3度熱傷で壊死組織の自己融解が始まるとドロドロになる。こういう組織を湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)するといかにも感染が起きそうだし,実際に感染を起こすこともある。しかし,感染を起こさない場合もある。その違いはどこにあるのだろうか。これがいまだによくわからないのである。
症例は60代の男性。ストーブの上で沸かしていたやかんの熱湯を浴びて左前胸部〜腋窩〜上腕にかけて熱傷受傷した。直ちに当院を受診した。
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以上のような経過である。壊死組織がついていても,抗生剤を投与していなくても感染するわけでもなく,自己融解でドロドロしているのにそこが細菌の培地になっていた様でもない。おまけに治療といえばラップとプラスチベースだけである。なぜこの症例は感染しなかったのだろうか?
もちろん,このような状態で感染して,発熱や局所の疼痛などの症状を示すこともある。そしてそのような症例が大量の壊死組織が残っていたわけでもない。このような感染を起こした例と,感染を起こさなかった例の違いがよくわからないのである。
小児の場合は発熱しやすい,というのは経験則だが,なぜそうなのかについても十分に理論的な説明がつけられないでいる。
また,前胸部と上腕では,上腕は自己融解が進んでいるのに,前胸部では自己融解がなかなか進まず,壊死組織が溶けてこなかったが,両者になぜこのような違いが生じたのか,それもよくわからない。
現時点では,上記の疑問には結論は出せないでいる。ただ言えるのは,感染が成立するための条件は多様であろうということ,壊死組織といってもさまざまな段階(種類?)があるらしいということだけだ。感染という現象は,なかなか奥が深いなぁ,と言うしかない。
「熱傷を積極的に湿潤環境で治す」治療を徹底する治療方針はまだまだ始まったばかりだ。解決すべき問題点,疑問点はいくらでも残っているのだろう。
(2005/02/09)