「尿道カテーテルをいれる前の消毒は必要なのか」,という質問もよく受ける。過去の論文を見ても明確に書いてあるものはないらしい。となると,得意の(?)思考実験であるが,実に簡単に消毒の必要がない事が証明できる。
まず,消毒薬がどのくらいの時間で殺菌効果を発揮するかというと,消毒薬と細菌がある程度の時間(数分程度とされている)接触している事が必要らしい。つまり,消毒したからといって瞬時のうちに殺菌されるわけではない。これは,化学反応には時間がかかるからである。
消毒薬の作用機序は要するに化学反応(酸化,還元,凝固,吸着など)である。化学反応の速度は温度に依存している。温度が高いほど速く低くなると遅い。これは中学生でも知っている普遍的事実である。
もちろんこれは消毒薬の作用でも同様であり,温度が高ければ反応が早く,消毒薬の温度が低ければ反応は遅くなる。このため一般的に,消毒薬が20℃以下の場合には反応(=殺菌効果)はかなり遅くなるらしい。
さてここで,実際の医療現場での尿道カテーテルを入れている様子を思い浮かべてみよう。オチンチンの先をイソジン綿球でちょっと拭き,すかさずカテーテルを入れていないだろうか。イソジン消毒後に3分間待ってからカテーテルを入れているだろうか。
しかもそのイソジンはせいぜい室温程度であり(つまり大抵の場合,20℃程度だと思う),殺菌効果を発揮するのにかなり時間を要するはずだ。少なくとも「イソジン消毒した瞬間に殺菌」することは不可能である。
要するに,イソジンの殺菌力が発揮される前にカテーテルを入れているわけで,これでは「消毒せずに入れている」のと同じである。
しかし現実には,このようないい加減な,殺菌効果を期待できない消毒でカテーテルを入れているのに,尿路感染が多発しているわけではない。むしろ,尿道カテーテル挿入直後に感染を起こすことは極めて稀である(挿入前の消毒法が悪くて感染するのであれば,挿入直後から感染症状が出るはずだ)。
このような現実を見据えれば,《殺菌効果のない消毒方法でカテーテルを入れても感染はほとんど起きていない》→《消毒せずに入れても大丈夫》という結論になると思う。
つまり,100%感染を起こしたくなければ尿道口を消毒して3分以上経ってからカテーテルを入れればいいし,99%(?)で感染が起きなければいいのであれば,消毒なしでカテーテルを入れていい,ということになると思う。要は確率問題だろう。
(2004/09/27)