大浦武彦(北海道大学名誉教授)


 この論文で大浦名誉教授は,「ブロメラインにオルセノンを混じた軟膏を塗布」,「ブロメラインとオルセノン,あるいはゲーベンクリームを混じて使用すると良い」と明記されている。この軟膏の使い方は,彼の別の著作,論文にも繰り返し書かれていて,通常行っていることだと思われる。しかし,これは極めて危険な行為である。傷害罪に問われる危険性が極めて高い。これについて大浦名誉教授はご存知なのだろうか。私は名誉教授の身が心配でならないので,あえてここで指摘させていただく。


 問題点は2点ある。

 まず,軟膏を混合して使用することの是非。軟膏を販売しているメーカーは通常,その軟膏単独で使用した際の安全性しか保障していない。つまり,軟膏を複数混合した時点でメーカーはPL法から免責され,その混合軟膏で何か事故が起きた場合,混合を命じた医師が罪を問われるのは常識である。つまり上記の文章はそのような違法行為の幇助に相当する。

 である以上,このような軟膏を患者に使うのであれば,患者に対する説明義務が生じるし,使用する前に同意を得るのは絶対に必要である。少なくとも,違法行為をそそのかすようなことは書くべきではないだろう。


 さらにおかしいのは混合する軟膏の組み合わせだ。ブロメラインとゲーベンは基本的に配合禁忌薬剤,すなわち混ぜてはいけない組み合わせに相当する。これはメーカーが明記していることだ。

 ブロメラインはパイナップル果汁に含まれる蛋白質分解酵素であるが,銀イオンや水銀イオンなどの重金属イオンがあるとキレートされてしまい,速やかに失活する(メーカーの説明書にも明記されている)。だからメーカーはブロメラインと銀イオンの組み合わせを禁止しているわけだ。
 一方,ゲーベンクリームは抗菌薬であり,抗菌力は銀イオンに由来する。つまり,ブロメラインとゲーベンを混ぜると効果はなくなってしまうことになる。効果がない軟膏の使用を勧めることは医療倫理上,どうなのだろうか。


 それだけではない。ブロメラインのような酵素剤とゲーベン(あるいはオルセノン)を混合した際の安全性が全く証明されていないことだ。要するに,上記の組み合わせは「薬剤としての効果がない」ことはわかるが,「有害物質を作り出さない」ことまでは全く不明であり,場合によっては有害物質になっている危険性があるのだ。

 そのような安全かどうかも判っていないものを患者に使うことは,それだけで罪に問われないだろうか。その危険性はラップの比ではないだろう。

 つまり,このような混合軟膏を患者に使用する場合には,「安全性が確認されていない軟膏であること,治療効果がない軟膏であること」まで明記して患者説明する義務が生じるはずだ。それなのに,名誉教授の文章を読む限りこの危険性は全く指摘されていないし,ましてや使用に際して患者から同意書を取るように,ということも書かれていない。


 安全性が確認されていない軟膏の組み合わせで,その薬剤の組み合わせが配合禁忌で,おまけに患者の同意も取っていないとなれば,これで患者から訴えられたら罪から逃れることはまず難しいだろう。これまでの判例から見て有罪は確定的である。

 私は名誉教授が罪に問われないかどうか,とても心配でならないのだ。患者に訴えられるような事態にならないよう,心よりお祈り申し上げている次第である。

(2005/02/02)

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