保存的治療で治癒した糖尿病足,3度熱傷の一例

医療法人同心会 遠山病院 内科 李 由紀


 これまでにも治療例を投稿いただいている李先生から,「内科医だってここまでやれるんだ!」という症例の投稿をいただきました。これもすばらしいと思います。


 症例は62歳男性。15年前に足が化膿した際,糖尿病の指摘を受けていたが治療せずに放置(こういう患者,多いですよね)
 平成16年1月15日,入浴後に歩いて帰宅した際,両側足趾に水疱ができていることに気付き,救急外来を受診。入浴中に熱湯を足したが,その時に蛇口の下に足があったということであった。
 右第2趾,左第1〜4趾に水疱形成があり,一部破れている。痛みの自覚なし。入院時,HbA1Cは11.3%。

初診時の状態(左足) 初診時の状態(右足)
 直ちに入院となり,患肢の安静を保ち,インスリンによる血糖コントロールとプロスタグランディン製剤の内服を開始。局所治療としては水道水微温湯による洗浄と,食品包装用ラップによる被覆のみとし,消毒は一切行わなかった。また,適宜,壊死組織の除去に努めた。
 感染の合併は無く,血糖コントロールは徐々に良好となった。


初診5日目の状態 15日目の状態
 入院から約1週間で水疱は完全に除去され,2週間で潰瘍底部に白い壊死組織が固着する状態となった。皮膚は全層壊死の状態,すなわち3度熱傷の状態であった。さらに「洗浄+ラップ閉鎖」療法を継続。


24日目の状態 51日目の状態
 右の写真のように,初診から1ヵ月半で創面は健康なすべて肉芽で覆われた。


88日目の状態
 初診から3ヶ月で創は完全に治癒した。また,関節拘縮は認められない。この時点でHbA1Cは6.4%にまで改善した。


 以下の文章は李先生の考察です。

 考察 深達性2度熱傷以上は瘢痕形成による機能障害を残すことが危惧され早期の 植皮が必要な事が多いと言われている。しかし局所治療の見直しで保存的に治癒できる症例がかなりあるとも言われている。今回の症例は神経症ゆえにかなり高温の湯でじっくり時間をかけた熱傷であったため当初は深達性2度熱傷かと思われたが最終的には3度熱傷であった。
 糖尿病足の治療は血糖コントロール、循環改善、局所処置であるが、局所処置は軽視されがちである。この症例が保存的治療で機能障害を残さず治癒したことは局所治療の重要性を見直すきっかけになると考えここに報告した。

(2004/05/13)

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