿性腱鞘炎を起こすことがあるので,どうしても湿潤治療を行うのであれば,屈筋腱を引き出して切除した方がいいようである。安全性を考えれば,「関節が露出している場合は断端形成して創を縫合する」のがいいかもしれない。

  3. 軟骨でない骨が露出していて,指をできるだけ長く残して欲しいという希望がある場合。この時はそのままアルギン酸で覆い,その後は型の如く湿潤療法を続ける。もしも骨が突出していたら,その部分だけ切除する。骨は創面より数ミリ短い程度にするだけでよい。屈筋腱については上記のような理由から,できるだけ引き出してから切除すべきだろう。

  4. 軟骨でない骨が露出していて,できるだけ早く治して欲しいと希望がある場合。この時は骨を削って短縮して創を縫合する。つまり通常通りの断端形成。


 屈筋腱が創面に露出している場合の処理であるが,受傷早期であればあまり気にする必要はないが(つまり,腱を短く切る必要はない),受傷から時間が経っている場合は腱表面が常在菌で汚染されている可能性が高いので,長く引き出してから断端形成するか,断端形成せずに開放創面として湿潤治療するかのいずれかになる。
 「どのくらい時間が経過していたら危ないでしょうか?」という質問もあると思うが,これについては全くデータがないので不明。

 だが,受傷から数日を経過している場合は,どのように注意しても,腱をどのように工夫して処置しても,化膿性腱鞘炎の発生を防げない場合があることは確かである。

(2005/04/13)

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