【EBMとは,「診ている患者の臨床上の疑問点に関して医師が関連文献等を検索し,それらを批判的に吟味した上で患者への適応の妥当性を評価し,さらに患者の価値観や意向を考慮した上で臨床評価を下し,専門技能を活用して医療を行う事」としている。】773ページ
最初,にEBMとは,と書き出している。この内容に文句はない。一応正しいと思う。ところがこの後,この定義を自分で破っちゃうのである。冒頭にこういう文章を置くなら,それを自分で破っちゃいかんよ。ミットモナイからね。
【「しないよりしたほうがいい」とか,「昔からこうやっている」とせずにEBMに基づいて見直しをすることが大切である。】773ページ
こういう事を書いくから,〔「消毒しないよりしたほうがいい」とか「昔から消毒している」とせずにEBMに基づいて見直しする事が大切である〕,って突っ込まれるんだぜ。
この文章がその後,著者たちにどのような災厄をもたらすことになるのか,神ならぬ執筆者達は知るよしもなかったのであった。
【(2)消毒剤の試験管内での有用性と臨床使用
一般的に試験管内での効果判定は,20℃の温度と有機物等の不活物のないクリーンな条件での効果である。(中略)試験管内での試験結果は,効果の目安にはなるが,絶対的なものではない。】783ページ
何気なく読み飛ばしてしまう一文だけど,「温度が低い消毒薬,垢やフケや膿(いずれも有機物)に接触した消毒薬はあまり効いていないよ。効かすためには濃度が高くないと駄目だよ」と言外に匂わせている事がわかる。
濃度が高い消毒薬はどんどん生体毒性が強くなるのであるから,常識的には「通常の使い方の消毒薬はあまり効いていなくて,効かせようと思ったら人体への毒性も強くなっているんじゃないの?」と気がつくと思う。
【皮膚の消毒に用いる10%ポビドンヨード液は,原液を皮膚・粘膜に直接塗布して消毒する事で,医薬品としての承認を得ている。】783ページ
おっ,いきなりお上を出してきたな。子供同士の喧嘩に負けた奴が「先生に言いつけてやる。市長に言いつけてやる。国会議員に言いつけてやる。厚生労働省に言いつけてやる」と捨てぜりふを吐いているようなもんだな。
言っとくけど,今まで「医薬品として承認」されて薬害を起こした薬剤がいくらあるか,知ってるかい? 医薬品として承認されている事と現実に危険性がない事は一致していないのだよ。消毒薬の毒性がはっきりして治療効果がない事がわかれば,手のひらを返したように「承認取り消し」になるんじゃないでしょうか。
【(3)生体の消毒
消毒剤で生体を無菌にする事はできない。しかし,留置針やカテーテル挿入,手術時等の侵襲的処置は感染リスクが高いので,厳重な消毒と正しい消毒技法が要求される。特に,MRSAを含む黄色ブドウ球菌は,刺入部位や創傷部位,カテーテルに定着しやすく,傷が治らない限り,またカテーテルを抜去しない限り消失しない。】784ページ
前半の「消毒剤で生体を〜要求される」は,どっかのサイトに書いてある事をそのまま引用しているような気がするけど,ま,メクジラをたてるほどじゃないな。
問題は後半だ。ここでは「感染源(=カテーテルなど)を除去しない限り,MRSAは消失しない」と明記してある点が重要だ。要するにこの記述からすれば,「化膿している傷を消毒しても無駄だから止めましょう」と言う結論になるはずだ。この文章を書いた人,その事がわかっていて書いたんだよね。
(2004/10/26)