切除不能の乳癌や上顎癌,皮膚転移癌,その他の皮膚に露出して自壊している悪性腫瘍の処置も大変だ。処置のたびに出血はするし,一度出血するとなかなか止まらないし,悪臭もかなりのものだ。もちろん,根本的な解決法は悪性腫瘍そのものを切除する事だが,それができない場合の処置法は対処療法とならざるを得ない。
対処療法である以上,処置に求められる条件はどうなるかというと,
まず,理想から言えばアルギン酸塩被覆材(カルトスタットやソーブサン)とフィルム材で被覆するのがベストだ。創面への固着はないし,止血作用はあるし,おまけに悪臭の吸着効果もある程度期待できる。まさに患者さんにとっても医者にとっても理想的だ。なお処置の際,創面にアルギン酸が残る事があるが,この場合は無理に剥がす必要はなく,その上にアルギン酸を重ね張りしてよい。
被覆材で次に使えるのはポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)だ。止血効果はないが創面への固着はない点が使いやすいはずだ。
問題はこれらの被覆材が2週間を超えて使用できない事だけ。この問題をなんとかして回避して長期に使用するか,患者さんのために病院持ち出し覚悟で使うかは,医師が責任を持って決めて欲しいし,そのようにして使うべきだと思う。
もちろん,「鳥谷部先生のOpWT」,つまり「台所の三角コーナー用の穴あきポリエチレン袋」の中に紙オムツ(尿とりパッド)入れ,それで創を覆う方法も非常に効果的だ。
どうしても医療材料を使いたいという場合は,フィルム材に注射針で穴を開け,それをガーゼに張り,ツルツルの面を腫瘍潰瘍面に当ててさらに紙オムツを当てる。「それじゃ不潔じゃないですか?」なんて目を吊り上げる医者(看護師)がいたら,フィルム表面をさっと酒精綿で拭けば大丈夫でしょう。
逆に最悪,あるいは意味がないのは,疼痛を与え,出血を起こす治療(処置)法。具体的に言うと,
要するに,露出している癌を慢性開放創と考えれば対処法が思い浮かぶはずだ。通常の慢性創(褥瘡など)と違うのは,創の状態が進行性に悪化する事と,潰瘍を起こしている悪性腫瘍(癌)が正常の治癒機転を失っている事だけだ。
治せないこと,治らないことを前提にして,目の前の患者で何が問題になっているのかを自分の目で見て考え,その上で現在取りうる最善の方法を考えればいい。
なお,自壊した悪性腫瘍に伴う悪臭にはメトロニダゾール含有軟膏が著効を示すという情報があります。詳しくはhttp://www.wound-treatment.jp/next/bbs16.htmの【[419]皮膚に露出した悪性腫瘍】というスレッド,http://www.wound-treatment.jp/next/bbs17.htmの【[689]悪性腫瘍の処置】をご参照下さい。
(2004/10/06)