更に,ラップには被覆材にない優れた特性がある。極限まで薄い,という性質だ。どんなに薄い被覆材だってラップの薄さには勝てない。なぜ薄い方がいいかと言うと,褥瘡の発生機序を考えれば判る。
体重が一箇所にかかる事で発生するのが褥瘡である。だから,褥瘡にあてるガーゼは薄くしなければいけない,と,どんな褥瘡治療の本にもかいてある。もしもこれが事実なら(これが事実でないという褥瘡専門家はいないと思う・・・),創面にあてるものは極限まで薄い方がいいに決まっている。厚みがあれば,そこに必ず圧がかかるのは常識である。
しかし,ハイドロコロイドにしろポリウレタンフォームにしろ,必ず厚みを持っている。これらの被覆材を褥瘡創面に貼付し,翌日剥がしてみて欲しい。被覆材の形に肉芽や皮膚が陥没していないだろうか。恐らく陥没しているはずだ。要するに,被覆材の厚みで圧迫されたのである。
つまり,「褥瘡治療には圧迫を避けることが第一」というのなら,「厚みを持つ治療材料は使ってはいけない」というのが論理的帰結である。となれば,ラップが理想の治療材料,という結果になるのは当然であり,それ以外の結論はありえない。
「ラップ療法」と聞くと頭から湯気を出して怒ったり,頭ごなしに否定する偉い先生方がいるが,その先生たちはいつも「褥瘡治療の基本は除圧であり,創部にあてるガーゼなどは薄くしましょうね」と御指導なさっていらっしゃるはずだ。それなら,「できるだけ薄い材料で治療しましょうね」と言うのが科学者としての態度だろう。
どうやら,こういう偉い先生方は,自分の言っている事の矛盾に気が付いていらっしゃらないらしい。
(2004/08/23)