他の病院の形成外科で治療を受けてきた幼児の熱傷患者さんを診察したことがある。熱湯による熱傷。受傷後,救急車で近くの総合病院に搬送され,入院治療を受けていた。
ご両親がインターネットで熱傷治療について調べているうちに本サイトを発見し,熱傷治療についてメールをいただいのが発端でした。その病院を退院したのを機に私の外来を受診されたものです。
受傷部位は顔面〜上半身で一部V度熱傷,といったところですが,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)なら3週間もすれば治癒するでしょう。
しかし,患者さんは外来に入ってきた時からすごい恐怖感で,「お願いだからガーゼを取らないで! 許して! ガーゼを取らないで!」と泣き叫んでいました。もちろん,前医で「熱傷は消毒してガーゼ」なんていう19世紀的な間違った治療を受けてきたための痛みであり,その結果としての恐怖です。この患者さんの傷の痛みもさることながら,前医での熱傷治療で受けた心の痛み,心の傷はどれほどだったでしょうか。
私がこのサイトでこれまで説明してきたように,あらゆる皮膚外傷は「痛くなく」治療することが可能です。もちろん熱傷だって例外ではありません。何かで閉鎖してやれば痛くなく治るのです。極めて単純,簡単な治療原理です。ガーゼのような「創面を乾燥させる」ものでなければ,それこそサランラップだって,クレラップだっていいし,ポリ袋でだって治療できます。
それなのに,「熱傷治療とはこうするものだ」という旧世紀の知識に安住し,それ以外の治療が存在することも知らずに,「ただ痛みを与えるだけで,創が治らない治療」を漫然と行い,それで自分は熱傷治療の専門家だと思っている「熱傷専門医」がいるのです。
「熱傷は痛いものだから,患者は痛みを我慢するのが当たり前だ」,と思っているのだとしたら,そんな専門家なんていない方がましです。そういう医者は熱傷治療に携わるべきではないと思います。患者の苦痛に鈍感な医者に,医者の資格があるのでしょうか?
こういう患者さんを見るたびに,こんな治療を当たり前だと思ってしている医者たちに,激しい怒りを感じます。子供にこれほどの恐怖を感じさせる治療をしておきながら,これが当たり前の治療だ,これが最先端の治療だと信じ込んで恥じない「熱傷専門医」の鈍感さに憤りを覚えます。
こういう憤りが,私の活動の原動力であり,原点です。
(2003/04/23)