「褥瘡のラップ療法」をどう考えるか


 鳥谷部先生の「褥瘡のラップ療法」の本質は,食品包装用フィルムを用いて安上がりに褥瘡を治療するというところにあるのでなく,老人医療,高齢者医療という大きな問題の中で褥瘡治療とはどうあるべきかを考えているところにある(・・・と思っている)

 彼は最初から,褥瘡だけ治そうなんて考えていないのである。高齢者で老衰状態にある人間に起こる様々な現象を総合的に捉え,その中で褥瘡について考え,その結果としてラップを用いる治療を選択したのだ(・・・と解釈している)。だから褥瘡治療だけ突出させる愚を犯さない。


 どんな治療材料を使ってもどんな完璧な手術をしても「褥瘡再発がない」状態にすることは不可能である。そうである以上,褥瘡を治すことに血道をあげることは間違っている。再発することが避けられないのであれば,治療はできるだけ侵襲を避け,安上がりな方法を選ぶべきだろう。それが常識というものだろう。


 フィブラストなどの高価な薬剤や軟膏,あるいは各種の被覆材のような高価な治療材料を使って褥瘡を治したとしよう。だがそれは,「褥瘡のある寝たきり患者」が「褥瘡のない寝たきり患者」になっただけのことで,本質的な部分では何も変わっていない。褥瘡が治っても,患者が歩けるわけでもないし,意識が戻るわけでもない。状態が改善するわけでもない。

 となると,こういう褥瘡に対し,高価な薬剤を投与したり,高価な治療材料を使うことに意味はあるのだろうか。これらの薬剤や医療材料を使えば褥瘡は絶対に再発しません,というのなら意味はあるだろうが,褥瘡はどのように治療しても,再発する運命から逃れられないのである。


 寝たきり高齢者の問題は褥瘡だけではない。褥瘡は老衰の一症状であり,褥瘡を治療しても患者が抱える問題(尿失禁,便失禁,意識混濁,皮膚の脆弱性,易感染性・・・)が解決するわけではない。褥瘡を治したからといって,患者の問題は何一つ解決していない。
 要するに,褥瘡だけを治せばいいという視点はおかしいのだ。その意味で,褥瘡治療にはバランス感覚が必要だと思う。褥瘡治療だけを問題にするのはバランス感覚を欠如していると思う。

 「褥瘡を治療する医師,看護師は褥瘡だけ見ていればいい」といったら,誰だっておかしいと思うはずだ。しかし,褥瘡学会の発表や,雑誌に発表されている論文を見るとなぜか,「褥瘡だけ治療しましょう」的な発表・論文で一杯だ。なぜ,こういう発表や論文の異常さ・滑稽さを誰も指摘しないのだろうか。


 治療のバランス感覚という点から考えれば,褥瘡治療にはラップ療法以外の選択肢はないと思う。

(2004/08/19)