熱傷症例に見る〔イソジン+ガーゼ治療〕と被覆材の違い

勤医協神威診療所 真崎茂法先生の投稿


 北海道の勤医協神威診療所 真崎茂法先生より興味深い症例の投稿がありました。同じ診療所の看護師さんが指2本を熱傷受傷し,彼女の了解の下に,一方は「イソジン消毒してガーゼ保護」,もう一方はハイドロコロイドのみで治療したというものです。


 症例は40代女性。自宅で調理中に右中指,環指に熱傷を受傷。水疱ができたためこれを自分で破ってフィルム材で保護し,翌日病院を受診。
 患者に治療法を説明して許可を得た上で,中指はハイドロコロイド(デュオアクティブ)貼付のみとし,環指はイソジンで消毒してガーゼで覆い,なるべく濡らさないように指示した。


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  1. 初診時の状態。それまでに丸一日,フィルム材を貼付していたため,既にうっすらと上皮化しているように見えた。写真から判断すると,どちらの指も2度の浅い熱傷(SDB)で,深度は同程度と思われる。

  2. 中指はハイドロコロイド貼付を続け,環指は「一日一回イソジン消毒してガーゼ保護,濡らさないようにする」という方針とした。

  3. 5日目の状態。中指はきれいに上皮化して症状は全くなかったが,環指は創中心に厚い痂皮形成(恐らく全層壊死)があり,違和感・痛み・痒みがあった。


 写真3の状態であるが,病変部が小さいため重傷度は低く見えるが,創中央部は陥没しているように見えるので,恐らく皮膚全層壊死であることは間違いないと思う。周囲に発赤も認められ,明らかに中指(ハイドロコロイド貼付で治療)とは異なっているのがわかる。

 さらにこれから「消毒してガーゼ保護」の治療を続けていたらどうなるかといえば,中心部が黒色壊死し,蜂窩織炎の状態になるはずだ。要するに「3度熱傷に重症化」するわけだ。こういうのを「医原性3度熱傷」と呼ぶ。このような「治療によって人為的に作られた3度熱傷」は極めて多いと思う。恐らく,世の中で言っている3度熱傷の9割以上は,このようにして「医者が作った3度熱傷」だろう。実に恐ろしいことである。


 この症例の自覚症状でも,環指にだけ違和感・痛み・痒みがあったそうだが,実はこれが湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法),湿潤治療の最大のメリットである。湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の最大のメリットとは早く治ることでもきれいに治ることでもない,痛みがないことである。

 医者は「多少痛くても早く治った方がいいですよね」という言い方をするが,これは暴論だと思うし,医者の身勝手な考えだと思う。治療結果が同じであれば,多少,治療期間が長くても痛くないほうがいいに決まっている。まして,治療期間が同じか短ければ,痛みがない治療の方が圧勝である。患者が望んでいるのはそういう治療ではないだろうか。


 それにしても,「消毒してガーゼ」はごく普通に行われている治療である。日本全体で,一日当たりどれほどの熱傷が発生しているかわからないが,そのほとんどの患者は「消毒してガーゼ・・・せいぜいよくて軟膏ガーゼかソフラチュール」で治療されているはずだ。もう21世紀だというのに,なぜか熱傷の局所治療(そして外傷の局所治療)だけは19世紀のままである

 情けない限りである。

(2004/08/12)