日本形成外科学会雑誌にクロルヘキシジン(ヒビテンとかマスキンなどですね)によるアナフィラキシーショックの症例報告が掲載されていました。
今沢 隆ら:グルコン酸クロルヘキシジン使用後にアナフィラキシーショックを起こした1症例. 日形会誌, 23; 582-588, 2003
局所麻酔で手術をしていて,閉創前に0.05%グルコン酸クロルヘキシジンで創面の消毒を行なったところ,その20〜30秒後に心拍数が低化し,血圧は測定不能,呼吸停止をきたしたが,アンビューバッグによる呼吸補助と酸素投与により,3分後に自発呼吸を認め,意識が戻ったという報告です。そして,次のように書かれています。
グルコン酸クロルヘキシジンは市販の歯磨き,軟膏,薬用クリーム,うがい剤に使用されているため,この症例は過去に何らかの薬剤から感作を受けていた可能性があり,今回のアナフィラキシーが発症したものと思われる。
国内では過去21年間に32例のアナフィラキシーショックなどのアレルギー症例の報告がある。
1980年,厚生省はオキシドールを発癌性の問題から口腔内での使用は行なわないようにとの情報を出しているが,まだ多くの施設で使われている。さらに,医薬品としては粘膜での使用が禁止されているグルコン酸クロルヘキシジンが医薬部外品としては粘膜での使用が認められ,最近では予防歯科の観点から日常生活での使用が奨励されている。
また論文では多数のクロルヘキシジンに関連する論文が引用されていて,それだけでも読む価値があります。
もっとも私に言わせりゃ,「傷を消毒」なんてしていること自体が,そもそも間違っているのです。傷は消毒しちゃいけないのに,しちゃいけないことをしているから,こんな怖い目にあうのです。さっさと「傷の消毒」を止めましょう。
そしてこういう症例から,「傷を消毒」されているとアナフィラキシーショックを起こす危険性がある,という事実に気が付くはずです。つまり,ちょっとした傷で病院を受診し,2回以上,クロルヘキシジンで消毒されたとたん,血圧低下,呼吸停止をきたす可能性はゼロではありません。こうなったら,その医者が緊急処置の知識があり,外来診察室に緊急処置のための設備があることを祈るしかありません。万一,緊急時の処置ができなければ,命が危ないのは言うまでもありません。
何しろ創面を消毒すると,皮膚の消毒より直接的に生体に作用します。いずれにしても,「傷を消毒」する医者にかかるのは命がけの行為になる可能性があることは覚えておいた方がいいでしょう。
(2003/09/24)