感染の危険性が強い時は創を縫合しない方がいいというのが常識だ。例えば,既に発赤がある創,動物咬傷で受傷後時間がたっている場合などである。もちろん,これらの場合でも完全にデブリードマンできればいいが,乳幼児では全身麻酔をするのは大変だし,かといって乳幼児で局所麻酔で完璧にデブリードマンするのはほぼ不可能だろう。
かといって,顔面の場合は縫合しないとするのも不安である。傷跡が目立つのも困るからだ。
このような症例を治療する経験を得た。その結果,無理に縫合しなくても傷はきれいに治ることがわかった。全ての例でこうなるかといわれても困るが,少なくともこれを見ると,「とりあえず経過観察」を治療の選択肢としていいことがわかると思う。
症例は1歳女児。自宅で飼っている犬に右上眼瞼などを噛まれ,救急外来を受診。救急の担当医は縫合不能と判断し,とりあえず消毒してガーゼをあて,抗生剤を処方して,翌日,筆者の外来を受診するように説明した。
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「肉芽は筋線維芽細胞の作用で収縮する」というのが創傷治癒の基本中の基本であるが,上眼瞼のように,絶えず動いている組織でもこれほどまでに肉芽収縮が起こって創がきれいになるというのは驚きだった。これなら,全身麻酔をかけて創を縫合する必要はないのではないだろうか。とりあえず,開放創のままで治療してもいいのではないだろうか。
動物咬傷,人間咬傷の局所治療の原則はドレナージを効かせることと,決して密封しないことだと思う。被覆材で言うと,ハイドロコロイドで密封するとさらに感染をひどくするが,ポリウレタンフォームで覆えば感染は悪化しない,というのが個人的な感想である。つまり動物(人間)咬傷治療の基本は「半閉鎖療」であり,「創を密封しないが,創面の乾燥は防ぐ」工夫が必要と思われる。
ドレナージの問題であるが,「入り口は狭いが奥が深い」場合(牙で咬まれた場合)はドレナージが必須と思われるが,「大きく創が開き,創底が露出している」場合には吸収性の良い半閉鎖被覆材で被覆しても感染を起こす可能性は低いだろう。
ここではワセリン基材の軟膏(ゲンタシン軟膏)と半閉鎖式被覆材を併用したが,これは,創が大きく開いて陥凹しているため,被覆材のみでは創面の乾燥を防げないのではないかと考えてのことである。この症例のように上眼瞼の開放創では,薄い「半閉鎖式被覆材」が望ましいが,その目的のためには,現在市販されている被覆材はどれも一長一短であった。
全ての部位の開放創がこのような経過をたどるとは思っていないが,この例を見ると「とりあえず開放創として,創面の乾燥だけ防ごう」というのは治療方針として正しいのではないかと思う。
仮にこの方針で幅広い瘢痕を残して治癒したとしても(多分,こういう例は少ないだろうという自信はある),その後に瘢痕切除術を行えばいいだろう。初診時に無理して縫合する必要はないと考える。
(2004/02/04)