治療の目的はさまざまだと思うが,その治療は最終的に患者のメリットとなるものでなければいけない。この時,上記の「寝たきりで意識がない褥瘡患者」の褥瘡を治療することで,患者が得るメリットとは何だろうか。
【褥瘡の痛みがなくなるから】
「褥瘡があると痛々しいから」「褥瘡の傷の痛みがなくなるから」という考えもある。もっともな考えだと思うが,もともと痛くない(あるいは,痛みを感じない)から褥瘡ができてしまったわけで,痛みという症状に関しては,褥瘡治療によるメリットはほとんどないだろう。
もちろん,「痛くても動けないから褥瘡ができた」,あるいは「痛くてもそれを表現できない」という場合もあるだろうが,そこまで来ると認知論とか認知哲学とか,そちらの領域に入り込んでしまう。
【褥瘡から敗血症になることを防げるから】
「褥瘡を放置すると,そこから感染して敗血症になるから治療すべきだ」,あるいは「褥瘡があるとそこから蛋白質やビタミンなどの栄養が流れ出し,栄養不良になるので,褥瘡が治らないと困る」という考えもあると思う。これについては後述する。
【褥瘡ができたのは病院の責任だから】
「褥瘡を作るのは看護側(病院側)の問題だから,それを治療するのは当然だ」というのもあるだろう。いわゆる「褥瘡は看護の恥」という考えだ。だが,寝たきりで無意識の高齢者を見ていると,いくら細心の注意を払っても褥瘡を作ってしまう人がいることは否定できないと思う。最善を尽くしてもできてしまった褥瘡は,どうしようもないのではないだろうか。
もしも老衰で入院した患者に絶対に褥瘡を作らないようにと考えるなら,それこそ,全ての患者を熱傷治療用のフローティングベッド(一台1000万円くらいかな)に寝かせるか,宇宙ステーションに送って無重力状態で浮かんでもらうかしか方法がないのではないだろうか。
(2004/08/17)