【表12 創傷処置と消毒剤
新鮮外傷・感染創の処置:(中略)有機物・異物を除去後,消毒剤にて消毒する。
肉芽形成期・治癒過程の創傷処置:生理食塩液にて洗浄するか,あるいは創傷治癒過程が良好な環境に保たれていれば何もしなくてよい。ただし,創周囲の皮膚は清潔を保ち,病原体で汚染されている可能性があれば,消毒剤にて消毒する】785ページ
この文章をまとめると,「創傷治癒過程が良好な創面なら消毒しなくてよい。でも,創周囲の皮膚は清潔にしなければいけないし,病原菌に汚染されていたら消毒しようね」と言う事になるんだろうか。最後の「消毒剤にて消毒する」と言う部分が「何を」消毒するのか不明だが,文脈から判断すると皮膚だろう。
何で執筆者はここまでして消毒にこだわるのだろうか? 消毒してなにかいいことがあるのだろうか? この執筆者が守りたいのは消毒薬でしょうか,メーカーでしょうか,それとも患者さんの健康でしょうか?
もしかしたらこの文章を書いた医者(?)は「外から来る細菌は全て病原菌だ。だから皮膚も傷も消毒して無菌にしないと病気になるぞ,化膿するぞ」と思っているじゃないだろうか。でなきゃ,こんなバカ文章なんて書けないよね。それじゃ,抗菌グッズに騙されている素人(=非医療従事者)と同じだよ。単なる不潔恐怖症だよ。
そんなに消毒薬が体にいいのだったら,これからお風呂は原液の消毒薬にして,あなたとあなたのご家族はそれに漬かって下さい。ご家族の健康のためにイソジン風呂に入りましょう。きっと,皮膚の細菌が一掃できて,きわめて清潔になり健康になることでしょう。もちろん,美容と健康のため洗顔も消毒薬で行いましょう。それで失明しても健康のためですから納得ですよね?
この文章を書いた医者に逆に質問したいのだが,「下眼瞼縁にかかる下眼瞼の深い挫創で,創面からは細菌が検出され,創周囲の皮膚にも細菌が一杯」という状況で,あなたはどうするんだろうか?
つまり,「傷の周囲が細菌汚染されていれば,消毒しなければいけない」ということを守ろうとすると,こんな間抜けな状況になっちゃうのだよ。
- 「もちろん,消毒薬で処置する」→〔角膜,結膜が損傷されます。場合によっては失明します〕
- 「薄めた消毒薬で処置する」→〔殺菌力がないのでばい菌は殺せません〕
【4)無菌的創ドレッシング
創及び褥瘡を持った患者のケアは無菌的操作で行う。】786ページ
これを書いた人(医者か看護師か知らないけど)は,実際に傷や褥瘡を見た事があるんだろうか。褥瘡創面は無菌だと思っているのだろうか?
褥瘡創面にしろ,それ以外の創面にしろ,表面には必ず細菌がいる。だって,創周囲の皮膚に一杯常在菌がいるんだもの。皮膚に連続している創面が無菌のわけがないじゃん。菌がもういるのに無菌的操作をする意味があるんでしょうか。
無菌操作は無菌部位で行うから意味があります。しかし既に大量の細菌がいるのに,滅菌手袋をして滅菌鑷子で滅菌ガーゼをつまみ挙げて創を覆って,意味があるんでしょうか?
多分,上述のような文章を書く人は,トイレのウォシュレットを滅菌水にしていたり,滅菌されていないトイレットペーパーでないとお尻が拭けないというタイプの人でしょうね。抗菌グッズで拭かないと電車の吊革も触れない人だな,きっと。こういう人は,外部の世界は病原菌だらけだと思い込んでいるんだけど,自分の手にどれほどの細菌がいるかだけは無視しています。
第一,海外では既に「清潔」と「不潔」と言う二元論でなく,「清潔」と「不潔」の間に「準清潔(準汚染)」に分けて考える考えが一般的になっていると指摘しておこう。「清潔か不潔か?」と騒いでいる時点で,既にあんたは時代遅れなんだよ。
「それでも,外部からは細菌は一個たりとも持ち込むべきではない」と文句をつける人もいるだろう。そういう人は,滅菌前のガーゼ,部屋においてあるティッシュペーパー,食品包装用ラップ,水道水などを自分で実際に調べ,本当に細菌がいるのか,いるとしたらどのくらいの密度なのか,病原菌がいるのか,創感染起炎菌がいるのかを自分の目で確かめた方がいい。「清潔じゃないから不潔。滅菌物でなければ病原菌だらけに決まっている」と決めつけるのもいいけれど,そりゃ単なる「清潔バカ」だって。
以前から思っていたことだけど,消毒原理主義者,消毒至上主義者,CDC原理主義者,CDC万能主義者の一部は,単なる不潔恐怖症,強迫観念症じゃないでしょうか?
【ペーパータオルは,コスト面,環境問題等が懸念されるが,バージンパルプ100%の必要はなく,(中略)再生紙を利用したもので十分である】789ページ
ペーパータオルを再生紙にすれば,確かに地球に優しいが,再生紙ペーパータオルを使っている一方で,この論文が推奨するように「何が何でも消毒,どんなときにも消毒」じゃあ,本末転倒じゃないだろうか? 言ってみれば,「牛乳紙パックを集めて地球に優しく」なんていっている本人が,毎朝,大量の水道水で愛車を洗車しているようなものだ。
消毒薬を生産するのにどれだけの地球資源を使っているのか,その消毒薬を無毒化するためにどれほど大量の水資源を消費しているのか,是非,執筆者にはこの方面にも関心を向けて欲しいものである。
無駄な消毒薬を作らない,消費しないことは地球に優しいよ。
(2004/11/04)