皮膚の再生が完了(=上皮化が完了)した後でも,実は創は変化途上なのである。一般に,創の状態が安定するのは上皮化完了/抜糸終了から3ヶ月くらいかかり,それまでは刻々と変化するものである。
例えば,擦過創やヤケドが上皮化した直後はこのようになっている。浸出液が出ていなくて,ピンク〜赤い皮膚で覆われていれば上皮化完了である。
というのが一般的な説明だが,「顔面熱傷で,上皮化直後から直射日光に当てまくった6歳女児は2年間の経過観察で色素沈着も瘢痕化も起きていない」ことから考えると,「ヤケドした後は直射日光に当てていけない」というのは医学都市伝説の一つ,つまり「見てきたような嘘」にすぎないかもしれない。
症例は60代女性。2005年7月22日に熱湯で上腕〜中部外側に熱傷受傷。当科で治療を行い,8月4日に上皮化したが,毛穴に一致して黒ずんだ色素沈着が認められた。この時点で治療終了となった。
それから半年後,偶然にも当科を受診されたので撮影させていただいたのが右側の写真。周囲の皮膚と同じ色調・質感で,ごくわずかに色素脱失という状態だった。患者さんによると,2005年の夏は特に遮光するわけでもなく,腕を出して生活していたそうである。つまり,色素沈着部位を日に当てまくって生活していたわけだが,この患者の場合には色素沈着は自然に改善したことになる。
2005年8月4日 | 2006年3月22日 |
そういうわけで,例えばヤケドして上皮化した後に遮光するかしないかには次の2つの考えがあるろ思う。どちらを選ぶかは患者さんの人生観次第である。
また,上皮化完了直後の皮膚は乾燥気味なので(理由は恐らく,皮脂腺の機能がまだ正常に戻っていないためだろう),一日数回,白色ワセリンを塗布して乾燥予防をしたほうがいい。
また,「傷をきれいにする軟膏」 としてヒルドイドソフト(R)を処方されている先生が多いが,これは基本的に保湿剤でなく乾燥剤なので使用すべきでないし,薬理学的に考えても 「傷を目立たなくする効果」 はないと考えられるし,私自身もヒルドイドが肥厚性瘢痕に奏功した症例は一例も見たことがない。もちろん,鰯の頭程度の薬効はあるかもしれないが・・・。ちなみに,小林製薬の 「アットノン」 という薬も成分はヒルドイドと同じなので,これまた効果は鰯の頭程度であろう。
このように説明すると「遮光クリームもクリームですよね。と言うことは乾燥剤じゃないですか?」という鋭いツッコミを入れる人がいると思うが,実はこれは正しいツッコミである。遮光クリームは確実に皮膚を乾燥させるのだ。要するに,「色素沈着予防を優先させるか,皮膚の乾燥を防ぐほうが重要か」 のトレードオフであり,色素沈着予防も皮膚の乾燥予防も,という選択肢はないと思われる。
色素沈着でなく色素脱失になって,白っぽくなることも多いが,この場合も数年の経過で周囲の皮膚と同じような色に戻ることがほとんどだ。
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縫合創は抜糸直後は硬い感じがするはずだ。これが柔らかくなって安定するまでにおよそ3ヶ月かかる。逆に言えば,3ヶ月未満の傷は未成熟であり,可塑性があるということになり,この期間に 「傷を開く方向」 に力が持続的にかかると傷が広がってきて,「抜糸直後は線状だったのに,次第に幅が広がってきて1センチくらいになっちゃった」 になるわけだ。
これを防ぐにはテーピングをして傷の拡大を防ぐしか方法がない。
傷が盛り上がって治った状態を肥厚性瘢痕(あるいはケロイド)と呼ぶ。厳密には別物だが,一般には同じに考えていいだろう。治療法は次のようになる。
(2012/11/20)