熱傷の局所治療
さて,熱傷の局所治療についても方針をまとめることにする。小範囲の熱傷から広範囲熱傷にまで適応できる治療原則である。なお,ここで述べる方法は従来の治療法を全て無視したものであることは言うまでもないと思う。従来の熱傷局所治療が全て間違っていたからこそ,ここで新しい治療法を提案するものであるからだ。
- 何で創面を覆うか?
- 広範囲熱傷では食品包装用ラップ(サランラップでもクレラップでもよい。もちろん,ビニールの風呂敷だっていい)で創面を覆い,ラップの上はガーゼか紙おむつで覆い,浸出液を吸収する。ラップはアセモを作りやすいので,傷の周りの皮膚をよく洗うようにしたほうが安全。
ラップは滅菌する必要はない(ラップの製造過程から考えて,市販されているラップに細菌が付着している可能性はほとんどゼロである)。
- 「褥瘡のラップ療法」で使われているOpWT(穴あきポリ袋+紙おむつ)で創面を覆うのも効果的。ラップ単独より汗疹ができにくいのがメリットだ。
OpWTについては下記の鳥谷部先生のサイトを参照。
- 顔面の熱傷ではデュオアクティブ(キズパワーパッド)が有用。
- 四肢や体幹の熱傷ではプラスモイストで創面を覆うだけでよい。プラスモイストは一部の調剤薬局やインターネットで購入できる。面積が広い場合には最も安価なプラスモイストTOPがいい。
- ラップで治療をしていて汗疹ができたら,汗疹の部分をよく洗ってプラスモイスト(プラスモイストTOP)で覆うと数日でよくなるはず。
- 軟膏を塗布したガーゼ,網目状ガーゼ(ソフラチュール,トレックスなど)は創治癒を阻害するし痛いので使ってはいけない。痛いのが好きな人は使っていい。
- 水疱の処置
- 水疱は直径2センチより大きかったら全て潰し,水疱膜は可及的に切除する。残した水疱膜の下の水疱液が細菌の培地となり,創感染を起こすことが多いからだ。
- ドレッシング交換の頻度
- ドレッシング交換は浸出液の量によって決め,多い場合は一日数回の交換が必要。浸出液が多い場合,頻回に交換した方が患者さんが快適に過ごせるからである。
- 消毒について
- 3度熱傷,広範囲熱傷であっても消毒薬は一切使用しないし,使うべきではない。
- 創感染の予防では,洗浄(入浴やシャワー浴など)と水疱膜の除去が最善の方法である。
- 抗生剤の使用法
- 3度熱傷,広範囲熱傷であっても予防的投与は厳禁である。抗生剤の予防的投与は創部に耐性菌を定着させ,その後の治療を困難にする。
- 発熱や局所の疼痛などの,明らかな感染症状があった場合に限って,抗生剤を使用する。ほとんどの場合,第一世代のセファロスポリン,あるいはペニシリンの点滴投与で十分である。
この場合は通常使用量より大目の量を投与し,症状改善が得られたら速やかに投与を止める。つまり「短期集中的投与」が原則である。
- 抗生剤含有軟膏(ゲーベンクリーム,ゲンタシン軟膏など)は使用しない。
- 軟膏について
- 上記のように創面を覆うのはラップのみでよいが,ラップに白色ワセリン(あるいはプラスチベース)を塗布して創面を覆うと,さらに疼痛緩和に効果的。
- 使用する軟膏は白色ワセリンかプラスチベースのみであり,他の軟膏(アクトシン,オルセノン,イソジンゲル,アズノールなど)は一切必要なく,特に,ゲーベンクリームは絶対に使用すべきではない。
- 抗生剤含有軟膏(ゲンタシン軟膏,テラマイシン軟膏など)も意味がない。
- ドレッシングしにくい部位の場合
- 頭皮の熱傷の場合,白色ワセリンを頻回に塗布して創面の乾燥を防ぐ。
- 顔面で範囲が広くなければハイドロコロイド貼付,広い場合はワセリンの頻回塗布でよい。
- 手指の広範な熱傷ではワセリンを創に塗布し,ディスポーザブルの手袋をかぶせる。浸出液が多い場合は,一日数回交換する。
- 乳児の手指の場合は,ワセリンを塗布し,手全体をラップで巻く(つまり,指1本ずつ巻かない)方法でよい。
- 会陰部の場合もワセリン塗布を頻回に行うだけでよいことが多い。
- 膿痂疹ができた場合の処置
- 湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)をしていて,創周囲などの健常皮膚にできる膿痂疹は,避けることができない合併症と考えられる。
- この場合,患部をよく洗ってプラスモイストで覆い,抗生剤内服をさせると数日で治癒する。
- 安静について
- 患者自身が苦痛を感じなければ,いくら患部を動かしても治癒に悪影響が及ぶことはない。
- 瘢痕拘縮,関節拘縮を予防する最善の治療は,患部の日常的使用である。つまり「動かしても痛くない」治療をすることが最善の拘縮予防である。
付録:ワセリンは必要か?
- 創を湿潤に保つという意味ではラップだけで十分であり,乾燥気味の創でなければワセリンは必須ではない。
- しかし,数人の患者の経験で言うと,ワセリンを塗布したラップの方が,ラップだけの治療より疼痛が少ないのは確からしい。
- ワセリン無しのラップで疼痛が多少でもある例を観察すると,ラップの性状の違いが大きい。筆者はこれまで3種類の「食品包装用ラップ」を使用してみたが,薄くて柔らかいラップは痛みが少なく,それより厚いラップは痛みを訴えることがあり,これはラップと創面の密着性が絡んでいるらしいと考えられた。つまり,薄くて柔らかいラップほど創面にフィットし,フィット感が悪いラップで痛みを覚えているらしい。
- 上記の痛みを軽減する手段としては,創面とラップの密着性を向上させればいいことになり,その一手段としてワセリン塗布が有効と思われる。
- 今後もしも,「熱傷のラップ療法」が普及してきた場合,使用したラップの種類によっては疼痛(それだって従来の治療に比べれば微々たる物だが)を訴える症例があるだろうし,そういう症例が1例でもあると,鬼の首でも取ったように「それ見たことか,ラップ治療なんて駄目,駄目」と言い出す輩が出現するはずである。
- こういう連中に先手を打つ意味で,過剰かもしれないが「ワセリン塗布ラップ」の使用を奨励しているわけである。これならほぼ全例で,疼痛がない熱傷治療ができるはずである。
(2010/12/10)
左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください