上皮化が完了後/抜糸後の治療(後療法)


【熱傷創,擦過創の後療法】

 皮膚の再生が完了(=上皮化が完了)した後でも,実は創は変化途上なのである。一般に,創の状態が安定するのは上皮化完了/抜糸終了から3ヶ月くらいかかり,それまでは刻々と変化するものである。
 例えば,擦過創やヤケドが上皮化した直後はこのようになっている。浸出液が出ていなくて,ピンク〜赤い皮膚で覆われていれば上皮化完了である。

 これを見ると 「まだ治っていない」 と一般の方は思うだろうが,実はこれで 「上皮化は完了」 しているのだ。再生した直後の皮膚というのはこのように赤い色をしているからだ。要するに 「できたてホヤホヤの赤ちゃん皮膚は赤い」 ものなのだ。人間の皮膚はこの状態から数週間〜数ヶ月かかって周囲の皮膚と同じ色調にゆっくり戻ってゆくが,この期間は直射日光を避けたほうがいい。紫外線で色素沈着が起こるとされているからだ。
 だから,上皮化が完了してから3ヶ月くらいは直射日光を避けたほうがいいということになる。具体的な方法は次のようになる。
  1. 四肢や体幹の場合は衣服で隠す(手掌と足底はそもそも日焼けしないので気にする必要はない)
  2. 顔面や頸部は市販の日焼け止めクリームなどを塗布
  3. 顔面ではマスク着用も効果的
  4. 小範囲なら茶色の紙絆創膏を貼るのもよい
 

 というのが一般的な説明だが,「顔面熱傷で,上皮化直後から直射日光に当てまくった6歳女児は2年間の経過観察で色素沈着も瘢痕化も起きていない」ことから考えると,「ヤケドした後は直射日光に当てていけない」というのは医学都市伝説の一つ,つまり「見てきたような嘘」にすぎないかもしれない。

 症例は60代女性。2005年7月22日に熱湯で上腕〜中部外側に熱傷受傷。当科で治療を行い,8月4日に上皮化したが,毛穴に一致して黒ずんだ色素沈着が認められた。この時点で治療終了となった。
 それから半年後,偶然にも当科を受診されたので撮影させていただいたのが右側の写真。周囲の皮膚と同じ色調・質感で,ごくわずかに色素脱失という状態だった。患者さんによると,2005年の夏は特に遮光するわけでもなく,腕を出して生活していたそうである。つまり,色素沈着部位を日に当てまくって生活していたわけだが,この患者の場合には色素沈着は自然に改善したことになる。

2005年8月4日 2006年3月22日

 そういうわけで,例えばヤケドして上皮化した後に遮光するかしないかには次の2つの考えがあるろ思う。どちらを選ぶかは患者さんの人生観次第である。

  1. ちょっとでも色素沈着が起きたら困るので,3ヶ月〜半年間,外で遊ばせない
  2. 色素沈着が起きてもいずれ治まるのであれば,どんどん外で元気に遊ばせたほうが子供のためにいい
 

 また,上皮化完了直後の皮膚は乾燥気味なので(理由は恐らく,皮脂腺の機能がまだ正常に戻っていないためだろう),一日数回,白色ワセリンを塗布して乾燥予防をしたほうがいい。

 また,「傷をきれいにする軟膏」 としてヒルドイドソフト(R)を処方されている先生が多いが,これは基本的に保湿剤でなく乾燥剤なので使用すべきでないし,薬理学的に考えても 「傷を目立たなくする効果」 はないと考えられるし,私自身もヒルドイドが肥厚性瘢痕に奏功した症例は一例も見たことがない。もちろん,鰯の頭程度の薬効はあるかもしれないが・・・。ちなみに,小林製薬の 「アットノン」 という薬も成分はヒルドイドと同じなので,これまた効果は鰯の頭程度であろう。

 このように説明すると「遮光クリームもクリームですよね。と言うことは乾燥剤じゃないですか?」という鋭いツッコミを入れる人がいると思うが,実はこれは正しいツッコミである。遮光クリームは確実に皮膚を乾燥させるのだ。要するに,「色素沈着予防を優先させるか,皮膚の乾燥を防ぐほうが重要か」 のトレードオフであり,色素沈着予防も皮膚の乾燥予防も,という選択肢はないと思われる。

 色素沈着でなく色素脱失になって,白っぽくなることも多いが,この場合も数年の経過で周囲の皮膚と同じような色に戻ることがほとんどだ。

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【縫合創の抜糸後の後療法】

 縫合創は抜糸直後は硬い感じがするはずだ。これが柔らかくなって安定するまでにおよそ3ヶ月かかる。逆に言えば,3ヶ月未満の傷は未成熟であり,可塑性があるということになり,この期間に 「傷を開く方向」 に力が持続的にかかると傷が広がってきて,「抜糸直後は線状だったのに,次第に幅が広がってきて1センチくらいになっちゃった」 になるわけだ。

 これを防ぐにはテーピングをして傷の拡大を防ぐしか方法がない。

  1. 茶色の色つき絆創膏を用意(できるだけカブれないものを選ぶ)
  2. 絆創膏を3〜5センチ(膝や肘の伸側の場合は10センチくらい)に切る
  3. 「傷に直角」 に隙間なく貼る
  4. 一日に一回,張り替える
  5. 3ヶ月間続けるのが理想だが,貼るのが面倒になったら止める
 


【肥厚性瘢痕,ケロイドの治療】

 傷が盛り上がって治った状態を肥厚性瘢痕(あるいはケロイド)と呼ぶ。厳密には別物だが,一般には同じに考えていいだろう。治療法は次のようになる。

  1. 最も効果的なのは懸濁性のステロイド(リンデロン懸濁液(R),ケナコルト(R)のケロイド/瘢痕内注射
    ただし,注射はすごく痛い!
  2. ステロイド含有テープ(ドレニゾン(R)。一日一回張り替える。2週間くらいからジワジワと効いて柔らかくなってくる。
  3. シリコンシート貼付。効果はステロイドテープと同程度だろう。値段が違うだけ,という噂も・・・
  4. ステロイド軟膏塗布。効果は弱い。
  5. リザベン(R)内服。これも,効いているのか効いていないのか,イマイチよくわからない。
    長期服用したから治ったのか,時間の経過とともに自然に治まったのか,比較検討ができない。
  6. ヒルドイドソフト(R),アットノン(R)。いずれも全く効かない。
  7. 圧迫。かなり有効だが,圧迫できる部位とできない部位があり,全例に適応できない。
  8. 腹部正中の術後創のケロイド(例:帝王切開後)瘢痕拘縮形成術をすればきれいに治るので,形成外科に相談
  9. 耳垂部のケロイドは切除できれいに治るが,前胸部正中のケロイドを手術すると,逆にどんどん拡大することが多い。
 


(2012/11/20)

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