褥瘡の手術治療についての疑問
私は老衰者の仙骨部褥瘡に対する手術は,皮弁形成術も植皮術も絶対に行わないし,行うべきでないと考える。手術や麻酔という侵襲を加えて治療する事の意義が理解できないからだ。要するに,褥瘡で手術を受ける患者の受けるメリットとデメリットを考えた時,あまりにデメリットが大きすぎ,メリットがないのである。
たとえ手術で褥瘡が治ったからといって,患者が歩いて自宅に帰れるわけではないし,しゃべれるようになるわけでもない。もちろん,若返るわけでもない。褥瘡がある状態とない状態で,患者の状態は全く変化していないのである。まして,どんな完璧な手術をしても再発を防げるわけでない。
もちろん,老衰の褥瘡患者でも,褥瘡が治癒して介護者の負担が少なくなれば,まわりまわって患者自身のメリットになることはあると思う。あるいは,褥瘡を治療して処置が不要になり,その結果として必要なマンパワーを他の分野に振り分けられることで病院全体としてのメリットが生まれるということはあると思う。
私はこういう目的で行われる「褥瘡治療」を否定するものではないが,それでも治療自体に患者本人のメリットが非常に少ない,という点は忘れてはいけないと思う。
患者に全身麻酔をかけ,褥瘡以外の部位に傷をつけてまで,褥瘡は治療されなければいけないのだろうか。そこまでして治療すべきものなのだろうか。
「植皮だけなら局所麻酔でできるし,局所麻酔なら患者の負担も少ないからしていいだろう」という考えもあるだろうが,植皮は他の健常部位から皮膚を採取することが絶対に必要である。つまり,本来傷のない部位に傷を付ける行為であり,これが「医療行為」なのか「損害行為」なのか,褥瘡に関しては微妙だと思う。患者が享受するメリットがなければ,それは「損害行為」なのではないだろうか。
目の前にあなたの父親がいるとする。高齢で寝たきりで意識はなく,仙骨部に褥瘡がある。あなたはその父親に全麻をかけ,出血させながら仙骨を削るだろうか。殿部穿通枝皮弁をするだろうか。他の部位の健常皮膚に傷をつけて皮膚を採取し,植皮をするだろうか。
(2004/08/17)