数十年前の火傷の痕が未だにコンプレックスで,人前で肌が出せません。綺麗にできますか?
ヤケドの痕(瘢痕)には治療可能なものと治療法がないものがあります。
  • 治療できるもの
    1. 赤く盛り上がっているケロイド,肥厚性瘢痕
    2. 運動障害を伴う傷跡のつっぱり(瘢痕拘縮)
    3. 幅の狭い線状瘢痕
  • 治療できないもの
    1. 色が白く盛り上がりのない面状の瘢痕
    2. 移植皮膚の醜形
 治療可能な熱傷瘢痕は,熱傷瘢痕全体のごく一部にすぎない,というのが現状だと思います。
 また,瘢痕拘縮は手術(瘢痕拘縮形成術)でつっぱり感と運動障害は改善しますが,瘢痕そのものがなくなるわけではありません。これはケロイドの治療についても同様で,「より目立たない状態」にはできますが,「全く傷のない皮膚」に戻せるわけではありません。
 

http://www.wound-treatment.jp/next/question-3.htm#121


アトピー性皮膚炎の治療について
 

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近くの病院に創傷ケアセンターというのがありますが,ここでは湿潤治療をしているのでしょうか?
 残念ですが,湿潤治療はしていないと思います。
 創傷ケアセンターは
ミレニア(株)という会社が運営していて,このサイトとは全く無関係です。ミレニア社は「アメリカの創傷治療,褥瘡治療」を普及させることが目的のようで,「消毒する + 軟膏ガーゼで傷を覆う + ゲーベンクリーム,ユーパスタなどの有害軟膏を使う」治療をしているようです(創傷ケアセンターから逃げてきた患者さんからの伝聞情報ですが)
 湿潤治療を行なっている創傷ケアセンターがあるかどうかは不明です。

 湿潤治療での治療を求めるならこのリストに名前を載せている医師こちらのリストにも名前を載せている医師の方が,より湿潤治療に習熟している可能性が高いです)を相談してみてください。
 

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 両前腕化学熱傷の患者さんです。6月10日に受傷し,近医を経て〇〇病院形成外科を受診。皮膚移植を薦められるもそれを拒否し,湿潤治療を求めて当院を受診されました。直ちにかさぶたを除去し、プラスモイスト処置と致しました。添付写真は、受診時、翌日の写真です。
 ここで質問なのですが、
  1. 受診時のかさぶた周囲は明らかに赤いです(痛み、熱感、腫脹はさほどなかったです)。そして、かさぶたを除去しプラスモイストを貼った翌日には、赤みが著明に軽減しております。これは、感染しかけていたという事なのでしょうか?
  2. 患者さんにかさぶた、水疱を切除する際に、「かさぶた、水疱は感染源になりますので、除去します。壊死した皮膚をそのままにするのは、傷口にハムを乗せている様なものです。」と説明しておりますが、その説明の仕方は如何でしょうか?
6月17日 6月18日 6月17日 6月18日
 これが果たして「感染予備軍」だったか否かについては答えは不明です。
 理論的には,「左右の腕に同じような黒色壊死に覆われた傷があって同程度に発赤があり,片方だけ黒色壊死を切除し,片方は放置」すれば回答は得られるでしょうが,これが現実的に不可能なことは考えればわかります。両側前腕に同程度の黒色壊死がある,ということは通常あり得ないからです。

 実はこれは,あらゆる「傷の治療法の評価」に絡んでくる問題です。
 例えば,「肥厚性瘢痕に対するリザベン内服の効果」ですが,「リザベンを服用させた人」と「服用させない人」での比較はできますが,一人の患者で「内服させた傷」と「内服させない傷」を比較はできません。
 ところが,リザベン内服による効果があったかどうかは,実は後者の実験でしか証明できません。だから,リザベンの臨床効果については常に疑惑がついて回ります。
 同様に,「抗生剤の予防的投与で創感染が抑えられたのか」は証明できません。一人の症例で「抗生剤を予防的投与した傷」と「投与しない傷」に分けられないからです。できるのはあくまでも「抗生剤を予防的投与した症例」と「しない症例」の比較だけです。
 だから,「この手術創は抗生剤を予防的に投与したから化膿しなかった」のか,「投与しなくても化膿しなかったのか」は永遠にわかりません。

 ちなみに,今回の症例で,黒色壊死を半分だけ切り取り,残り半分を残しておく,というハーフサイド・テストをすれば感染だったか感染でないかが証明できるか・・・と思考実験してみると,これも不可能であることがわかります。
 黒色壊死による感染とは,
「壊死組織の下に溜まっている組織液が感染源」だからです。半分だけ黒色壊死を切り取った段階で,残り半分の黒色壊死の下に溜まっている組織液も外に出てしまいます。つまり,半分の黒色壊死を切除しただけで,残した黒色壊死の感染も治ってしまうと予想されるからです。

 ここまで厳密に考えないのであれば,「感染しかかっていたけど,かさぶたを取ったから可能せずに済んだ」と考えるのは概ね妥当だと思います。現実に発赤が消失していますから。
 それと「痛み」というのは絶対値でなく相対値です。つまり,「かさぶた除去前と後で,楽になった/変化なし/悪化」で比較すべきです。人間は,痛くなくなってから初めて「ちょっと前までは痛かったんだ」と気が付く生き物ですから。
 「あなたはデブですか?」と言われても答えようがありませんが,「あなたは10年前よりデブになりましたか?」と質問されたら答えられます。これと同じです。「幸福」や「不幸」も同じです。比較する時点を設定しないと,比較のしようがありません。
 

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リストカットの跡を消したい
  • 幅数ミリ,長さ数センチの傷が1箇所の場合
    • 瘢痕の切除縫縮をする。手術は形成外科で行なっていて保険診療で行える。術後,長期間のテーピングが必要。
    • 赤く盛り上がっているのが気になる場合にはステロイド(懸濁性のケナコルト(R)がよい)の局所注射かドレニゾンテープ(R)の貼付が有効。赤みと盛り上がりはかなり改善する。どちらも保険診療。これも形成外科で行なっている。
    • いずれにしても,傷が完全に消えるわけではない。いまより多少でも目立たなくなったら御の字,程度に考えたほうがいい。
    • 美容外科で手術すれば傷跡が消える・・・という事はありえない。美容外科も形成外科も基本の手術方法は同じで,美容外科で特殊な治療をしているわけではないからだ。
    • 保険診療では治療できない,私費診療でないときれいにならない・・・というのも間違い。

  • 幅数ミリ,長さ数センチの傷が数個
    • 傷痕同士が離れている場合は切除縫縮。
    • 傷跡が隣接している場合にはケナコルト(R)局中かドレニゾンテープ(R)

  • 傷跡が何箇所もある/無数にある
    • 1つずつ,ケナコルト(R)局中かドレニゾンテープ(R)
    • Tissue-Expanderという風船を瘢痕周囲に埋め込み,数ヶ月かけてゆっくりと膨らませ,膨らみきった所で瘢痕を全て切除して,広げた皮膚で覆う,という手術が可能な場合がある。手術は形成外科で行なっている。

  •  治療は基本的に形成外科で行なっているが,手術をすればどの程度の結果が得られるのかについては,医者が "Before & After" の写真を見せてくれるはずだから(症例の写真を取っていない医者は信用しない方がいい),それをみて自分で判断すること。
     

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    子供が手のひらにヤケドしました。湿潤治療で皮膚は再生しましたが,十分に伸ばせない状態です。病院では皮膚移植手術が必要と言われましたが,本当に手術が必要でしょうか?
    【乳幼児の手掌熱傷では伸展障害(瘢痕拘縮)はほぼ必発】
     1歳6ヶ月より小さい乳幼児の手掌,手指の熱傷では瘢痕拘縮による進展障害は,ほぼ全例に起きます。これは治療の巧拙,治療法の違いというより,
    人間の手の構造によるものです。私の経験では,1歳6ヶ月以前の手掌や手指の深めの熱傷は,完璧な湿潤治療をしても,どんなに予防をしても,瘢痕拘縮がほぼ必ず起こります。

    【手術は絶対に必要】
     熱傷後の瘢痕拘縮で手指の伸展障害が起こる理由は,物理的に皮膚が足りないからです。だから,指が正常に曲げ伸ばしできるようにするためには,不足している皮膚をどこから調達してこないといけません。その調達手段として,現在では次の2つの手段があります。
    1. 瘢痕拘縮形成術(Z形成術,皮弁形成術)
    2. 植皮術
     拘縮の程度が軽い場合には前者のみで何とかできますが,程度が重い場合には皮膚移植が必要になります。それでしか「皮膚の不足」を補えません。こういう場合の皮膚移植は絶対に必要な治療です。
     また,熱傷後瘢痕拘縮は治ることはなく,マッサージや装具治療は効果がありません。

    【どうしても植皮は必要?】
     「指がまっすぐに伸びないと困る」という場合には手術(植皮)が必要です。しかし,「指が伸びなくても構わない/手が多少不自由でも構わない」のであれば手術も植皮も不要です。つまり,機能が正常な手にしたいなら手術を選ぶ,不自由な指でもいいなら手術はしない,という二者択一です。

    【手術の時期は?】
     瘢痕拘縮の程度にもよりますが,上皮化完了から数ヶ月~1年くらいで手術になります。長期間,治療をせずに曲がったままでいると関節が変形してしまう可能性があり,手術をしても手遅れになることがあるからです。

    【手術をする医者の見つけ方】
     手術は「手の外科」の専門医,あるいは形成外科で行います。どの時期に手術するかも含め,早めに受診されたほうがいいでしょう。

    【最初に湿潤治療で上皮化させたメリットはあるの?】
     熱傷受傷直後に皮膚移植をする治療をしても,移植皮膚は必ず縮むので二次的に瘢痕拘縮形成術が必要になります。つまり,手術は最低2回必要になります。
     一方,湿潤治療で上皮化させて瘢痕拘縮が生じた場合には,手術回数は1回で済みます。手術は全身麻酔ですが,全身麻酔のリスクを考えると手術の回数は一回でも少ないほうがいいと思います。
     熱傷直後に皮膚移植すると,かなり後半な面積に皮膚移植することになり,皮膚採取部の傷も大きくなります。一方,瘢痕拘縮形成術に伴う植皮は面積が小さくて済み(指1本に対してせいぜい1~2センチ弱),傷跡も小さくて済みます。だから,「受傷直後はとりあえず湿潤治療で上皮化させ,上皮化が完了してから瘢痕拘縮が生じた場合には,瘢痕拘縮形成術(+皮膚移植)をする」というのがベストの選択です。
     

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    怪我やヤケドをしてどうしても病院にかからなければいけない場合があると思いますが,その時に消毒されたりゲーベンクリームを使われたくありません。どうしたら良いでしょうか?
     問診票に一言,「ゲーベンクリーム及び一部の消毒液にアレルギーあり」と書きましょう。そうするとカルテの一番最初にでかでかと赤い文字で「ゲーベン禁,消毒薬禁」と記載されます。これで大丈夫です。
     

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    皮膚の老化の大きな原因は日焼けと乾燥と知り,下記の商品を使っています。一方,先生のご著書では、化粧品やシャンプ-のような界面活性剤入りの液体を肌に使うと、常在菌にとって過酷な環境を作ってしまうため、肌に強い悪影響がある、と説明されていたと思います。
    これらの商品に界面活性剤が含まれているのか、含まれていたとして、その害は日焼けや乾燥よりも強いのか判断できず日焼け止めと保湿剤の使用を継続すべきなのか決めかねております。どのように判断すべきなのでしょうか?
     

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    キズパワーパッドを貼ったのですが、説明書に「2歳以下の乳幼児には使用するな」と書いてあります。2歳以下の乳幼児に使うと危険なのでしょうか?
     私は10年以上前から,1歳以下の赤ちゃんの傷もハイドロコロイド被覆材(キズパワーパッド,デュオアクティブなど)で治療をしていますが,今までトラブルが起きたことは一例もありません。もちろん,何日も貼り続けていればアセモやトビヒが起こりますが,これは年齢によらず起こります。
     ハイドロコロイドなどの創傷被覆材の開発・販売元のメーカーは「高齢者の寝たきり褥瘡の治療」しか想定していなかったため,幼児での使用は想定外であり,まして2歳以下となると使用した経験もデータもないため,注意書きに「2歳以下では使わないように」としているのでしょう。
     いずれにしても,私の経験の範囲では,1歳以下の赤ちゃんでも1日1回は必ず張り替えるようにしておけばトラブルはないし,2歳以上の人と同様に傷もきれいに早く治ります。なお,赤ちゃんの場合は暑い時期には1日2回くらい張り替えたほうがいいようです。
     

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    「トリメチルグリシン」ってご存じでしょうか? 当院看護師が、保湿に関する研究をしたいと言ってきました。調べてみると、アミノ酸のひとつだそうで、砂糖大根から取れる天然成分なんだそうです。コラーゲン食べてもお肌がプリプリにはなりませんが、アミノ酸を吹き付けるとどうなんでしょう?。 個人的には意味ないような気がするんですが・・・。
     早速トリメチルグリシンについて調べてみました。と言っても,ググっただけですが・・・。
     構造式からすると,複数の水素結合の腕を持っているようですから,これで数分子の水分子と結合するんでしょう。だから「水分子と結合」⇒「保湿効果あり」というわけなんでしょうが,そうは問屋が降ろしません。「水分子と結合すること」と,「結合した水分子を離して他に与えること」は相反する性質です。
     要するにこれは「尿素は乾燥剤であって保湿剤ではない」のと同じ原理です。

     というわけで,そちらの病院の「トリメチルグリシン信者」の看護師さんは,メーカーからすると「格好のカモ」ですね。
     

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    蜂窩織炎の治療は?
     蜂窩織炎の治療について列記すると次のようになります。
    1. 抗生剤投与:PIPCやCEZなどの点滴で十分
    2. 四肢の場合は患肢の挙上と安静
    3. 外用剤は不要。リバノールシップに至っては有害無益。
    4. 触診,エコー,CTなどで膿瘍形成が認められたら速やかに切開排膿。排膿後の膿瘍腔内にはペンローズドレーンなどを留置。
     大体このようになり,ほとんどの例はこれでよくなります。
     また,[蜂窩織炎があって膿瘍形成を疑って切開し,結果的に膿瘍がなかった症例]がこれもまでに数例ありますが,全例において結果的に蜂窩織炎は速やかに消退しました。恐らく減張切開の効果と思われますが詳細は不明です。なお,このような「膿瘍のない切開創」は切開後はアルギン酸塩被覆材で被覆すると出血も止まり,痛みもありません。
     

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    湿疹の患者さんが受診されました。これまで近くの皮膚科でステロイド外用剤(ロコイド、フルコート、リンデロンVGなど)を処方され塗っていたとのことです。外用剤を塗っている間は症状は良かったが,切れたために全身の痒みがひどくなり外用剤を希望する目的でこられました。「新しい創傷治療」のサイトを参考に、乾燥しないような指導やワセリンを勧めてみたものの「そんなのよりもとにかくステロイド剤を処方して!」と取り付く島もない状態でしたので、ここで関係を悪化させるよりもリンデロンDP軟膏を処方することにしてしまいました。どういう対応をすればよかったでしょうか?
     私は「医療はサービス業」と割りきっています。極端なことを言えば,「病気は治ったが患者さんが不満足」と「病気は治っていないが患者さんは満足」では,後者を目指しています。「患者に苦労と努力をさせて病気を治す」のと,「患者に苦労をかけずに病気と共存する方法を教える」のでは,患者さんの満足度が高いのは後者です。

     例えば,つけ麺で有名なラーメン屋の親父が,「私は味噌ラーメンが食べたい」という客につけ麺を出したとします。もちろん,つけ麺は素晴らしく美味しいでしょう。でも客は満足しません。客の希望はつけ麺ではないからです。
     「当店の自慢はつけ麺なので味噌ラーメンは作れません」というのが正しいのか,「味噌ラーメンも出しますが,当店自慢のつけ麺も食べてみてください」というのが正しいか,「隣に味噌ラーメン屋さんがあるのでそちらに行って下さい。ここより美味しい味噌ラーメンが食べられますよ」と言うのでは,どれが正しいのでしょうか。

     「自分は医者だ,医者として正しい道はどうあるべきか」と眉間にシワを寄せて考えてもよい答えは出ませんし,おそらく堂々巡りをするだけです。でも,医者なんて所詮はサービス業です。ラーメン屋さん,本屋さんと同じで,とにかく客(=患者さん)が受診してくれないことには飯が食えないのです。自分が患者だったらどう感じるだろう,どういう思いで病院を受診したのだろうと考えると,いろんなことが見えてきます。

     ちなみに,痒みの強い患者さんには外用剤だけでなく,痒み止めの抗ヒスタミン剤を上手に併用した方がいいです。
     

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    皮膚科医です。先日,臀部の粉瘤感染の患者さんが受診され手術を行いましたが,手術時に毛巣洞(pilonidal sinus)であることに気が付き,筋膜の深さまで切除を行い並走しましたが,術後,創が化膿してしまいました。今後の治療方針について教えて下さい。
     診断は毛巣洞で間違いないと思います。治療方針ですが,患者さんの希望次第です。

    【多少,手術の痕が大きくなっても,治療期間が短いことを希望】
     この場合は形成外科(総合病院クラスの方がいいでしょう)を紹介した方がいいです。毛巣洞はよほど小さい物以外は単純な切除縫縮では術後に創離開が起こる確率が高く,回転皮弁やV-Y advancementのような皮弁形成術が必要になるからです。
     ただ,術後の傷は最初の膿瘍よりかなり大きくなり,特にV-Y advancementでは片方の臀部全体が皮弁になるため,「この膿瘍を治すのにこの傷が必要なの?」という気がしないでもありません。この手術瘢痕を容認できるかどうかです。

    【治療期間が多少かかってもいいから,傷が小さい方がいいと希望】
     この場合は,この症例の治療経過が参考になります。これは毛巣洞の切除縫縮術後に創が感染・離開し,それに対し湿潤治療で治癒させたものですが,これと同様,最初の手術では瘻孔の完全切除にみ行い,術後はアルギン酸炎被覆材で被覆するのみとして,その後はプラスモイストで被覆するだけで,このサイズの傷でも1ヶ月で上皮化します。瘢痕も目立ちません。
     なお,この治療では「瘻孔の完全切除」が大前提となりますが,瘻孔内部をピオクタニンで染めると取り残しがなくなるはずです。
     

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    ヤケドで入院していますが,毎日のガーゼ交換の激痛にノイローゼになりそうです。湿潤治療をしている病院に移りたいのですが主治医がいい顔をしません。どうしたらこの病院から抜け出せますか?
     こういう場合は「セカンドオピニオン」という魔法の言葉を使えば脱出できます。使い方としては「ヤケドの治療についてセカンドオピニオンで他の先生の意見も聞きたいです。紹介状をお願いします」といえば,医者は拒否できません。
     それでも主治医が四の五の言ったら,「この病院は患者のセカンドオピニオンの申し出を拒否するのですか? セカンドオピニオンの申し出を拒否されたと病院長に抗議しますがよろしいですか?」といえばいいです。多分,主治医は真っ青になります。そして,書いてもらった紹介状を手に,堂々と脱出してください。
     なお,紹介状を書いてもらうのにお金はかかりますが,脱出するための必要経費とお考え下さい。
     

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    主治医から傷を石鹸でよく洗うように指導されましたが,石鹸で洗わないといけないのでしょうか?
     この質問にかぎらず,「傷口は石鹸をつけてよく洗うように」と指導する医者が多いようですが,もちろん,何の根拠もありません・・・というか,洗うべきではありません。傷は石鹸で洗わないほうがいいです。
     石鹸は界面活性剤そのものであり,細胞膜(=脂質二重膜)を直接破壊します。だから,傷口(=細胞がむき出しと考えられる)を石けんで洗うと傷口の細胞は破壊されます。石鹸で傷を洗うと痛いのはこのためでしょう。
     創面の細菌を除去するためなら水で洗えば細菌は除去できます。何も界面活性剤を使用する必要はありません。石鹸が必要なのは「傷口が油で汚れている」状態だけです。つまり,傷口が機械油で汚れているとか,傷口がラー油まみれの場合だけです。これらの状態であれば「傷を石鹸で洗う」必要がありますが,それ以外では石鹸洗浄は不要です。
     「石鹸で傷を洗うように」と指導する医者は科学の基礎がわかっていないと思われます。
     

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    塗った後のワセリンをわざわざタオルや紙でごしごしこすらなくてはいけない理由がわかりません。たっぷり塗って,べとべとした部分を体のほかの部分に擦り付けてしまったら,そこも,ワセリンで保護されるし,タオルや紙を使わなくていいし,一石二鳥だと思うのですが,「ワックスがけ」のメリットがわかりません。
     理由は単純で,ワセリンのベタつきがちょっとでも残っていると仕事に差し支えるからです。ベタつきが少しでも残っていると,パソコンのキーボードを触ってもタッチパネルを操作しても携帯電話を使っても,それらは油(=ワセリン)で汚れます。
     さらに,手荒れの患者さんにワセリンを薦めると,多くの人が「ワセリンですか? 使ったことがあるけどベタついて仕事にならない。あのベタつきが嫌で使っていません」という人が少なくありません。つまり,「ワセリンはいいかもしれないけど,ベタつきがあるから使いにくい」と感じている人が非常に多く,その結果,「べたつくワセリン」より「しっとりスベスベのハンドクリーム」を選んでしまうようです。
     だから,ワセリンを処方するだけでは不十分で,ワセリンのベタつきをなくしてサラサラにする方法を指導しなければ「ワセリンによる手荒れの治療」は完結しないと考えます。
     また,ゴシゴシとべたつきを拭きとった状態でも水はしっかりとはじいてくれますから,「手を油の皮膜で覆い,乾燥を防ぐ」という目的は達成できていることがわかります。
     

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    歯科では抜歯後に抜歯窩がドライソケットの状態になる事があります。抜歯時に抜歯窩内骨面を強く圧迫したり,局所麻酔薬の効果が強いこともあるのか,数日経っても強い痛みを伴い骨面がそのままという状態になる事があります。このような状況になるとそのままでは治っていかず難儀することがあります。良い対処法があるでしょうか?
     以前勤務していた病院の口腔外科では,智歯抜歯後,止血のために抜歯窩にアルギン酸塩被覆材を詰めてみたところ,十分な止血効果が得られ,しかも,肉芽形成も上皮化(粘膜再生)もかなり速くなったと喜んでいました。5×5センチのアルギン酸塩被覆材の半分くらいで十分効果があり,アルギン酸塩被覆材はぎゅうぎゅうに詰める必要もないそうです。
     アルギン酸塩被覆材の原料は海藻の昆布(ラミナリア)ですので,飲み込んでも多分,大丈夫な気がします。ちなみに,ウサギの腹腔にアルギン酸塩被覆材を置いたままにして経過を観察した実験がありますが,3ヶ月で完全吸収されて感染は起きなかったそうです。
     私は以前,骨硬化性骨髄炎を治療したことがあります。骨硬化性骨髄炎よりシビアな口腔内の創治癒はあまりないと思いますので,大抵のものが治るような気がします。

     実際に上記の理論でドライソケットの治療をしている和歌山県の竹内歯科クリニックはこちら
     

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    ワセリンが鉱物油というのが気になります。保湿や保護の目的ならば,植物オイルでも代用できるのでしょうか?
     「ワセリンは鉱物油だから肌に悪い」と主張している人がいますが,これは古い時代の知識に基づいた非科学的なトンデモ説明です。
     
    ワセリンについては以前にも書きましたが,石油を精製する過程でできる鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2)で,n = 16~20のものがワセリンです。一方,石油は2~3億年前の海で大繁殖したシアノバクテリア(=植物の葉緑体)の死骸が海底に降り積もって厚い層を作り,プレートテクトニクスのより地殻の深い層に移動し,とてつもなく長い時間と圧力と高熱で変化したものです。つまり,自然の産物であり,植物由来の油と区別する意味がわかりません。
     むしろ,様々な化合物を含む植物油よりは,ワセリンのほうが構造式がわかっている分,氏素性がはっきりしています。

     さらに,「ワセリンは鉱物油で肌に悪い」というのは大昔の「黄色ワセリン」という純度が低くて不純物が含まれていた時代の話です。時代で言えば1960年代以前の話でしょうか。あの頃の黄色ワセリンは様々な不純物を含み,それが皮膚のカブレなどを起こしたようです。しかし,現在の白色ワセリンは高純度でほとんど不純物を含みません(ちなみにプロペトは白色ワセリンをさらに純度を高くしたものです)。つまり,現在の白色ワセリンやプロペトはカブレを起こす成分を含んでいないと考えられます。安全性は極めて高いです。

     さらに,ワセリンは極めて安全な物質です。人体と反応しないからです。だから,ワセリンを舐めても目の表面に塗っても肌に塗っても,何も起きません。人体と一切反応しないからです。
     ワセリンは鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2の一種です。n = 1 ならメタン,n = 2 ならエタンです。鎖状飽和炭化水素は炭素数が少ない場合(=分子量が少ない)は常温でも他の物質と反応しますが,炭素数が増える(=分子量が大きくなる)に従って反応性が低くなり,ワセリンくらいの炭素数になると常温では他の物質と反応しなくなり,反応させるためには外部からエネルギーを投入する必要があります。だから,皮膚に塗っただけでは皮膚と反応できず,皮膚炎を起こすこともできません。「ワセリンは安全な物質」という科学的根拠はこれです。


     一方,「植物油は自然の物だから安全」というのは植物学的に成立しません。例えば,ウルシに触ると皮膚がかぶれますが,これはウルシチオールというウルシの葉などに含まれる脂溶性カテコールによる接触皮膚炎です。ちなみにこのウルシチオールはマンゴーの皮にも含まれるため,マンゴーでかぶれる人がいるのはこのためです。また,ウルシチオール以外にも皮膚炎を起こす「天然植物由来成分」は多数存在します。それだったら,成分がはっきりわかっていてしかも不純物が含まれない白色ワセリンの方がはるかに安全です。
     ちなみに以前,アズノール軟膏について説明しましたが,アズノールというのはハーブティーで有名なカモミール(=カミツレ)の青い色素(アズレン)の成分です。このアズレンを油(ワセリン+ラノリン)に溶かし込んだ軟膏がアズノール軟膏で,通常は問題なく使用できますが,ごくまれにアズレンにアレルギー反応を起こす人がいるようです。つまり,安全性という点ではアズノール軟膏は白色ワセリンに劣ります。だから私は,アズノール軟膏でなく白色ワセリンしか使いません。

     というわけで,「植物油は自然の産物で安全」とか「ワセリンは鉱物油で危険」と宣伝している人がいたら,その人は科学の基礎を知らないか,自然の植物に過大な幻想を抱いているロマンチストでしょう。あるいは,あなたを騙してインチキ商品を売りつけようとしている詐欺師かも・・・。
     

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    膿痂疹(とびひ)の治療について
     私は次のような方針で治療している。
    1. 抗生剤内服は必須。MRSAが検出されていてもサワシリン,ケフラール,セフゾン程度で十分
    2. 明らかな皮内膿瘍は水疱膜を除去する(ピンセットで摘めば取れる)。入浴時に洗って膿瘍を潰してもいいが,石けんで洗う必要はない。
    3. 創部の被覆はつぎのいずれか
      1. プラスモイストDC:患部の大きさにあわせて切って貼り,絆創膏で固定する(フィルムで密封しない)。裏表の区別はなくどちらの面を貼ってもよい。
      2. プラスモイストTOP:腋窩や膝窩部など固定しにくい部位では,下着の内側に貼付して着用させるとよい。
      3. ラップやハイドロコロイドなどの「吸収力のない被覆材料」は絶対に使用してはいけない。悪化させてしまう。
    4. 外用剤は基本的に不要だが,上皮化が完了(=浸出液が出ていない)した局面を保護するために白色ワセリンやリンデロン軟膏を塗布するのは意味がある。あくまでも乾燥予防である。
     抗生剤についてであるが,内服させると拡大傾向が収まることを多数の臨床例から確認している。創面からMRSAが検出されていてもサワシリンなどの通常の抗生剤で効果がある。
     トビヒを起こすゲノムは全ての黄色ブドウ球菌(黄ブ菌)が持っているわけでなく,一部の黄ブ菌の株に限られる。一方,多剤耐性MRSAは野生株の黄ブ菌に比べて2倍のゲノムを抱えていて,そのため分裂するのに5倍以上の時間を要している。このため,多剤耐性MRSAがトビヒを起こすゲノムを抱え込むとさらに世代時間が伸びてしまい,生存に不利になってしまうからだ。つまり,創面からMRSAが検出されたとしても,それがトビヒの原因菌である可能性はないと考えられる。

     また,絆創膏まけしやすい子供さんの場合には,Bの「下着の内側にプラスモイストTOPを貼り付け,それを着せる」という方法が極めて有効だ。下着そのものが治療材料となるため,絆創膏固定が不要となる。
     

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    プロレスで流血専門のレスラーは,「ゆで卵の薄皮を傷口に貼って傷口を治す」と聞いたことがありますが,どうなんでしょうか?
    この話は有名ですが,論理的に考えると次のようになります。
    1. 出血を伴う裂傷 ⇒卵の薄皮には止血効果はないので,出血で浮いてしまってすぐに剥がれ,治療効果なし。縫合したほうが絶対に早く治る。
    2. 出血が止まっている裂創・切創 ⇒傷をくっつける効果は薄皮にはないと思われるので,縫合したほうが速いだろう。
    3. 流血している挫創・擦過創 ⇒卵の薄皮には止血効果はない。
    4. 止血している挫創・擦過創 ⇒この場合は創面の乾燥が防げるので治療効果はある。恐らく効果としてはラップと同等と思われる。だが,薄皮自体が次第に乾燥していくため,治療効果は長い時間続かないだろう。
     

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    狂犬病について教えて!
    簡単にまとめると次のようになります。
    • 現時点でも,いったん発症したら治療法はないウイルス感染症である。
    • 日本国内の犬に噛まれて発症した狂犬病は1957年以降,1例も発症していない。
    • 1970年にネパールで犬に噛まれて狂犬病を発症した青年がいたが,日本人の発生例はこれが最後である。
    • つまり,日本国内には狂犬病ウイルスを保有している犬はいないと思われるが,他の動物が持っている可能性はある。
    • 日本以外の国では,年間5万人が狂犬病で死んでいる怖い病気である。
    • 毎年,犬に予防注射する必要が本当にあるかと言われると,実はいろんな意見があって・・・。
     と,このような状況のようです。日本国内の犬に噛まれても狂犬病の心配はなさそうですが,絶対に安全かと言われると確証はない,という感じじゃないかと思います。



     その後,富山の北島動物病院の北島先生から次のような情報を寄せていただきました。北島先生,ありがとうございます。
    >日本人の発生例はこれが最後である。
    もう3~4年経ちますか・・・京都と神奈川の方が東南アジアで咬まれ,帰国後発症したのが犠牲になった方の最後ですね。

    >他の動物が持っている可能性はある。
    国内で確認しているの最後の罹患動物は猫だったと聞きますが,どうなったのやら・・・? ここは不確かな情報かも知れません。
    ただ,日本国内に置いてはイヌに対して徹底的に接種することによって封じ込める事に成功したのも事実です。

    >毎年,犬に予防注射する必要が本当にあるかと言われると,実は
    確かに,子犬の頃から3年くらい接種し続けていれば,そう抗体価は落ちないので,3年に一度くらいでもという意見もありますね。

    狂犬病予防法もかなり古い法律なんで,法改正されてもいいのかも。いいとこも悪いとこも含め。

    外国より病気が入ってこないようにする為に日本国内ではイヌに接種を受けてもらっているんですが,近年接種率が下がってきたいるのも非常に問題になってます。
    ワクチンは ONE FOR ALL , ALL FOR ONE . だということをわかってもらわなきゃですね。

    外国へイヌやネコ連れていく時にワクチン接種したり抗体価調べたりするんですが,出国先によって抗体価の規定が違い,抗体価をあげるために2回以上追加接種する事もあるようです。

    日本では狂犬病防疫上,重視されているのは北海道と富山です。ロシア船の寄港が多い事が関与してます。ロシアではイヌが航海の守り神らしく,必ず一緒にいて,かつ寄港先でリードも無しで港を散歩させているので。

    ちなみに,
    厚労省で発表している狂犬病発生状況の地図です。



     そしてさらに,たなかじろう動物病院の田中先生から,さらなる情報が寄せられました。田中先生,ありがとうございます。
    > 日本では狂犬病防疫上,重視されているのは北海道と富山です。ロシア船の寄港が多い事が関与してます。
    > ロシアではイヌが航海の守り神らしく,必ず一緒にいて,かつ寄港先でリードも無しで港を散歩させているので

    と北島先生が書かかれていますが,補足です。

    確かに事実ですが,それとは別にロシア,中国のコンテナに動物が紛れ込んでいることが多いようで,全国の外国船が入る港に注意が必要です。また港に限らず,一定条件を満たすと内陸部の倉庫までコンテナごと運べるので,これもキケンなようです。

    狂犬病清浄なハワイで本国から来たコンテナの中にコウモリがまぎれていて,このコウモリが狂犬病を保有していたことがあった様です。ハワイは動物の持込が非常に厳しく検疫官や港湾職員も意識が高いため,発見に至りましたが,一歩間違えば大変なことになっていました。
    数年前東京港でも中国からのコンテナに猫がまぎれていて,捕獲し調べたところ狂犬病は幸いにも陰性だったということもありました。

    もう一つ,猫からの感染例が非常に少ないのは,猫は狂犬病に感染すると狂騒状態にならずに,沈鬱傾向となり軒下など暗く静かなところで人知れず死んでいくからとのことです。
    米国ではコウモリからの感染が多く,ニューヨークではアライグマがウイルス保有しているとのことです。

    東京都獣医師会はこれらのことに危機感を持ち数年前から啓蒙活動に取り組んでいまして,板橋の佐藤克先生がこの道のエキスパートです。
    こんなサイトもありますのでご参考までに。
    http://www.rabies.jp/
     

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    きれいに上皮化したのに,「まだきれいになっていない。元通りの皮膚になっていない」,と熱傷患者さんから文句を言われることがあります。どうしたらいいでしょうか?
     こういう場合には『ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル』をご活用ください。
     初診の熱傷患者さんが受診されたらこの本を見せながら,「あなたのヤケドはこの症例と同じくらいの深さです。だから,1週間くらいで皮膚が再生すると予想されますが,できたての皮膚はこのように赤く,回りの皮膚と同じではありません。これからゆっくりと色が正常に戻って行き,正常に近くなるためには数ヶ月以上かかります」と説明します。要するに,一番最初の段階で治療の見通しをしっかりと示すことで患者さんに安心してもらい,医者の「治る」と患者の「治る」の間の認識のギャップをなるべく小さくすることが重要です。
     

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    蜂刺症,ムカデ咬傷の治療について
     ハチに刺された時の激痛には[1%キシロカイン0.5~1.0ml +リンデロン懸濁液0.5~1A]の局注が著効します。スズメバチに刺されてショックを起こしている・・・なんて場合はとりあえず,エピネフリン 0.3~ 0.5mg皮下注,酸素投与,末梢確保となりますが,こちらは救急医学の教科書をご参照ください。
     一方,ムカデに噛まれた場合には,42℃以上の熱いお湯に漬けておくと痛みがすぐに和らぎます。ムカデ毒はこの温度以上になると分解されるためのようです。逆に,冷やすといつまでも激痛が続きますのでご注意を。
     

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    赤ちゃんのオムツかぶれの治療はどうしたらいいでしょうか?
     オムツかぶれとは何かといえば,オムツに包まれた皮膚が長時間オシッコやウンチに接触したために起こる皮膚の炎症です。オシッコなどの水分に長い時間接していると皮膚がふやけてしまい,これにオムツとの摩擦が加わると傷ができ,さらにウンチの中に含まれる様々な物質も皮膚を刺激し,その結果起きるのがオムツかぶれとされています。
     つまり理論的に考えると,皮膚についたウンチ,オシッコを洗い落とし,その上でウンチ,オシッコと皮膚の接触を遮断してやればオムツかぶれは起きないことになります。
     具体的な方法は次のようになります。
     まず,臀部や陰部の洗浄はお湯だけで十分です。ウンチは水溶性ですからお湯で簡単に洗い落とせるからです。石鹸の界面活性剤は傷にはよくないので,オムツかぶれのように「傷ができている皮膚」に対してはなるべく使わないほうがいいと考えます。
     その上で,白色ワセリンをかぶれが起きている部分に塗ります。これで油の層ができますから,ウンチやオシッコが出てもそれらが直接皮膚に接触しなくなります。とは言っても,ワセリンは次第に落ちてきますから,1日数回塗らないと駄目です。
     

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    このホームページではメロリンガーゼ(R)について取り上げられていませんが,使い方・適応について教えてください
     メロリンですか。もう無くなったとばかり思っていましたが,まだ売られていたんですか。ちょっとビックリしました。個人的には,「ヨドバシカメラに行ったら白黒テレビを売っていた」くらいの衝撃です。
     メロリンは非常に古くからある治療材料で,私が医者になった1984年には既に熱傷治療などに普通に使われていました。おそらく,販売開始から30年以上経っているんじゃないでしょうか。
     当時は熱傷治療によく使われていて(・・・というか,治療材料はこれと乾燥豚皮しかなかった),私もよく使っていましたが,その後,創傷被覆材を使うようになってメロリンはとても使えないシロモノだとわかりました。何しろ,使った患者さんに「頼むから使わないでくれ。これはくっついて痛い。拷問だよ」と泣かれたくらいです。
     要するに,治療材料としての基本設計が古く,「ヤケドは乾燥させて治す」時代に設計された治療材料だと思います(類似のものに「エクスドライ」という治療材料があります。これも無茶苦茶くっついて痛いです)
     そういうわけで,今日では出番がない過去の治療材料であり,少なくとも「創傷被覆材」の含めるべきではないと思います。
     

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    乳児湿疹の治療について教えてください
     私は次のような方針で治療しています。多くの症例がそれなりに治っていますから,それほど的外れの方法ではないと思っています。
    • 弱酸性ビオレを含め,ボディーソープは使わない。お風呂ではお湯だけで洗い,余程臭いが気になっている部分だけ,固形石鹸を泡立ててそっと洗う程度にする。人間の皮膚についている汚れはお湯で必ず落ちる。
    • シャンプーも中止。お湯だけ洗髪にする。
    • ナイロンタオルは使わない。
    • 顔面はたっぷりめの白色ワセリンを十分に塗り込む。一日に数回は必要。ベトベトが気になったら柔らかいペーパータオルなどで拭きとる。
    • 四肢・体幹の湿疹はプラスモイスト(あるいはプラスモイストTOP)で被覆。1日1回交換。
    • 食物アレルギーについては小児科に治療を依頼。
     

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    傷口から膿が出て変な臭いがします。これって化膿ですよね?
     化膿はしていません。化膿している(=炎症症状がある)かどうかの判断はあくまでも「炎症の四徴候」の有無,つまり「疼痛・発赤・腫脹・局所熱感の有無」で決めますが,「炎症の四徴候」には臭気も膿も含まれていません。だから,「膿が出ているが痛みはない」傷は炎症は起きていないし,「臭いがするが痛みがない傷」は化膿していません。見た目で判断しないことが大切です。
     

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    「湿潤治療医師リスト」に掲載されているクリニックを受診しましたが,いきなりガーゼを当てられ,このサイトの治療法と違っています。なぜ,このような違った治療をしている医者がリストに載っているのでしょうか? 何を信じていいのかわかりません
     「湿潤治療医師リスト」と「熱傷治療医師リスト」はあくまでも自薦,つまり「私もこの治療をしています」という連絡をしてきた先生方を載せたものです。これらの先生方のうち,個人的に知っている人もいますが,多くは知らない人ばかりです。また,実際にどのような治療をしているかはメールの文面からはわかりません。もちろん,実際に彼らに会ってどのような治療をしているのか確かめられればいいのですが,このサイトと医師リストは私が個人で仕事の合間に作っているものですから,全国を回って連絡を寄越した医者に直接面接することは不可能です(・・・誰か旅費を出してくれ,病院が休んでもいいよと言ってくれるなら可能ですが・・・)
     「このサイトで推奨している治療を全く同じでない治療をされた」という不満は理解できますが,あと10年から15年すれば,この問題は解消されると思います。逆に言えば,15年後まではこのような問題は続くと思います。この問題は医者の世代交代が起こらないと解決できません。世代交代が起こって医者が入れ替わるまでは,昔の治療を知っている医者がいるからです。しかし15年経てば,「湿潤治療しか知らない医者」だけになります。

     現在,湿潤治療をしている医者は2つに分かれます。
    1. それまで外傷治療・熱傷治療をしてきて,途中から湿潤治療を知った医者
    2. それまで外傷も熱傷治療もしたことがなく,湿潤治療を知って初めて治療を始めた医者
     このサイトで推奨する治療に忠実なのは後者です。外傷も熱傷も治療したことがないため,湿潤治療しか知らないのでそれしかしません。このサイトしか頼るものがないからこのサイトに書いてある方法だけを行います。
     逆に前者の医者は,数十年にわたって自分なりに外傷や熱傷を治療してきて,途中から湿潤治療を知ったわけです。当然,自分なりに確立した治療方法・治療哲学を持っていますし,むしろ湿潤治療以前の時代の治療に慣れ親しんでいます。だから,何かあると昔の治療習慣が顔を出してしまいます。新しい家に引っ越したのについ昔の家の方向に歩いて行ったりとか,エレクトーン奏者がピアノを弾くと無意識に足で足鍵盤を探ったりするのと同じです。
     身に染み付いている習慣はなかなか止められませんが,これは医者の医療行為も同じです。昔の治療に慣れた年数が長ければ長いほど,昔の経験が無意識のうちに出てきます。慣れ親しんだ治療法は「生活習慣」の一部になっています。

     現在は明治維新直後の日本みたいなものです。武士階級も町人階級もなくなったはずなのに,元武士は武士の言葉使いや動作をついしてしまうし,元町人は町人時代の癖が抜けません。しかし,明治も中頃になると,明治維新後しか知らない世代が国民の半分を超え,そうなると元武士も元町人の差はなくなります。
     湿潤治療を私が初めて今年で15年,ネットで情報を発信し始めてようやく10年です。このサイト開始が明治維新だとすると,まだ明治10年,つまり元武士の人は武士の言葉使いでしゃべっている時代です。しかし,明治30年になれば江戸時代の生き残りはほとんど死に,皆が同じような言葉で会話するようになりました。
     だから,湿潤治療もあと10~15年しないと「皆が同じ治療をする」ようになりません。そしてその頃には,「10年前にはまだ,湿潤治療をすると言っておきながらガーゼを使う医者がいたんだってね」と笑い話になっていることでしょう。

     「どんな場合でもガーゼを当ててほしくない,軟膏は使ってほしくない」という方は,事前に医者に電話でその旨を強く伝えてください。そして「軟膏を使うようなら受診しません」と強く意思表示してください。現時点ではこれしか方法がありません。
     

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    歯科医です。口腔は湿潤環境だと思うのですが,歯科領域の創処置の関係について教えてください
     歯科と関連がありそうな問題・話題をまとめてみます。
     まず抜歯後ですが,
    アルギン酸塩被覆材(アルゴダーム(R),ソーブサン(R),カルトスタット(R)を噛ませると速やかに止血します。アルギン酸塩被覆材には極めて強力な止血作用があるからです。ある口腔外科の先生によると,これで止血できなかった例はないそうですから試してみる価値はあると思います。また,創面に固着しないため,翌日除去するときも痛くありません。
     口腔内は基本的に湿潤環境です。だから,例えば口蓋裂の術後,口蓋骨が露出した状態で手術を終了しても数日で粘膜が口蓋骨を覆います。
     口腔の湿潤環境には唾液が重要ですが,逆に言えば唾液分泌を抑制するようなことをするといくら口腔内でも乾燥します。その代表が「口腔手術後の絶飲食」です。このため,例えば骨切り術の後に絶飲食させると創離開が増え,術直後から飲食させると逆に創離開が減ります(これは複数の口腔外科の先生が確認しています)
     同様に,イソジンガーグルで頻回にうがいさせると,次第に口の中が乾いてきて,やがてチクチクと痛くなり,それを無視してうがいを続けると口腔がカビで真っ白になります。医原性の鵞口瘡ですね。いくらうがいが好きでも,イソジンガーグルでの頻回のうがいは避けたほうが安全です。過ぎたるは猶及ばざるが如し,というやつです。
     

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    右結腸人工肛門の周囲がビランがひどく難儀しています。問題は,認知症が高度で,何を貼ってもすぐに不快なのか自分で剥がしてしまうことです。また便が右結腸なため流動性があり貼付したものの間に染み込みやすいこともあります。
     同様の症例を当院では「紙おむつをばらして中のポリマーを取り出し,それをガーゼ(不織布タイプのものでもよい)に包んで人工肛門を直接覆い,便を吸収させる」という方法で対処しています。どうしても皮膚に貼られるのを嫌がる場合には,衣服(下着)にこれを貼付して当てるという方法もあります。なお,ポリマーを(不織布)ガーゼに包む理由は,形が自由に変えられるため,紙おむつよりも便(創部)との接触面積を広くでき,便を吸収してくれるからです。
     人工肛門周囲のびらん・発赤に対しては,白色ワセリンを頻回に塗布する方ことで対処します。これでびらん・発赤が落ち着いたら,人工肛門に戻します。
     この方法は胃瘻部のびらん,人工肛門の創離開による便汚染,下部消化管瘻の処置などにも応用できます。
     

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    コラーゲン鍋でお肌ツルツルになりますか?
     残念ながら,コラーゲンをいくら食べても飲んでも,お肌ツルツルにはなりません。同様に,ヒアルロン酸やコンドロイチンを飲むのも意味はないと思います。口から食べたコラーゲンなどのタンパク質は腸管でアミノ酸などの低分子の物質に分解されてから吸収され,体が必要とするタンパク質の材料になりますが,問題は「食べたコラーゲンは皮膚のコラーゲンにはならない」という点にあります。

     これはおもちゃのレゴを考えるとよくわかります。レゴは幾つかの限られた形のブロック(これがアミノ酸にあたります)があり,それを組み合わせて飛行機や家(これがコラーゲンなどのタンパク質にあたります)を作ります。
     ここで,コラーゲンを「レゴブロックで作った車」だとします。体に入った[車]はいったんバラバラにされてから吸収されますが,一緒に食べた[レゴで作った飛行機]や[レゴで作った家]もバラバラにされています。こうやってできた小さなブロックから新たに[車(=コラーゲン)]がつくられるのですが,組み立てるために手に取ったブロックが[さっきまで飛行機だったブロック]だったのか[さっきまで家だったブロック]なのかわかりません。バラバラにするとどれも同じ形をしていて見分けがつかないからです。新たに車を作る際に必要な形のブロックかどうかが問題であって,ばらす前がロボットであろうとロケットであろうと気にする必要はありません。
     これと同じで,タンパク質を分解してできたアミノ酸も牛肉由来のアミノ酸,大豆由来のアミノ酸,コラーゲン由来のアミノ酸は区別できないし,区別する必要もありません。リジンはリジンであり,トリプシンはトリプシンであり,何に含まれていたかは区別できません。

     もちろん,コラーゲンにだけ特異的に含まれるアミノ酸もありますが,コラーゲンは皮膚の真皮にだけ存在するタンパク質ではなく,靭帯や腱,骨や軟骨を構成するタンパク質です。だから,それらのアミノ酸が腸から吸収された時点では,それが皮膚のコラーゲンになるか靭帯のコラーゲンになるかはわかりません。それはあくまでも,体が必要とする優先順位で決まりますが,「お肌のコラーゲンが足りていないようだ。このコラーゲンはお肌のコラーゲンになって欲しい」というのは人間の勝手な願望に過ぎず,「体が必要とする優先順位」とは一切無関係です。また,願望が必要順位を変えることは不可能です。
     皮膚のコラーゲンが本当に足りなければそれを最優先で作りますが,皮膚より骨のコラーゲンが足りないと体が判断すれば皮膚は後回しにして骨のコラーゲン作りを優先させます。そうしないと,体を正常に維持できないからです。人体は「足りていないもの,不要不急でないもの」を作っていられるほど暇ではないのです。

     ちなみに,「コラーゲン鍋を食べると皮膚のコラーゲンが作られてお肌ツルツル」というのは,「貧血ならスッポンの血を飲めば貧血が治る」,「心臓病には豚の心臓(ハツ)がいい」,「頭が悪い人はサルの脳みそを食べると頭がよくなる」というのと五十歩百歩でしょう。
     

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    ケガをした患者が来られたとき,傷を洗っていますが,これは必要なんでしょうか?
     実は創洗浄は不要です。創面が異物で汚染されていれば洗浄は必要ですが(この場合,局所麻酔は必須。麻酔しないで洗うと痛い!),血液が付着している程度であれば,洗う必要はありません。
     では,なぜ「傷を洗う」と書いているかというと,湿潤治療に最初に触れた医者,患者の大多数にとっては,「傷を消毒しなくていい」というだけで驚天動地だからです。ソビエトの崩壊,江戸幕府の崩壊,アパルトヘイトの放棄と同じくらいのインパクトじゃないかと思います。
     こういう人にとっては,「消毒薬を使わないのはいいとしても,その代わりに何か使わないと不安」なんですね。その「代わりの何か」が水道水です。つまり,消毒薬の代替物としての水道水です。だから,「消毒でばい菌を殺す」のではなく「水道水で洗ってばい菌を洗い落とす」と説明すると,こういう人たちは安心して治療を受け入れてくれるようになります。
     いずれ,物心ついた頃から「傷は乾かさないのが常識。消毒薬は見たことがない」世代が世の中の多数派を占めるようになれば,「昔は傷を必ず洗っていたんだよ。痛いけど我慢してたのさ。傷が化膿しないようにってね」と昔話のネタになるはずです。
     

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    下腿熱傷の患者さんで時々,非常に痛がる人がいます。感染が起きているわけでもなく,順調に治っているのになぜか痛みがおさまらず,歩行も困難なようです。なぜでしょうか?
     下肢熱傷,特に下腿遠位以遠の熱傷は痛みを訴える患者さんが他の部位より多いです。それも「原因不明の痛み」が多いです。今まで経験したパターンを順不同にあげてみます。
    • 下腿~足背のⅢ度熱傷。全く痛みがなく経過していたのに,5日目に突然痛くて歩けなくなり,入院。感染症状もなく,ただただ「痛くて歩けない」の一点張り。入院して患肢挙上をしていても痛みは変わらず。しかし熱傷創面は順調に上皮化が進行。そしてある日突然,すたすた歩けるようになりました。
    • 女子中学生。広範なⅡ度の下腿熱傷。受傷翌日,部活の顧問から「痛くないなら練習に出ろ」と言われて3時間練習。その日から激痛で歩けなくなり,層の状態も悪化し,一部Ⅲ度熱傷に移行。
    • 男性の足背Ⅱ度熱傷。安静にするように説明したが,仕事が忙しいために仕事をしていたら,その晩から激痛が。
    • 乳児の下肢Ⅱ度熱傷。創面はほとんど上皮化しているのに,なぜか「痛くて歩けない」と訴え,自宅でもハイハイでのみ移動。その状態がしばらく続いたが,ある日突然,立ち上がって走った。
     こんな具合です。
     下腿~足背熱傷では「痛くなくても仕事を休め。足を上げていなさい」とアドバイスするとこういう「痛み」は防げるようです。また,湿潤治療の最大の長所は「痛みが少ない」ことですが,「痛くないから治った」と勘違いし,普通に歩きまわる患者さんが少なくなく,そういう人に「患部の腫脹⇒痛み」が発生しているような感じです。要するに,「痛くない」ことがアダになっているわけですね。
     乳児の「痛みと歩行困難」も理由がよくわかりませんが,なぜかある日突然,歩けるようになるみたいです。多分,「本当に痛くないことを自分で確認(自覚?)する」のに時間がかかるのかもしれません。
     なお,上肢熱傷ではこういう痛みを訴える患者さんは少ないので,下肢熱傷特有の現象なのかもしれません。
     

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    刺青(入れ墨,イレズミ)の治療について
     現時点では,刺青の治療(=刺青の除去)には次の方法しかない。
       ①レーザー治療
       ②切除縫縮
       ③刺青を除去して皮膚移植
       ④刺青を除去して湿潤治療で上皮化

     ①は刺青の色によって結果が違う。黒がもっとも除去しやすく,その次が青と赤,そして緑や黄色にはレーザーはあまり効かない。つまり,アメリカンなカラフル・タトーは取れないことが多い。値段は刺青の面積によって決まり,治療機関はネットで検索できるが,「どんな刺青も綺麗に取れる」と宣伝しているところは避けた方がいい(明らかに嘘の宣伝をしているから)
     ②は数センチ以下の小さな刺青が対象となるが,傷跡は「怪我をして縫った傷跡」と同じなので不自然さはない。全国各地の形成外科で手術してくれると思う。もちろん,保険は効かない。
     ③は以前から行われていた方法。「皮膚を採取する部位」にも傷跡は残るが,うまく行けば1回の手術で広範な刺青が全て除去できる。「入院費,全身麻酔の費用,刺青除去手術の費用,植皮の費用」が全て私費となるため,値段はかなり高いはず。「全身麻酔ができる病院で,デルマトームで刺青を剥ぎ取る技術があり,皮膚移植ができる」医者がいれば治療可能で,多くの総合病院の形成外科がその条件に当てはまると思う。
     ④は,私は大昔に一度だけ背中全体の刺青をこの方法で除去したことがある。深いところまで刺青色素が入っていなければ1~2週間くらいで上皮化し,傷跡も比較的きれいになるはずだ。問題は,「全身麻酔ができる病院で,デルマトームで刺青を剥ぎ取る技術があり,しかも湿潤治療の知識がある」医者がなかなかいないことだ。湿潤治療が「普通の治療」として普及すれば,どこの病院でもできる治療になると思われるが,現時点では,治療をしてくれる医者を見つけるのが最大のネックであろう。
     仕上がりのきれいさ(=自然さ)でいうと①>②>④>③の順である。①はこの中では一番きれいだが,カラフルな刺青の場合にはかなり痕が残るようだ。
     いずれの方法にしても保険は利かない。刺青は病気でないのだから当たり前である。「刺青は入れるのは安くて簡単だが,取るのは高額で大変」である。
     ちなみに筆者は刺青の治療は行っていない。不慮の事故でケガをしたりヤケドをした人の治療で手一杯だからだ。
     

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    冷え症がひどく湯たんぽが手放せませんが,冷え症って治らないのでしょうか?
     私の経験では,冷え症はドルナー錠,オパルモン錠の内服で治ります(有効率は90%以上という感じです)。1回2錠,1日3回内服させるだけで,2~5日間連続内服すると手足がポカポカしてきて冷え症がなくなり,あとは内服を止めても冷え症が再発することはないようです。万一,冷え症が再発しても,1錠か2錠,数回内服するだけで大丈夫みたいです。
     ドルナーは「冷え症」が適応病名になっているようで,これで処方できます。
     あと,妊娠中の女性に投与すると流産する危険性が高いので注意してください。
     

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    既にできたやけどの痕に湿潤治療は効果がないとありますが,例えば傷痕をもう一度火傷させるか切除するかなんらかの方法によって傷を作り,湿潤治療をするというのは無理でしょうか。
     湿潤治療で傷が早く治り,傷跡もきれいなのは創面に残っている皮膚付属器(毛孔や汗管)からの皮膚再生が創面全体から起きるからです。逆に言えば,皮膚付属器が残っていなければ完治までに時間はかかるし,傷跡も「きれい」というほどではありません。この症例を見るとわかるように,受傷後10ヶ月経っても前腕の傷は半分以上残っていて,全ての傷が治るまでにあと半年~1年はかかると思われます。
     昔の熱傷治療で瘢痕治癒した瘢痕を切除したり,皮膚移植を受けた皮膚を切除した場合,皮膚付属器は既に残っていないため,上記の症例のような経過を辿り,面積にもよりますが1年経ってもまだ傷が治らない,という場合が多いと思います。
     さらに困るのは,瘢痕や移植皮膚を切り取ったとして,その傷口(創縁)が正常な皮膚でなければ皮膚の再生は起こらない,という問題です。再生に必要な皮膚細胞は正常な皮膚(=瘢痕でない皮膚)から遊離するからです。「創縁が正常皮膚」にするためには,現在の瘢痕を超えて拡大切除しなければならず,傷跡は必然的にかなり大きくなります。
     また,瘢痕を切除して上皮化させた状態は,この症例のようになると予想されます。現在の状態とこの写真の状態を見比べ,どちらがましかと言うことです。

     この質問者のような悲劇を断ち切るためには,昔ながらの熱傷治療をする医者どもを撲滅するしかありません。この連中が熱傷治療を続ける限り,この質問者のような悲劇が続きます。2010年6月16日の更新記事に紹介した「バカ形成外科医」が悲劇を生み出す諸悪の根源なのです。
     

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    水疱,血疱,皮下血腫の治療方針について
     表皮内水疱,真皮内水疱(血疱)の場合には,水疱膜(血疱膜)はすべて切除してプラスモイストやハイドロサイトで被覆します。水疱膜や血疱膜には神経組織は分布していないので,痛みなく切除できます。
     皮下組織(真皮より深い組織。脂肪層や筋肉内など)の血腫の場合には,とりあえず2週間は様子を見ます。ほとんどの場合,2週間以内に自然に吸収されます。吸収されないで残っている場合には局所麻酔下に切開排膿し,ペンローズドレーンを留置して圧迫します。
     

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    「感染管理」エキスパートコースで末梢静脈カテーテルのサーベイランスに取り組んだところ,結果・考察がCDCのガイドライン(72時間から96時間ごとの入れ替えを奨励)に沿っていなかったことで,考察のやり直しを指導されました。
    病棟で調べてみると,特殊な事情がある患者(例:静脈炎を誘発する薬剤を点滴,認知症などで安静が保てない)を除き,圧倒的多数では1週間から10日間留置しても問題ないことを確認しています。その結果から現行のまま感染兆候があれば交換することでよいとしたところ,CDCのガイドラインに沿って72~96時間で交換するよう現場へ啓発が必要だと指導されました。なんだか納得できません。
     もちろん,「CDCに従うように」という指導に納得できないあなたがまともであり,エキスパートコースの指導者がおかしいです。現実を見ずにCDCばかり見ている連中が少なくありませんが,こういうのを「CDCバカ」,「CDC原理主義者」と呼びます。イスラム原理主義者,キリスト教原理主義者並に頭が悪い連中です。頭の悪い連中(要するに馬鹿ですね)の命令に従わなければいけないのは辛いことです。
     大体,「72時間から96時間」という数字がおかしいと思いませんか? 72も96も24の倍数です。なぜ24の倍数かといえば,もちろん,看護業務は24時間単位で行っているからです。しかし24時間は人間の生活のサイクルであって,細菌の生活サイクルは24時間単位ではありません。感染対策が細菌を相手にしている以上,細菌の生活サイクルを交換の単位にしなければいけないのに,「人間の勤務サイクル」だけ考えています。だからCDCガイドラインは机上の空論,オバカさんが作ったガイドラインです。
     CDCガイドラインを猿まねするだけ,CDCガイドラインをオウム返しにいうだけなら,何も指導者は人間である必要はありません。サルかオウムで十分です。CDC原理主義者の皆様はもしかしたら,オウム並の頭脳しかないので,「CDCのオウム返し」しか芸ができないのかもしれません。
     

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    ゲンタシン軟膏・リンデロン軟膏を傷に塗るのはどうでしょうか?
     どちらも傷に使っても問題ありません。ゲンタシン軟膏の主剤であるゲンタマイシンは0.1%であり,残りの99.9%が基剤,つまり白色ワセリンです。同様に,リンデロン軟膏も99.88%はワセリンです。つまり「ほぼ純粋なワセリン」と言えます。だから,傷に塗っても安全です。
     「リンデロンはステロイドだから」と心配する必要もありません。短期間しか使用しないし,もともとステロイドとしての効果は強くないからです。
     傷に塗ってもいい軟膏の見分け方は次のとおりです。
    1. 半透明な軟膏は傷に塗っても安全(⇒基剤がワセリン,あるいはプラスチベースだから)
    2. 不透明な軟膏は傷に塗ってはいけない(⇒クリーム基剤だから)
     

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    院内勉強会で手指消毒薬の使用量サーベイランスの結果報告を報告し,手指消毒遵守率が低いため手指衛生をきちんと行うようにと発表することになっていますが,いかがでしょうか。
     以前にも説明したとおり,「消毒薬でなければバイキンを殺せない」という発想がおかしいのです。細菌学の初歩を学ぶと判りますが,このような意識は19世紀の生物学の発想です。要するに,WHOもCDCも厚労省も,19世紀の知識で感染症対策を考えています。だから,消毒薬で手洗いすると手が荒れ,その手はMRSAの 巣窟になります。
     また,「手洗い遵守率が低い」ことを問題にされていますが,そもそも目的はなにかというと「手洗いをさせる」ことではなく「院内感染を減らす」ことのはずです。目的と手段を混同してはいけません。決まりを守らせることが目的だと混同すると,決まり自体が間違っていたときに全てのシステムが崩壊します。

     ではどうするか。病棟を[ひっきりなしに消毒薬で手洗いをさせる]と[水道水のみで頻回に手洗いさせる]と[手指が汚れた場合にだけ水道水で洗浄]の3つに分けて医療処置をさせ,1ヶ月間で各病棟間での院内感染発生数を調べればいいだけのことです。恐らく,3群で発生率に差はないはずです。次に病棟を変えて同じ実験を繰り返せば,「手指消毒と院内感染」の関係が明らかになります。
     それで「手指消毒による院内感染発生抑制効果は水道水と同じ」であれば,消毒薬による手指消毒・洗浄を止めます。実に簡単なことだと思います。
     

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    消毒と細菌については理解できたのですが,インフルエンザやノロなどのウイルスには消毒は必要あるのでしょうか?もしくは消毒しなくとも水で洗うだけで落ちるものなのでしょうか?
     ウイルスは核酸(遺伝子)をカプシドというタンパク質の膜が包んでいる構造体です。
     また,ウイルスはターゲットとする細胞には結合できますが,健常な皮膚表面とは結合しているわけでなく,皮膚の上に乗っているだけです。だから,洗い流せばウイルスは落とせます。

     消毒薬はタンパク質に結合して立体構造を変えるので,もちろん消毒薬を含むあらゆる「タンパク質変性剤」はウイルス除去に有効です。
    しかし,その消毒薬(タンパク質変性剤)は人間の細胞も障害します。皮膚表面の角質が正常なら消毒薬のタンパク質変性作用はあまり影響を及ぼしませんが,消毒薬に含まれる界面活性剤は角質に対して害を及ぼします。
     つまり,ウイルスがタンパク質で包まれている以上,「ウイルスのみ殺して人間には害のない消毒薬(タンパク質変性剤)」は絶対に作れないと言うことです。

     ウイルスを除去するだけでよければ,火炎放射器で皮膚を焼けばウイルスはなくなります。「ウイルスは怖い,ウイルスを何としても除去しなければ」と考えると,最後は火炎放射器に行き着きます。
     火炎放射器によるウイルス除去の愚には誰も気がつきますが,消毒薬によるウイルス除去の愚には誰も気がついていません。
     

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    肺癌手術(右上葉切除,第1~3肋骨切除,胸椎合併部分切除)後に創離開が起こりました。胸腔に通じる深い瘻孔(組織欠損)がありガーゼでドレナージを行っていて,ガーゼ1枚入るくらいのスペースになっています。どんな処置をしたらいいのでしょうか。
     この症例ですが,創内には何もいれず,表面を紙おむつで覆うだけで治るはずです。この症例経過が参考になると思います。創内にはガーゼも何もいれず,表面をラップやハイドロサイトで覆っているだけで根治しています。
     なぜガーゼを創内に入れる必要がないのかというと,「傷の表面を何かで覆うこと」そのものが不要だからです。

     医者にとって「傷表面は治療材料,治療薬でおおわれていなければいけない。傷表面は何かで直接覆われていなければいけない」という考えは強固なもので,陥没した傷を見るとガーゼか何かを入れたくなるし,軟膏を入れたくなります。しかし「陥没した傷には何かを入れなければ治らない」というのは単なる思い込みで,医学的な根拠はありません。
     このような症例では創部に紙おむつをあてて仰向けになってもらって体を動かしておけば,創内にたまった液体は出てきておむつに吸収されます(このドレナージは一日数回程度で十分です)。しかし,吸収される浸出液は余分な分だけで,内部(創面)は乾燥することはなく湿潤に保たれ,その結果深部から肉芽が上がってきて陥没は埋まってきます。
     

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    「湿潤治療をしている医師」と「熱傷治療をしている医師」を分ける意味はないと思います。外傷も熱傷も同じ治療法だからです。
    理由は次のとおりです。
    1. ヤケドをして「湿潤治療をしている病院(医師)」を受診したが,ヤケドは治療していないと断られた,という患者さんからの連絡を受けることが少なくない。

    2. 「熱傷も外傷も治療法は同じ」ということに気がつくのは,実際に外傷の湿潤治療を初めてうまくいき,おっかなびっくり熱傷治療を始めてみて治療例を重ねたからわかることであり,最初はそこまでわからない。

    3. 「熱傷は治療している小範囲で軽症の熱傷に限る」という医者が少なくなく,「熱傷を治療している」と公表すると手に負えない重症熱傷患者が受診するかもしれない,と恐れている医者も少なくない。

    4. 同じ病院内に形成外科・皮膚科があり,熱傷患者は自動的にそれらに振り分けられるため,熱傷治療したくてもできない,という医者も少なくない。

    5. 専門医として特殊外来を持っていて,熱傷患者の治療に専念できる状態ではない,という医者が少なくない。

    6. 皮膚移植手術の知識も技術も道具もないため,皮膚移植が必要な熱傷は治療できない。このため「熱傷を治療している」とするには気が引ける,と考えている医者も少なくない。

    7. 日本形成外科学会の重鎮は「熱傷と外傷は別物」と考えている。現に,四国で講演した際,座長をしていた徳島大学形成外科教授から「外傷の湿潤治療はいいが,熱傷に湿潤治療を行うのは間違っている。こういうことを言い続けるなら,形成外科専門医として認めるわけにいかない」と公衆の面前で恫喝されたことがある。つまり,日本形成外科学会は「熱傷と外傷は別物」と考えている。
       このような状況下では,形成外科専門医が「熱傷を湿潤治療している」と名乗りにくいかもしれない

     現在,熱傷治療を行っている形成外科医・皮膚科医は「熱傷は特殊な病態をもつ特殊な疾患。他の外傷とは全く別物」という教育を受けています。熱傷学会があり,熱傷専門医が認定されているのが何よりの証拠です。専門知識を持っている医者が熱傷治療を行うべき,と考えているわけです。このような教育を受けた世代がいる限り,「外傷と熱傷は別物」という意識は消えないと思います。

     これは要するに,生まれた時に周囲の大人が全てタバコを吸っていた世代(=喫煙の健康被害が知られていない時代,喫煙することが格好いいと思われていた時代)と,喫煙の健康被害がわかってしまった時代に生まれた世代の,喫煙に対する態度の違いと同じです。
     1960年代のアメリカ映画,フランス映画,日本映画を見ると,登場人物の大多数が喫煙していますが,1990年以降の映画では喫煙している人物はほとんどいません。この間に喫煙に対する意識が変わったため,映画界も変わったためです。

     これと同じように,医学現場で世代交代が起これば自然に「外傷も熱傷も同じで区別するほうがおかしい」というのが常識になるでしょう。現在は過渡期なのです。
     

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    手術前のイソジン手洗いは必要でしょうか。手洗いで手が荒れて困っています
     結論から先に書くと,手術前にイソジンなどによる手洗いは不要である。通常使用している家庭用の石鹸で十分だろうし,理論的に考えれば水道水で洗っただけで十分目的は達成できるはずだ。実際私は,外来で指骨折の観血的整復術,腫瘍切除術を行う際,手洗いはしていないし,使用している手袋も未滅菌のディスポのものであるが,それで感染を起こしたことはない。
     これは次のように基礎的事実から演繹できる。
    1. 手,前椀の皮膚に付着している細菌は皮膚常在菌通過菌に分けられる。
    2. 創感染を起こすのは通過菌のみ(例:黄色ブドウ球菌,緑膿菌)であり,皮膚常在菌は創感染を起こさない。従って,手術前の手洗いで除去すべきのターゲットは通過菌である。
    3. 皮膚常在菌は皮脂腺から分泌される皮脂を栄養源とするが,通過菌にとって皮脂は増殖抑制に作用する(分かりやすくいえば,皮脂は通過菌にとっては毒物である)
    4. このため,皮膚表面に皮膚常在菌が皮脂に包まれた状態で生息し,通過菌はその上(=皮脂がない)で生息・付着している。つまり,深部に常在菌,表層に通過菌という住み分けをしているわけである。
    5. 通過菌は皮膚の上に「ちょっと乗っている」状態であり(通過菌にとって皮膚は本来の生育環境でないから,皮膚と結合するメカニズムを持っていない),洗っただけで除去できる。
    6. 水道水で手の通過菌を除去してしまえば,通過菌で汚染されている物に直接手を触れない限り,手は通過菌に汚染されることはない。
    7. 消毒薬で手洗いをして滅菌手袋をはめても,滅菌手袋の下の皮膚は数十分後には元の常在菌叢に戻っていることは実験的に証明されている。ここで重要なのは,手洗い後の皮膚に出現する細菌は皮膚常在菌(=創感染を起こさない)のみであり,通過菌(=創感染を起こす)でないという事実である。通過菌は皮膚にとっては外来生物だからである。
    8. 手術中に手袋にピンホールができることは実験的に証明されているが,そのピンホールから術野にこぼれ落ちる細菌はすべて皮膚常在菌(=創感染を起こさない)であり,創感染を起こす通過菌ではない。従って,「術中の手袋の損傷,ピンホール」で創感染は起こらない。
    9. 滅菌手袋表面は無菌であり,「手洗いをしてからはめた手袋表面の細菌数」と「手洗いせずにはめた手袋表面の細菌数」に違いはなく,どちらもゼロである。つまり,イソジン手洗いをしてから手袋をはめようと,全く手洗いせずに手袋をはめようと,手袋表面の細菌数はどちらもゼロであって違いはない。
    10. 以上から,手術前の手洗いは不要であり,せいぜい,水道の流水か石鹸で洗うだけで十分と結論づけられる。
    11. イソジンなどのポピドンヨード消毒薬には界面活性剤が添加されている。界面活性剤剤は細胞膜破壊作用を持つため,荒れた手(=角質が損傷している)をイソジン手洗いすると,さらに手荒れが悪化することになる。
    12. 皮膚常在菌でもっとも優勢なPropionibacterium属は嫌気性菌であり,酸素に触れると増殖がストップする。この細菌を酸素から守っているのが皮脂のワックス成分である。イソジンの界面活性剤剤は皮脂を分解して洗い流すため,Propionibacterium属の生存に必要な嫌気性環境を破壊する。このため皮膚は「好気性の細菌の空白地域」になり,黄色ブドウ球菌やMRSAが定着するようになる。
    13. どうしてもイソジンで手洗いをしなければ気が済まない,病院の決まりとしてイソジンなどで手洗いをしなければいけないという場合は,手洗い前に白色ワセリンで手をコーティングし,その後に手洗いをするしかない。そうすれば手荒れの発生をある程度予防できるはずだ。
    14. 細菌は水と栄養源さえあればどんな環境で生活できる生命体だが,水がなければさすがの細菌も増殖不能である。白色ワセリンには純粋な鎖状飽和炭化水素であり水を含んでいないため,白色ワセリン表面に細菌が落下したとしても生存できないことになる。つまり,白色ワセリンで細菌が増殖することはない(ちなみに,水の存在下で鎖状飽和炭化水素を分解する細菌は存在するが,それらはすべて古細菌であり,現在まで,人体に病原性を持つ古細菌は発見されていない)
    15. 従って,「手洗いをしたらすぐに白色ワセリンを手に塗り込み,滅菌タオルでゴシゴシとワックス掛けする」ことで手表面の通過菌を除去すると同時に,究極の手荒れ予防になると結論づけられる。
     

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    病院で傷を縫ってもらいましたが,毎日消毒され,ガーゼを当てられています。これでいいのでしょうか?
     きちんと縫合されている傷なら消毒されようとガーゼを当てられようと,ほとんど問題ありません。縫合されている傷の中に消毒薬が入ることはないし,皮膚(創縁)がピッタリと寄っているので乾燥することもないからです。
     消毒されたりガーゼを当てられていけないのは,擦りむき傷やヤケドのような皮膚欠損創のみです。
     抜糸後の処置については,
    こちらを御参照下さい
     なお,抜糸前の縫合創にハイドロコロイド(キズパワーパッドなど)は貼らないで下さい。縫合糸がハイドロコロイドがくっつくと剥がせなくなったりします。  
     

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    子供がヤケドして大学病院形成外科でゲーベンクリームで治療を受けていて,植皮が必要といわれました。
     現時点では,もっとも旧式の熱傷治療をしているのは大学病院形成外科・熱傷センターです。大学病院の先生方はなぜか,前世紀の遺物としか言いようのない旧世代の熱傷治療に執着していらっしゃいます。大学病院形成外科などで旧習的治療は,それらの若手医師からの内部告発的メール,そして,その病院で治療を受けている患者さんからの相談メールに生々しく書かれています。
     極端な言い方をすれば,「皮膚移植をして欲しかったら大学病院を受診,皮膚移植しないで治したかったら湿潤治療をしている開業医や小規模病院へ」となります。

     これまで,大学病院形成外科で「植皮をしないと治らない,植皮をしないと機能障害が起こる,植皮をしないと敗血症で死ぬ」といわれた患者さんを数十例治療していますが,全例,1週間~2ヶ月くらいの経過で治癒しています。機能障害も起きていなければ,皆さん,お元気です。皮膚移植が必要だった例は一例もありません。
     さらに,大学病院などで「これは3度熱傷で,皮膚移植をしないと治らない」と宣言された患者さんで,本当に3度熱傷だったのは1/5以下でした。
     要するに,大学病院形成外科・熱傷センターのお医者様たちは皮膚移植がしたくてしたくてたまらないため,患者(と家族)を恫喝し,嘘をついてまで何が何でも皮膚移植に同意させようとしているのかもしれません(ちなみに筆者は,某大学形成外科教授から
    「こういう熱傷治療をしていると,形成外科専門医の資格を取り上げる」と恫喝された経験があります)

     では,大学病院などで「皮膚移植しないと治らない」といわれ,簡単に治った症例をご笑覧下さい。  皮膚移植をされるとこういう惨状を呈します。24年たってもこれほどむごい跡を残します。

     ちなみにゲーベンは激しい痛みを起こす軟膏で,浅い傷をどんどん深くする「特効薬」で,「白い色のクリーム(=ほぼ間違いなくゲーベンです)」を治療に使われていたら,さっさとその病院から逃げ出したほうがいいです。
     湿潤治療での熱傷治療を希望の方は「熱傷を湿潤治療している医師」に直接連絡をとってみてください。
     

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    爪が剥がれそうです。どうしたらいいでしょうか?
    【爪が剥がれて既に爪が無くなっている場合】
    ワセリンを塗布したラップ,キズパワーパッド,プラスモイストで覆うと痛みはなくなります。その後は1日1回交換しておけば,7~10日できれいに皮膚のような組織が覆いますので,あとは爪が生えてくるのを待つだけです。通常は2週間後くらいから,爪半月の部分に新しい爪が顔を出します。

    【爪は剥がれたがまだ残っている場合】
    この場合は,とりあえず爪を元の位置に戻し,爪の上にティッシュを乗せてから絆創膏で強めに圧迫(ティッシュを置かないと爪に直接絆創膏がくっついてしまい,剥がすと爪も一緒に・・・)
    痛みもなく,爪の色も正常に戻ったら大丈夫です。
    爪の色がおかしかったり,痛みが出たり腫れている場合は病院へ。
     

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    口腔内殺菌剤「パーフェクトペリオ」という商品があります。次亜塩素酸と炭酸水素ナトリウムを含んだ電解水で,「うがい10秒で虫歯菌と歯周病菌をほぼ100%殺菌できる」 とうたっています。歯科医療界の二大疾患である虫歯と歯周病はその原因が口腔内の細菌による感染症であり,起因菌をターゲットにする薬剤などが研究されていることも事実です。しかしこの商品は感染症であるならば口腔内を無菌にすればよいという安直きわまりない発想のもと開発され,最近たびたびマスコミでとりあげられたため,最先端治療のごとく誤解され爆発的なヒット商品となりつつあります。悲しいかな,この商品に飛びついている歯科医師が多数いることも事実です。この商品についてどう思いますか?
    絵に描いたようなインチキ商品だと思います。しかし,それを理解するためには恐らく,「歯周病とは何か」という根本概念,根本定義から捉え直す必要があります。
    細菌はごくわずかの水とごくわずかの栄養物があれば地球上のどこでも生息できる生物です。そして,人間の皮膚も口腔も口の中にできた傷口も,細菌にとっては「生息可能な環境の一つ」でしかありません。だから,「ごく短時間だけの無菌」は可能でも,「ずっと無菌を保つ」ことは原理的に不可能です。
    消毒薬のポピドンヨード(イソジン(R))の中で増殖する細菌もいれば農硫酸の中で生存可能な菌もいます。硫化水素を栄養源とする細菌もいます。PCBでもダイオキシンでも青酸カリウムでもパラチオンでも細菌は分解できます。

    だから,歯周ポケットは短時間なら無菌にできますが,それ以上無菌を保つことは不可能です。歯周病は慢性感染ですから,短時間だけ無菌にすることは全く無意味です。

    私は,歯周病はある種の爪周囲炎と同じではないかと考えています。爪半月部分の爪甲は爪上皮で覆われていて,ここで皮膚と爪がしっかりとついています。この爪上皮が爪根部への細菌侵入を防ぐバリアになっています。しかし,この部分に主婦手湿疹などが起こり,それが治らずに慢性化すると,正常の爪上皮が再生できずに瘢痕治癒するようになります。このため,爪半月部の爪甲と皮膚の間がくっつかず,その結果,隙間(ポケット)ができます。
    こうなると,このポケットから細菌が侵入して炎症を起こすようになります。細菌のバリアである爪上皮が失われたため,この「ポケット」を居場所とする細菌が定着しそれが炎症を起こすからです。

    この「隙間」と「歯周ポケット」は基本的に同じだと思うのです。

    爪上皮が失われてできたポケットを,消毒しても洗い続けても抗生剤含有軟膏を塗り続けても爪周囲炎の発生は防げません。「細菌が定着できる場」ができ,ここは決して無菌状態を維持できないからです。
    この感染を防ぐには,「ポケット」を埋めて,その表面を正常な爪上皮で覆ってしまうことしかありませんが,これは余程の事(=死体の指を丸ごと移植するとか)をしない限り不可能です。「爪上皮を維持するのに必要な場」が瘢痕組織で置き換えられているため,正常組織が再生できないのです。

    私の考えでは,歯周病は結果にすぎません。真の原因は「歯牙と歯肉の結合部分が破壊されて瘢痕治癒した」ことにあります。その結果としてポケットが形成され,このポケットが細菌の新たな生息環境になっただけです。だから,細菌を除去しても「ポケット」はそのままですし,そこに定着する細菌は必ず登場します。だから,歯周病を治療しようとして殺菌しようと消毒しようと全く無駄なのです。
    このような理由から,私はこの商品はインチキ商品だと断言します。
     

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    熱傷受傷直後の冷却はどのくらいの時間が必要でしょうか
     従来の熱傷治療では「20~30分の冷却」が常識とされてきましたが,これには次の二つの「冷却」が混在していたと私は考えています。だから,必要以上に長い時間,冷却していたのです。
       ①熱による変化を防ぐための冷却
       ②鎮痛のための冷却

     ①に関しては恐らく3~5分程度の冷却で十分です。
     ②に関しては,そもそも冷却による鎮痛は神経を麻痺させているだけです。従来は冷却しか鎮痛方法がなかったため,①が終わってもさらに長時間,冷却していました。しかし,熱傷の痛みは創面の乾燥を防ぐだけで十分に得られますし,多くの症例で劇的な鎮痛が得られます。
     従って,湿潤治療の熱傷治療では,せいぜい5分程度の冷却で十分です。
     

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    現在社会人ラグビー部の練習に顔を出しているのですが,選手は擦り傷など,小さな傷はほっといて治すといった状況です。破傷風の予防接種はチームで行うようなのですが,その他の対策としては水道水による傷の洗浄と湿潤療法で十分でしょうか? 何か他にやるべきことがあればアドバイスしていただきたいと思います。
     というわけで,「破傷風の予防接種はチームで行う」ようなので破傷風が発生する確率は極めて低く,よく洗っておけば大丈夫でしょう。ただ,筋肉が見えるくらい深い裂創の場合は,必ず病院を受診し,局所麻酔をしてもらって十分に洗浄したほうがいいでしょう。
     

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    アルギン酸塩被覆材を使っていて,翌日創部にアルギン酸塩が張り付いて取れないことがあります。無理に取ろうとすると出血しますが,どうしたらいいでしょうか
     こういう場合は無理に剥がさず,くっついている部分を残して余分なアルギン酸塩を切除し,その上をフィルムで覆えば,翌日簡単にはがすことができます。
     また,浸出液が少ない場合はアルギン酸表面が乾燥している場合は,キシロカインゼリーを塗布してからフィルムを張ると,翌日きれいに取れます。
     

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    湿潤療法やOpWTで改善を得られず,大学病院で従来のゲーベンガーゼに戻して傷が治ったという話を聞いたことがありますが,どうでしょうか?
     これは次のように考えると説明ができます。
    1. 肉芽上を遊走し増殖する表皮細胞にとって,肉芽面の浸出液が唯一の栄養源である。
    2. 浸出液の性状は肉芽の状態によって変化する。
    3. 上皮化が遅れている慢性創は肉芽が水っぽかったり過剰肉芽だったりして,上皮化がすぐに起こる肉芽と異なっている。
    4. つまり,前者と後者で浸出液の性状も異なっていて,前者の水っぽい肉芽は表皮細胞の分裂に最善の組成でなく,そのため,表皮細胞の分裂が遅れていると考えられる。
    5. ゲーベンは恐らく,この「水っぽい肉芽表面」を破壊することで,新たな肉芽面を作る。
    6. 新たな肉芽から分泌される浸出液が「水っぽい肉芽の浸出液」より表皮細胞分裂に有利に作用しているのではないか。
    7. もちろん,ゲーベンの細胞障害性はそれを阻害するが,表皮細胞の分裂速度がそれを凌駕すれば,結果的に上皮化が進む。
    8. 同様の現象は,過剰肉芽の外科的デブリードマンでも観察される。つまり,ゲーベン特有の現象ではない。
    9. この推論が正しいとすれば,ゲーベンの上皮化促進作用は「薬理作用」ではなく,「ゲーベンの物理的・化学的破壊作用」が奏功していることになり,外科的デブリードマンと本質的に同じであり,ゲーベンの薬効ではない。
    10. つまり,ゲーベンという薬剤でなくても,破壊作用さえあれば同様の効果が得らることになる。「イソジンで消毒したら治った。カデックス軟膏は治療効果がある」という主張の根拠はこれだろう。
     

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    褥瘡のラップ療法(OpWT療法)を病院で始めようとしたらWOCナース(Wound Ostomy Continence Nurse)の反対で始められません。近隣病院では既に始めていて,良好な治療結果が出ていて,しかも手間が大幅にかからなくなったと説得しても,聞く耳持たずです。どうしたらいいでしょうか?
     WOCナースは死ぬまでラップ療法を認めません。WOCナースがいる限り,その病院ではラップ療法を導入できません。WOCナースは,看護協会が認定したこと以外は正しくない,それ以外のものはすべて間違っていると信じ込んでいるからです。いわば洗脳状態であり,そういう洗脳を受けた人だけがWOCナースの認定を受けるのです。
     ゴミ袋でも治るのに,ではなく,穴あきポリ袋やラップだから治療を認めないのです。第一,ラップや穴あきポリ袋でも褥瘡が治ったらWOCナースが不要になってしまいますし,彼女たちの知識は不要のものとなります。1年間の研修を受けて取得したWOCナースの称号(?)が無意味なものになることは絶対に認めるはずがありません。

     というわけで,あなたの病院でWOCナースが退職するまで待つしかありません。
     

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    創傷被覆材で,粘着剤のついているもの(デュオアクティブ,テガダームなど)は創部に対して悪影響はないものでしょうか。浸出液がある場合ならば,浸出液で粘着部ははがれてしまい問題はなくなると思いますが,乾燥している創部なら粘着剤は創の上皮化に悪影響を与えるような気がするのですが,いかがでしょうか。
    創面から浸出液が出ていれば,いかに接着剤といえども創面には接着できず,創面への影響はほとんどないと思われます。

    湿潤治療で「創面から浸出液が出ていない」状態は上皮化が完了した状態です。従って,皮膚表面の状態と接着剤の関係で考える必要があります。
    • 〔上皮化した表面の物理的強度〕<〔接着剤の強度〕であれば上皮化した表面は損傷されます。
    • 〔上皮化した表面の物理的強度〕>〔接着剤の強度〕であれば損傷されません。
    • 上皮化はしたものの角化していない場合は物理的には極めて脆弱でしょうから,恐らく損傷を受けます。
    • 角化が完了した場合は,通常の皮膚と接着剤の関係になり,強力な接着剤の場合には角質損傷が起こるし,数日間貼付し続けて垢と一緒に剥がれるまで待てば角質損傷はありません。
     

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    透析の際のシャント穿刺時の無菌操作や消毒は必要でしょうか?
    透析の穿刺部位の消毒の是非の問題を医学の知識だけで解決するのは不可能です。しかし,基礎的生物学の知識があれば簡単に判断できます。

    皮膚の上の細菌は常在菌と通過菌(外来菌)の二つに分けられます。
    前者は「皮膚の上でしか生息できず,皮脂とその分解産物のみを栄養源とし,弱酸性でのみ増殖する」細菌であり,後者は「皮脂とその分解産物があると増殖が抑制される」細菌です。
    また,前者は基本的に宿主である人間に対して病原性は持ちません。人間に対して病原性を発揮するのは後者の通過菌のうちのごく一部です。

    皮膚常在菌は皮下組織,血管内,腹腔内・・・などでは増殖できません。これらの環境には皮脂がなく(皮脂があるのは皮脂腺のある皮膚表面のみ),弱酸性でなく中性環境だからです。
    細菌は基本的に,
    とりあえず必要ない遺伝子は直ちに捨て去ってゲノムサイズを小さくすることを生き残り戦略として選んだ生物です。このため,新しい環境に置かれてもそれに適応できません。
    これは,不必要な遺伝子までため込んでいるために新たな環境に適応できる真核生物との最大の違いです。

    しかし,皮膚上の通過菌には皮下組織や血管内で生存増殖できる細菌がいます。だから,血管穿刺前に除去すべきは常在菌ではなく通過菌だということになります。常在菌は血管内に入っても生存できないため,血管内に入っても自然にいなくなるからです。

    皮膚常在菌でもっとも優勢な細菌であるPropionibacterium属は嫌気性菌で酸素があると増殖をストップします。そのため,皮膚の上では皮脂のワックス膜の下を生存の場としています。その他の嫌気性常在菌も同じです。
    一方,皮膚上の通過菌はこのワックス膜の上に付着しています。皮膚常在菌と違い,本来皮膚にいる細菌ではないからです。
    このため,皮膚上の通過菌を除去するには,よく洗えばいいということになります。通過菌は皮膚表面に単に付着しているだけだからです。物理的に洗浄すれば通過菌は除去できるし,除去の手段は物理的洗浄ですから,滅菌水で洗う必要もありません。
     

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    下腿全面の皮弁状の挫滅創の治療方針について
    脛骨部の挫滅を伴う皮弁状剥離の治療は難しく,これなら絶対に大丈夫,という方法はないと思います。

    私の基本方針は次の通りです。
    • 初診時には,明らかに血流のない皮膚でなければ皮弁状皮膚の切除は行わない。
    • 皮弁を元の位置に戻し,皮弁下にペンローズドレーン(あるいはナイロン糸ドレナージ)などを挿入し,創縁をテーピングするか縫合固定する。
    • 血腫を作らないように皮弁を圧迫する。しかし強すぎると圧迫で壊死するので注意が必要。
    • 皮弁が薄く,創縁でない部分が黒くなってきた場合には,その下に血腫形成している可能性が高いので,黒色部分の中央を切開して血腫を外に出し,圧迫を続ける。
    • 皮弁が厚く,創縁でない部分が黒くなってきた場合は血流不全による組織壊死なので,黒色壊死になるのを待ってから切除する。
    • 創縁が黒色になっている場合は壊死なので,抜糸のころに一緒に切除する。
    • 組織壊死の部分はプラスモイストで湿潤治療で上皮化させる。
     

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    数年前に大やけどをしました。やけどの痕は湿潤治療で治るでしょうか?
     残念ですが,湿潤治療でも治りません。湿潤治療とは「痕を残さないようにやけどを治療する」手段ですが,「既にできたやけどの痕を治す治療」ではありません。だから,今から湿潤治療を受けても無駄です。

     「消毒して軟膏ガーゼ,駄目なら皮膚移植」という昔ながらの熱傷治療の傷跡(瘢痕)は決して元の状態に戻せません。もちろん,皮膚移植でも元に戻りませんし,きれいにもなりません。形成外科で行う瘢痕拘縮形成術は運動障害(瘢痕拘縮)を改善する手術ですが,見た目の問題はほとんど解決できません。
     人間の皮膚の構造,瘢痕の構造から考えると,もとの皮膚に戻すこともできなければ,いったん瘢痕治癒した皮膚をよりきれいにすることも不可能なのです。人間が手を羽ばたいても飛べないのと同じです。

     形成外科医・熱傷専門医の「手術できれいになる」という言葉に騙されないで下さい。医者の言う「きれい」と患者が想像している「きれい」は全く違います。「きれいになるはず」と思って手術を受けると失望します。手術で治せるのは機能障害です。
     また,巷にあまたいる「やけどの傷跡をきれいに治す名医」はインチキです。彼らは「自然に目立たなくなる」のを「私の治療できれいになった」とすり替えているだけです。
     熱傷瘢痕というのは,外見の問題に関しては治療法のない難病のようなものです。しかしそれは,「治療法はないけれど,命にかかわることがない」難病です。また,熱傷瘢痕の見た目の醜形は,何もしなくても数年後にはかなり目立たなくなります。焦らないことです。焦るとインチキ治療の餌食になります。
     

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    縫合糸膿瘍のような創感染を起こしてる創部を見たら,まず感染の源である縫合糸を抜糸し創部を大量の水で洗浄しますがそのあと,その皮膚はまだ発赤,腫脹があり感染症状が残ってる状態でまず,何をどうしたらいいのでしょうか?
     炎症の症状には,有名な四徴候(腫脹,疼痛,発赤,局所熱感)のほかにも血沈,CRP,白血球増多などがあります。しかし,これらは同等な徴候,指標ではありません。

     もっとも鋭敏な指標は疼痛です。最初期から痛みがあり,感染源を除去すると速やかに消退します。つまり,最も信頼できる所見・症状は疼痛の有無です。私は疼痛がなくなれば感染創の治療が奏功したと考えます。疼痛が残っていれば,まだどこかに感染源が残っている可能性があると考えます。

     発赤は通常,痛みが出てから出現し,痛みが治まってもまだ発赤は続きます。場合によっては,痛みがなくなってから発赤が完全消退するまで数週間かかることがあります。つまり,発赤は炎症の始まりの所見としても,炎症消滞の所見としてもタイムラグがあり鋭敏さに欠けます。このため,「疼痛がない(=感染がおさまった)のに発赤が残っている」という現象が起きますが,こういう場合の発赤は気にする必要はありません。

     腫脹と局所熱感は炎症の指標としてはあまり使えません。熱感は客観的データにしにくいし,腫脹は「炎症が起こる前の患部」の様子と比較する必要があり,実際上評価が不可能だからです。
     CRPは急性炎症の指標としてはあまり使えません。炎症による痛みが消失してからなお数日間,高値を示しているからです。白血球増多も同様です。
     要するに,発赤やCRP,白血球増多は診断の指標ではあるが,治療のターゲットではない,ということです。発赤や白血球増多を治療するのはナンセンスです。治療のターゲットは感染症です。

     というわけで,私は「疼痛」以外の指標は見ていません。疼痛がもっとも鋭敏だからです。
     感染による炎症の治療には,現在,ベクトルがどちらの方向を向いているかを患者から読み取ることが重要です。ベクトルが悪化の方向に向かっているのか,改善の方向に向いているかの判断です。その判断は「昨日の状態」との比較をすれば簡単にわかります。
     しかし,多くの患者さんは「昨日の状態との比較ができない一見のお客さん」です。この場合は,疼痛の有無から「炎症のベクトル」の方向を読み取ります。
     

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    症例は80代の女性で慢性関節リウマチで寝たきり,介護5です。皮膚が非常に脆弱でちょっとしたことから傷を作ります。数ヶ月前に左下腿にできた裂創が潰瘍になり,プラスモイスト貼付でよくなるのですが,潰瘍再発を繰り返しています。どう治療したらいいのでしょうか。
     高齢寝たきりの患者さんの場合,潰瘍を無理に治すこともないと思います。寝たきり患者さんの褥創にしろ難治性潰瘍にしろ,原因は「老衰⇒寝たきり」にあり,潰瘍(褥創)は「老衰の一部分症状」に過ぎません。
     老衰になるとさまざまな症状が発生します。意識は混濁し,耳も聞こえなくなり,目は白濁し,そして褥創ができます。これは死への過程です。
     寝たきり患者には効率で白内障が見つかりますが,だからといって寝たきり患者に眼内レンズ挿入術はしないと思います(・・・やったら病院はぼろ儲けでしょうが・・・)。寝たきり患者さんの褥創・潰瘍を治療をするのはこの「白内障だから眼内レンズ挿入」というのと同じです。医療の問題ではなく倫理の問題です。

     老衰は不可逆性進行性変性疾患の極致です。年齢を若返らせることは現代医学では不可能だからです。である以上,老衰に伴う症状は難治性になるし,治療不能です。治療できたかに見えてもまた再発します。老衰という根本原因が治療できなければ,その部分症状もまた治療できないのです。
     回復可能な状態に対しては治療(キュア)が必要ですが,回復不能な状に対してはキュアでなくケアで対処すべきなのです。

     私ならどうするか。潰瘍と共存する道を選びます。潰瘍を治したところで,寝たきり患者さんが受けるメリットはないからです。治療法は褥創のOpWT(鳥谷部先生の「穴あきポリ袋と紙おむつ」法)にします。プラスモイストより廉価で治療できるからです。
     無理に治療せず,悪化しなかったらよしとする,という風に発想を切り替えることが必要ではないかと思います。

     今後日本はさらに高齢化が進み,このような症例はさらに増えると思います。そういう褥同・潰瘍全てを「医療材料と薬剤で治療」したら,日本の医療費はパンクします。褥創は治り,国が滅びます。だから,OpWTで「ケア」するという方向に日本の医療全体を方向転換する必要があると考えます。

     根本解決になっていないと批判されるかもしれませんが,私は,全ての病的状態は治療しなければいけないとも考えていないし,根本原因が除去できない病的状態に対してはそれと共存すればいいだけ,と割り切っています。
     

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    助産院で働く助産師です。会陰切開の縫合について疑問を持ちました。病院では会陰切開をして縫合しますが,助産院では医療行為ができないので会陰切開も縫合もできません。でも問題なく治っているような気がします。会陰切開とその後の縫合は必要なのでしょうか?
     とりあえず,次を読んでみてください。

    たとえ話をすると,
    「テレビを見る前に拍手(かしわで)を打つ家があり,その家族は必ず拍手を打ってからテレビをつけ,拍手を打たないとテレビを見られないと信じ込んでいます。しかし,隣の家では拍手を打っていないし,打たなくてもテレビはつきます」
    「拍手を打ってからテレビの電源を入れるとテレビがつく」のは事実ですが,だからといって「テレビをつけるには拍手が必要である」とはなりません。
     同様に,切開して縫合しても治るけれど,切開も縫合もしないのにそれなりに問題なく治っている,というのであれば,切開して縫合するという行為は上述の「テレビと拍手」の「拍手」と同じだということになり,無駄だと結論付けられます。
     ちなみに,会陰部の裂創については,整理用ナプキンの患部に当たる部分に接着剤つきフィルム(テガダームやオプサイトなど)を張り,その表面にワセリンを塗ってナプキンを当てると痛みがなくなり,傷もすぐに治るようです。
     

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    薬剤師です。亜鉛華軟膏が有害とありショックを受けています。その他の軟膏類についてはどうなんでしょうか?
     私は,軟膏類・パウダー薬が有害なものかどうかは基剤の種類により判断しています。薬効成分(=主剤)は考慮していません。
    • 基剤がクリームの場合はクリーム自体に組織障害性あり ⇒傷には使ってはいけない
    • 基剤が吸湿性のもの(亜鉛華軟膏,アクトシン軟膏,イソジンシュガーゲルなど)なら創面を乾燥させ治癒を妨害する ⇒傷には使ってはいけない
    • 基剤が油脂性なら基剤による組織障害性はない ⇒傷に使っても問題ない

     「主剤は治療効果があるが,基剤が創傷治癒を阻害する」という組み合わせの軟膏類は,「食材に毒物が含まれていなくても,鍋や水に有害物質が含まれていた」というのと同じです。つまり,食材は安全なはずなのに,できた料理には有毒物質が含まれます。今までの皮膚科の軟膏学は主剤のみを問題にして基剤の問題を軽視(無視?)してきたように思います。
     

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    娘がヤケドの治療で○○大学病院形成外科に通院治療中ですが,外来担当医が毎日変わり,治療について尋ねても皆少しずつ説明が異なり,誰を信じていいか不安です。どうしたらいいのでしょうか。
     そもそも大学病院の外来は,怪我やヤケドの患者さんを治療をするのが本来の仕事ではありません。大学病院の外来とは,入院して手術をした患者さんの経過を見るためのものです。
     恐らく曜日ごとに医者が決まっていると思いますが,それは手術が終わってそろそろ退院という患者さんに,「私の外来は毎週水曜日なので,水曜日に受診してください」と説明し,確実に来てもらうためです。曜日が決まっていれば患者さんも予定が立てやすいでしょう。こうして,自分が手術した患者さんの経過が追えることになります。

     しかしこういうシステムは,外来で毎日通院治療する場合には向いていません。すべての医者が怪我やヤケドの治療に興味があるわけでないし,一人一人で微妙に治療方針が異なっている場合があるからです。また,毎日日替わりの医者が治療をするため,医者側の責任の所在がはっきりしません。だから,何かトラブルが起きた場合,とりあえず応急処置をして翌日の医者に回すことを考えますし,もちろん,翌日診た医者も同じことを考えます。要するに,その診療科の中での患者のたらい回し状態になります。
     もちろん,中には責任を持ってみたいという医者もいますが,曜日ごとに外来に出る日が決まっているため,その医者に診てもらうのは週に一日しかありません。

     さらに
    以前にも説明したように,現時点で熱傷の湿潤治療に関する限り,各地の開業医が先頭を走っていて,大学病院や熱傷センターはこの治療を全く行っていないのが現状です。つまり,大学病院や熱傷センターでは古臭い昔ながらの熱傷治療を旧態依然とした方法で行っているわけですから,古臭い治療を希望される方以外は私はお勧めしません。ヤケドの治療を受けるなら湿潤治療を行っている病院(診療所)ですし,小規模病院や診療所でなら,毎日同じ医者が治療をしてくれます。
     だからhttp://www.wound-treatment.jp/dr.htmに名前の載っている医者で通院できそうな場所にある医者に片っ端から電話をかけ,熱傷治療をしていることを確認してその病院で治療を受けるのがもっとも安全です。たとえ内科の診療所であっても,大学病院よりはまともな治療をしてくれるはずです。また,形成外科や皮膚科といった診療科にこだわる必要はありません。
     

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    勤務している病院ではいまだにCVカテーテル刺入部にイソジンゲルを塗っています。医師に言っても,文献がなければ変えるつもりはないとのことでした。しかし,文献が見つからないです。もしよろしければ,教えていただけないでしょうか?
     文献があれば変える,文献がなければ変えるつもりはない,というのは要するに,自分の頭で考えていないと表明しているのと同じです。自分の頭で考えていないというのはつまり,脳味噌が空っぽな医者だと自分でいっているようなものです。
     このタイプの医者は恐らく,死ぬまでイソジンゲルを塗りたくるタイプです。死んだら棺桶にイソジンゲルを詰め込んであげましょう。イソジンゲルに包まれて心安らかに往生することでしょう。

     例えば,ポピドンヨードが生体に及ぼす作用はいくらでも文献があります。皮膚の常在菌は皮下組織では増殖できない生物だというのは生物学の常識です。だから,CVカテ刺入部の消毒は不要です。しかし,この医師はこういう証明は理解せず,「文献をもってこい」の一点張りでしょう。そういう脳味噌の構造だからしょうがないのです。

     今後5年で,消毒薬に関する大きなパラダイムシフトが起こるはずです。現在,医者になって4年目以下の人間で,湿潤治療のことを知らない医者はむしろ少数派です。彼らは消毒薬を使わなくても感染予防できることを知っています。どうすれば傷が治るかを知っています。そしてあと5年でこういう人たちが医療現場の先頭にたちます。その時,「イソジン医者」は時代遅れの医者になります。しかしそれでも,彼らは死ぬまでイソジンを止めないでしょう。
     これは,天動説から地動説へのパラダイムシフトが起こっても,天動説の専門家は死ぬまで天動説を説いて回ったのと同じです。

     現時点では,何が何でも消毒を止めたくない・止められない医者がまだ多数派です。生まれてからずっと消毒をしてきたので,消毒をしないと不安になるし,消毒しない医療というのが信じられないのです。キリスト教信者にとっての聖書,イスラム教徒にとってのコーランに当たるのが,こういう医者にとってのイソジンゲルです。
     これは要するに,ネアンデルタール人とクロマニオン人の関係に似ています。ネアンデルタール人とクロマニオン人は遺伝子的に断絶していていて,全く異なった種族でした。それと同じで,消毒医者と非消毒医者では常識というか知識が断絶しています。ネアンデルタール人は頑張ってもクロマニオン人にはなれないのです。
     だから,こういうネアンデルタール医者からイソジンゲルを取り上げたりせずに,滅びるのを静かに見守ってあげるのが新人類の態度かと思われます。
     

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    白血病の患者では怪我をして消毒しなかったら感染し,命取りになります。それでも消毒するなと主張されるのでしょうか?
     消毒して細菌が殺せるのは金属のような無機物に付着している細菌だけです。生体(皮膚や傷口)に付着した細菌は大量のタンパク質(傷口の場合には滲出液)に囲まれていて消毒薬から守られています。
     消毒薬はタンパク質と見ると結合して立体構造を変える物質です。だから,細菌のタンパク質だろうが傷口のタンパク質だろうが,区別なく変性します。タンパク質の変性で一番わかりやすいのは「生卵をゆでるとゆで卵になる」という現象です。ゆで卵を暖めても雛が生まれないのは,白身と黄身というタンパク質が不可逆性変化を生じたからです。
     傷口を消毒すると,ゆで卵と同じ変性が傷口に生じます。ゆで卵との違いは原因が熱によるものか,消毒薬によるものかだけです。

     構造的に見ても,細菌はプロテオグリカンを成分とする強固な細胞壁で身を守っています。この細胞壁は親水性の物質は通さないようになっています。だから水溶液である消毒液は細胞壁を通過できず,細菌を殺せません。
     一方,人間の細胞は脂質二重膜の細胞膜で包まれているだけですから,消毒薬のタンパク質変成作用が直接及びます。では,消毒で死ぬのは細菌ですか,それとも人間の細胞ですか?

     以上のことは白血病の患者でも同じです。なぜかというと,白血病だからといって消毒薬で壊れない特殊な細胞が傷口に集まっているわけでないし,白血病だからといって消毒薬に弱い特殊な細菌が傷口にいるわけでないからです。

     では,白血病の子供の傷口をしっかり消毒するとどういう現象が起きるでしょうか。もちろん,傷口はゆで卵状態になり,猛烈な痛みが出現し,傷の感染を防ぐ免疫細胞も死滅します。つまり,傷を化膿させるために消毒薬は最も効果的です。それでもよければ消毒してください。そして,子供を苦しめてあげてください。

     ちなみに,消毒薬がどれほど痛いかは自分の体で経験できます。自分の体に傷をつけてそれに消毒すればいいのです。是非,試してみてください。自分の体に傷をつけるのは簡単です。ガムテープがあればできます。子供を消毒で痛めつけるのは,まずこの実験をしてみたからで遅くないと思います。
    1. http://www.wound-treatment.jp/next/jikken004.htm
    2. http://www.wound-treatment.jp/next/jikken005.htm
     患者の苦痛を無視して苦痛を与え続けるのは医者でなくサディストの仕事です。あなたは医者ですか,それともサディストですか?
     

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    私の住んでいる地域では,「ひどい火傷がつるりと治った」と,人々が口をそろえる伝説的な軟膏があります。トフメルAです。実際,どうなのでしょうか?
     まず,何と比較してよく治ったのか,何と比較して早く治ったのか,という問題があります。比較対象がない評価は意味がありません。100万円は国家財政からすれば誤差範囲ですが,一人の人間にとっては大金,みたいなもので,評価は条件によって全く異なります。
     その地域で自転車しかなければ,自転車は最も速い乗り物ですし最も便利な乗り物です。しかし,車社会では,自転車は手軽な乗り物ですが最も速い乗り物ではありません。つまり,自転車の速度や有用性を論じるのであれば,三輪車と比べたのか,乗用車と比べたのか,飛行機と比べたのか,大八車と比べたのかをまず提示しなければいけません。

     例えば,その地域にイソジンゲルで熱傷治療する医者しかいなければ,トフメルAは熱傷の特効薬になりますが,ワセリン・ラップで治療する医者がいたら,トフメルAはあまり効かない軟膏になります。  ちなみに,「熱傷によく効く」伝説的,伝承的軟膏は全国各地にあります。その地域でなら「特効薬」ですが,他の地域でも特効薬かどうかは不明です。

     また,トフメルAの薬効成分を見ると,薬理学的にかなりヤバそうな成分が含まれています。
    • 酸化亜鉛は蛋白の変性剤です。細胞膜をバシバシ破壊します。
    • クロルヘキシジンも蛋白の変性剤で傷口に使用してアナフィラキシーショックから呼吸停止をきたすことがよく知られています。これはアナフィラキシーなのでクロルヘキシジンの濃度,量に拠らず発生します。トフメルAもその例外ではありません。
    • ラノリンは羊毛からウールを作るときに出る副産物で,高級アルコールと高級脂肪酸の化合物であり,白色ワセリン同様,軟膏や化粧品の油脂性基剤として使われますが,実際に使ってみると特有の獣臭さがあり,私は好きではありません。その点,ワセリンは無味無臭です。
     

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    某大学耳鼻咽喉科に所属する医師です。上咽頭や中下咽頭の腫瘍に対して,放射線治療を行うことが多いのですが,放射線による粘膜障害が出て,非常に強い咽頭痛が出てしまいます。リドカイン入りの含嗽薬,鎮痛剤,症状がひどいと麻薬も使用します。放射線によるやけどと一緒と思われますが口の中では軟膏をと考えても思いつきません。種々の教科書を参考にいろいろ試しましたがうまくいきません。皮膚のやけどはラップで痛みはなくなりますがどうしても口腔粘膜障害はうまくいきません。何か対処法はあるでしょうか。
     何が上咽頭などで起きているかというと,次のような変化が考えられます。
    1. 上咽頭などへの放射線照射
    2. 粘膜が放射線で損傷される
    3. 損傷がある域値を超えると変化は不可逆となる。
    4. 粘膜組織は瘢痕組織に置き換えられる。
    5. 粘液腺がないため乾燥する。
    6. 乾燥のために疼痛が出現。
     瘢痕化は不可逆性変化であり,肝炎が肝硬変になるのと同じで,そこから正常粘膜組織が再生することはありません。

     咽頭というのは基本的に乾燥しません。粘液で覆われているからです。いわば理想的な湿潤環境といえます,だから,この部分に付いた傷が治らない(=粘膜が再生しない)ということは考えられません。痛みがひどい(=粘膜が覆っていない)としたら,治る能力を完全に失ってしまったからです。  ということは,打てる手はほとんどないということになります。肝硬変になったら肝移植しかないのと同じで,咽頭が瘢痕化してしまったら粘膜全層移植しかないと思います。
     要するに,粘膜病変が不可逆的になる前に照射を止めるしか方法はありません。

     粘膜は常在菌が生存し,病原菌の侵入を防いでいる生態系です。生態系はある程度の破壊に対しては再生しますが,再生能を完全に失うほど徹底的に破壊してしまえば,もう再生はできません。森で山火事が起きた程度なら数年後に森は再生しますが,ブルドーザーで徹底的に破壊し,枯葉剤を撒いてしまったらもう森は再生できず,荒野になります。
     

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    口腔ケアについては方法が確立していますので,次のケアの対象として鼻腔ケアを看護研究にしようと思っているのですが,鼻腔ケアについていろいろ調べているのですが文献がなく困っています。よきアドバイスをお願いします。
     看護師さんはケアがお好きです。何でもかんでもケアの対象にしたがります。
     鼻腔ケアの問題は,「もしも鼻腔ケア法が完成したら次は何をケアするか」と仮定法で考えてみたらわかります。
     鼻腔ケアの次は上咽頭ケア,上咽頭ケアの次は中咽頭ケア,中咽頭ケアの次は下咽頭ケア,下咽頭ケアの次は食道ケアか気管支ケア,食堂ケアの次は胃ケア・十二指腸ケア・・・となりませんか? 上咽頭をケアできるでしょうか,食道をケアできるでしょうか,気管支をケアできるでしょうか? できませんよね。だから誰も食道をケアしようとは考えません。
     では,上咽頭をケアできないとしたら,鼻腔のケアは必要でしょうか。上咽頭のケアは不可能としても鼻腔の入り口あたりのケアはできそうです。では,鼻腔で「ケアできる部分」と「ケアできない部分」の線引きはどこでしたらいいでしょうか?
     つまり,看護師さんたちの「ケア」は要するに,「ケアできるところはケアするが,ケアできない部分はケアしない」ということになり,これは「腸吻合部は消毒しないが,皮膚縫合部は消毒する」のと同じです。腸管吻合部は消毒できないから消毒していない,皮膚は消毒できるから消毒しているだけで,両者を分ける論理的な理由はありません。
     だから,鼻腔ケアは必要ありません。

     ケアが必要,ケアをしてあげたいと考えるのでなく,そもそもケアが必要なのか,と考えることもたまにはしてみてください。。
     

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    水ぼうそう(水痘)の治療
     水ぼうそう(水痘)の水疱の処置であるが,水疱の状態によって異なる。
    • 水疱部分がジュクジュクしている場合
      • 水疱部分をよくシャワーで洗い,プラスモイスト(ネット購入できる)を貼付し,一日一回,プラスモイストを交換すると数日で治癒する。
      • あるいは,市販のキズパワーパッドを貼付してもよい。もちろん,一日一回は張り替えた方がよい。
      • 亜鉛華軟膏(白い軟膏)は傷を乾燥させるため,絶対に使ってはいけない。治癒を妨害し,瘢痕化させるだけだ。同様にソフラチュールガーゼも創面を乾燥させるため,使ってはいけない。
    • 創面が既に乾燥している場合
      • この場合は既に瘢痕治癒しているため,特に有効は治療法はない。せいぜい,患部を直射日光に当てないようにするくらいだろう。
      • 数年以上を経過しても痕が目立ち,患者本人がそれを気にしている場合は形成外科で瘢痕切除術。
      • ちなみに私は患者本人の意思が確かめられてから手術するようにしている。患者の親が「手術して欲しい」といっても,患者本人の意思が確認できない場合は手術すべきでないと考えている。
      • 理論上は,くぼんだ傷跡(瘢痕)を局所麻酔下に切除し,その後アルギン酸塩やハイドロコロイドで湿潤治療をすると,より目立たない瘢痕になりそうな気はするが,残念ながら治療経験はない。

       水ぼうそう(水痘)の水疱は要するに「表皮内水疱」である。だから水疱が潰れるとその部分は「表皮表層欠損創」になっているはずだ。つまり,皮膚欠損創であり,皮膚欠損であれば湿潤治療の出番だろう・・・という発想である。
     

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    カラヤヘッシブとデュオアクティブ,何が違うのですか?
     カラヤヘッシブですが,成分はデュオアクティブと同じで同じ治療効果を持ちますが,両者は治療材料としての区分が違っています。
    • カラヤヘッシブ
      • 使用した分を保険請求できない(⇒使用した分は病院の持ち出しになる)
      • 値段は低く設定されている
    • デュオアクティブ
      • 使用した分を保険請求できる(⇒持ち出しにならない)
      • 値段は高く設定されている
     

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    人前で話す機会がたまにあるのですが,なかなか上手く話せなかったり,なかなか満足できる結果になりません。講演のコツなどがあったら教えてください。
     私は次のような点に気をつけて講演を組み立てています。
    1. 講演の冒頭に衝撃的な症例をまず提示して,全聴衆の興味をひきつける。
    2. 今日の話を聞くと聴衆にとってどういうメリットがあるかを最初に示す。
    3. その後すぐに理論的な説明をする。
    4. しかし,理論的な説明はせいぜい5分以内にとどめる。
    5. 理論的な話,具体的な話を交互に配置し,単調になることを避ける。
    6. わかりやすい喩えを多用する。
    7. 5分に一回は笑いを取りに行く。
    8. 「書き言葉」と「話し言葉」を明確に区別し,なるべく「話し言葉」を使う。同音異義語のある言葉を避ける(例:「右中指」は「みぎちゅうし」でなく,「みぎなかゆび」と発音する)。
    9. 歯切れよく話す。明確に話す。
    10. スライドは「7行以下,1行は15~17字以下」。それ以上行数,字数が増えたら2枚に分ける。
    11. アニメーションを入れてわかりやすくする。
    12. スライドは色を使い過ぎない。ブルーバックの場合,明るい黄色がもっとも目立つ。
    13. ブルーバックで赤い色は見えにくいので使わない。
    14. グラフを無意味に三次元化しない。読みにくいだけ。
     これら以外にも,眠くなるような講演,つまらない学会発表にぶつかったら,なぜ眠くなるのか,何がつまらなく感じさせるかを自分なりに分析し,それを反面教師にして,そういう講演・発表の真似をしないように心がけることも重要です。
     

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    アテロームの手術はどうしていますか?
     皮膜を有するアテロームの手術ですが,まだ感染していない場合には皮膜表面を丁寧にはがしていけば,ほぼ出血させずに摘出できます。皮膜とその周囲の組織に血管性の結合はほとんどないからです。

     感染がなくても皮膜を破いてしまった場合,あるいは既に感染して発赤・疼痛がある場合には,皮膜が皮膚にくっついている部分(臍状に陥凹している)を皮膚割線の方向に切開し(切開の長さは,皮膚がペラペラに薄くなっている部分だけで十分),アテローム内容物を搾り出します。
     あとは皮膜を鑷子で摘んで皮膜を丁寧にはがすだけです。出血してまで摘出するのは不要です。

     深部の皮膜でうまくとれない場合は敢えて取らずに残しておき,アルギン酸塩を中につめ,接着剤付きフィルムで半分くらい覆い,その上を紙オムツで覆います。全て覆わないようにして紙オムツで吸収するようにしておくと感染が起きません。
     翌日,アルギン酸塩を除去して膿瘍腔を観察すると,残った白い皮膜が見えますので,これを鑷子で摘むと簡単に取れます。一日たって皮膜が浮いてくるという感じです。あとはプラスモイストを貼付するだけです。
     

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    主治医の形成外科医から「この傷は植皮をしないと治らない。植皮をするときれいになる」と説明されて手術を受けましたが,移植した皮膚はきれいとは思えないし,縮んできた感じです。植皮術とはこんなものなのでしょうか?
     皮膚移植を受けるとどういう惨状を呈するか,まずこの実例をご覧下さい。
     皮膚移植は形成外科医(私も形成外科医ですが)がとても好む手術法です。手技的に簡単で,失敗することが稀で,傷を手っ取り早く閉じることができるからです。だから形成外科医は,何か傷があると植皮をしようと考えるし,植皮できる傷はないかと考えます。
     しかし,皮膚移植術には形成外科医が軽視しているさまざまな問題があります。
    • 皮膚は部位により色調,毛の密度と太さ,皮膚の肌理(きめ)が異なっており,移植皮膚は所詮パッチワークに過ぎない。だからとても目立つし,周囲の皮膚になじむこともない。
    • 移植皮膚の縫合創縁は必ず縮んでくる(これを瘢痕拘縮という)。だから瘢痕拘縮形成術が後で必要になる。
    • 皮膚を採取した部位にも傷が残る。
     要するに,「移植手術をするときれいになりますよ」と形成外科医がいうようにきれいにならないし,追加手術は必要になるし,余計な傷もつく,ということになります。つまり,手術をした形成外科医にとっては「きれいに皮膚が生着したから手術は成功,移植した皮膚もきれい」と判断しますが,それは手術をした医者にとって「きれい」ということであり,移植された皮膚を見て「これはきれいだ」と思う患者さんはいるんでしょうか。私は疑問に思います。少なくとも,「医者のきれい」と「患者にとってきれい」の間にはものすごいギャップがあります

     例えば,自分の前腕の内側(屈側)と外側(伸側)を見てみましょう。屈側の皮膚は白くて毛がほとんどなく,肌理も細やかです。一方,伸側の皮膚は色が濃くて毛が生えていて,肌理も粗く見えます。だから,同じ腕の屈側の皮膚を伸側に移植すると,そこだけ色が白くて毛が生えず肌理も違うということになります。
     まして,腹部の皮膚と前腕の皮膚となるともっと違います。だから,腹部の皮膚を腕に移植すると,そこだけ黒ずんできたり,ごわごわの毛が生えてきたりします。これがパッチワークと私が呼ぶ所以です。
     植皮された皮膚がどうなるのか,皮膚を取った部分がどうなるのか,主治医にスライドを写真を見せてもらい,その上で「植皮はきれい」という言葉が本当かを自分の目で確かめ,その上で植皮術を受けるかどうかを判断すべきです。

     また,形成外科医は恐らく「瘢痕拘縮形成術をすれば傷は目立たなくなりますよ」と説明してくるはずです。もちろん,この手術をすれば「傷が突っ張って動きが悪い」という症状は改善しますが,移植皮膚は所詮移植皮膚に過ぎず,パッチワークはパッチワークのままです。だから,手術で移植皮膚が目立たなくなるわけではありません。
     

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    古くから消毒は,イソジン,ヒビテンが酒精綿より上のように教えられ,手術前の消毒や関節穿刺前の消毒に酒精綿を使用したことはありません。消毒薬の殺菌性として酒精綿のほうが劣るのですか?
     関節穿刺だろうがCVカテーテル刺入時の消毒だろうが,「どの消毒薬がいいのか」と考えると訳がわからなくなります。ここは,皮膚にはどういう細菌がいて,それはどういう生物なのかという側から考えると答えが出てきます。

     皮膚に存在する細菌は皮膚常在菌と通過菌です。
     常在菌は基本的に皮脂とその分解産物を唯一の栄養源として生きている細菌で,弱酸性の皮膚を唯一の生育環境としている嫌気性菌です。それに対して,通過菌は基本的に皮脂やその分解産物があると増殖が抑制され,弱酸性環境を苦手としています(
    『人体常在菌 ―共生と病原菌排除能』)。
     一方,関節液はpHが中性で,皮脂もなければ皮脂分解産物もありません。つまり,常在菌が入り込んでも生きていけませんので,感染起炎菌にはなりません。感染起炎菌となるとしたら,それは通過菌だということになります。

     とすれば,関節穿刺前の処置のターゲットは常在菌でなく通過菌,除去すべきは通過菌です。  常在菌は嫌気性菌ですから,空気に接しないように皮脂のワックス成分に守られている部分に存在し,通過菌はその上に付着していると考えられます(このあたりは私の推論なので正しくないかもしれませんが・・・)。とすれば,「洗えば通過菌は除去できる」ということになりそうです。
     従って,よく洗うか,刺入前に皮膚をよくこすることが感染予防に重要という結論になり,消毒薬の種類でなく,物理的洗浄で通過菌を洗い落とすことが重要と思われます。つまり,酒精綿でも十分にこすれば感染起炎菌である通過菌は除去できるはずです。
     

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    人体実験シリーズ,あまりにも痛々しいです。損傷は真皮乳頭層レベルまでのSDBくらいのダメージか,という気がしておりますが,多少の色素沈着きたす恐れもないともいえませんで,もっと遮光もしやすい下腿のふくらはぎなどで実験された方がよろしいそうな気もしてるんですが・・・。
     なぜ,人体実験を腹部や下肢などの非露出部で行わないか,なぜ,露出部である前腕で実験をしているかには次のような理由があります。やむにやまれぬ事情から,主に前腕で実験をしています。
    1.  私は一人で実験して画像データを撮影しています。このため,下腿外側や上腕伸側を実験部位にするとデジカメで実験部位を撮影できません(実験部位にピントを合わせようがないから)。このため,実験部位は自分で持ったデジカメでマクロ撮影ができる部位に限られます。

    2.  外来診療の合間を縫って撮影したり軟膏の追加塗布をしているため,衣服の着脱が必要な体幹や大腿部は実験部位にできません。

    3.  実体顕微鏡のDino-Liteを片手で持って実験部位を撮影するために固定し,もう片方の手でマウスを操作しながらクリックする,という操作をして初めて顕微鏡写真が撮影できます。このため,右利きの私の場合,右前腕遠位屈側では実験ができません。

    4.  下腿は日常生活で常に垂直に下垂しています。このため,下腿に塗布した軟膏は重力で落ちることになり,実験創面と軟膏の接触を常に維持するためにはかなりの工夫が必要になります。その点,前腕は日常業務では机の上に水平に置かれることが多く,軟膏が落下せず,管理が非常に楽です。

    5.  体幹や大腿などの非露出部は日常生活では衣服で覆われているため,ここを実験部位にすると塗布した軟膏が衣服に付着してしまうし,何より,創面が衣服に触れると非常に痛いです。前腕を実験部位にすると,こういうトラブルがありません。
     

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    ピロリ菌除菌を勧められていますが,これは必要なんでしょうか?
     ピロリ菌についてですが,ご存知のようにScientific American誌で「除菌により逆流性食道炎が増え,食道癌が増えるのでは」という論文が載ったのが2004年でした。
     これを受けて,私見をまとめます。ただし,私はピロリ菌の研究者でもなければ,消化器の専門家でもないため,的外れな考察になっているかも知れませんので,そこらは差し引いてお読み下さい。

     ピロリはウレアーゼを分泌することで自分の周囲の胃酸を中和して生存できる環境を作っています。だから,胃酸が強酸に傾けば懸命にウレアーゼを作るし,中性に近づけばウレアーゼ産生を中止します。ピロリにとっては胃酸の酸性度のちょっとした変化が死活問題ですし,かといって,ウレアーゼを作りすぎれば過剰にエネルギーを消費してしまって分裂能が低下するからです。
     従って,胃酸の酸性度に応じてウレアーゼの産生を調整しているわけで,この調整がうまくできない(例:胃酸が中性に近づいてもウレアーゼを作り続ける)ピロリ菌は増殖が遅くなり淘汰されます。

     このウレアーゼの分泌調節を人間の側から見ると,胃酸の酸性度のコントロールになります。ピロリが調節しているため,胃酸は高すぎず,低すぎずというバランスを維持します。
     もしもピロリがいない場合,人間は胃酸の酸性度を全て自前で調節しなければいけなくなります。つまり,胃内の酸性度を常にチェックし,それに応じて胃酸の分泌を調節することになり,それにはエネルギーが必要です。
     一方,胃酸の調節をピロリに「外部委託」した場合,人体側は胃酸のチェックをする必要もなければ,細かく胃酸の分泌を調節する必要もなくなり,その結果としてエネルギーは他の機能にまわせます。
     このように考えると,胃内にピロリ菌が常在したほうが,人間側は消費エネルギーが少ないことになります。

     もちろん,ピロリ菌と人体の関係は,皮膚常在菌と人間の関係ほど密接でないため(その証拠に,すべての人の胃内にピロリ菌がいるわけでない),ピロリ菌は人間に対してある種の病原性をまだ持っていて(皮膚常在菌の場合には病原性はほとんどない),それが胃がんの発生に関連しているのでしょう。
     ただ,人間の寿命を他の霊長類から類推すると,本来の寿命は20年から30年程度,最大に見積もっても50年前後ですから,ピロリ菌による胃がんが発生するまえに寿命が尽きてしまうため,「ピロリ菌による発癌」は淘汰の対象にならず,現在まで維持されていると考えることができそうです。
     また,全ての人間からピロリ菌が検出されていない理由も,ピロリ菌による胃酸酸性度の調節が,皮膚常在菌や腸管常在菌ほど強烈なメリットではなく,強い淘汰圧を受けるものではなかったから,と考えることもできます。
     

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    鍼灸師ですが,治療前の治療者の手指消毒もあまり意味のないものなのでしょうか?>
     手の表面についている細菌は常在菌と通過菌に分けられます。
    1. 常在菌
      • 「皮脂があって,pH5.5」で生きる生物
      • 「皮脂がなく,pH7.4」の皮下組織では生きていけない。
      • 傷を化膿させることはなく人間に対する病原性もない。
    2. 通過菌
      • 皮脂があると増殖が抑制される。
      • 「皮脂がなく,pH7.4」でも生きていけるものがある。
      • 一部の細菌は傷を化膿させるなどの病原性を持っている。
     だから,除去すべきターゲットは常在菌でなく通過菌です。

    通過菌を除去する方法はいろいろあり,通常行われるのは次のようなものです。
    • 消毒薬による除菌
    • 石鹸洗浄による除菌
    • 熱湯消毒による除菌
    • 水道水洗浄による除菌
     これらの除菌法の除菌効果と,それぞれの人体に対する影響は次の通り。
    • 除菌効果は次の順序・・・熱湯>消毒薬>石鹸>水道水
    • 人体(手)に対する危険性・・・熱湯>消毒薬>石鹸>水道水
    つまり,除菌効果が高いほど人体に危険,ということになります。

    これらを踏まえて,医療者側の選択枝は次の通り。
    1. 自分の身はどうでもいいから,細菌は徹底除去すべきと考え,手を熱湯消毒
    2. 熱湯消毒はあまりに危険なので,それより危険性の低い消毒薬や石鹸で除菌。ただし,繰り返し行えば手荒れが起こり,黄色ブドウ球菌が繁殖する。
    3. 手のバイキンといっても傷を化膿させるような病原菌は極めて少ないなら,水道水でよく洗って細菌を除去し,同時に自分の手も守る
    さて,あなたならどれを選択しますか?
     

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    ワセリンについてネットで調べていたら,「市販の白色ワセリンは紫外線で酸化し易く,油焼けの原因となるので落とす必要がある」とありました白色ワセリンの光安定性白色ワセリンの紫外吸収スペクトル。これが正しいとすると,日光に晒されやすい手にいつもワセリンを塗っておくのは,日焼けの原因になりそうですが,いかがでしょうか。
     要するに,古い時代に使われていた黄色ワセリンには二重結合 [C=C] を有する不純物が含まれ,これが紫外線で変性(酸化)しました。しかし,現在使われている白色ワセリンは非常に純度が高く,特にプロペトという製品は不純物をほとんど含んでいません。だから,現在販売されている白色ワセリンでは光酸化は起こりません。
     鎖状飽和炭化水素は炭素原子同士の共有結合 [C-C] と,炭素と水素の共有結合[C-H] からできていますが,[C-C] は極めて強固な結合であり,これを切り離すには大きなエネルギーが必要となります。このため,ワセリンは常温では他の分子とほとんど反応せず,極めて安定した物質です。従って,人体に使用しても人体との間で相互反応は起きないと考えられます。

     ちなみに,ワセリンとは鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2)のうち n=16~20 の混合体を指します(C16H34, C17H36, C18H38, C19H40, C20H42)。ちなみに,n=21( C21H44)の鎖状飽和炭化水素は流動パラフィン,n=22( C22H46)は潤滑油と呼ばれています。
     

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    循環障害のある手指潰瘍へのプロスタンディンの使い方について
     「プロスタンディン60μg + ソリタT1 200ml + メイロン1A」の組み合わせで一日一回(理想的には朝夕2回点滴),2時間かけて点滴し,2週間連続投与します。その後1ヶ月間休み,オパルモンなどの内服薬に切り替えます。その後,まだ冷感などの症状が続く場合は,再度プロスタンディンの2週間点滴を再開します。
     メイロンは血管痛の予防に入れています。作用機序は不明ですが,なぜかよく効きます。それでも痛みがある場合は,点滴を入れている部位から近位を暖めるなどしてみてください。
     

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    外傷に対する縫合処置前に「創周囲の消毒」は無意味でしょうか? 縫合糸という「異物」を残す行為であり,縫合糸も刺入部皮膚も無菌状態であることにこしたことはないような気もするのですが・・・
     もちろん無効です。私は毎日数例の裂創縫合をしていますが,過去8年間,皮膚消毒なし縫合をしていて,縫合糸膿瘍も創感染も数えるほどしか起きていません。

    この問題をどのように考えたらいいか,基礎となる事実を列記しますので,考えてみてください。
    1. 「皮膚常在菌は皮膚表面だけでなく,毛孔内部にも生息している」
      • 皮膚表面だけの消毒をすれば感染しない?
      • 皮膚表面を完全に滅菌したとしても,糸針が毛孔をかすめたらどうなる?

    2. 異物があるから感染するのでなく,細菌の繁殖場所(液体)があるから感染する
    3. 「皮膚常在菌群は環境がpH5.5前後でパルミチン酸などの皮脂分解産物がある状態で増殖し,pH7.0では増殖が停止する。S.aureusは酸性環境かつパルミチン酸の存在が増殖を抑制する。一方,皮下組織(脂肪組織)は皮脂分解産物が存在せず,pH7.4の環境である」
      http://www.wound-treatment.jp/next/wound365.htm, http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho279.htm
      • 皮下組織で増殖できるのはどの細菌?
      • それは皮膚に常在する細菌?
     

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    大学病院や大きな病院で湿潤治療をしているところが少ないのはなぜでしょうか?
     改革には「上からの改革」と「下からの改革」があります。大学病院のように大きな組織は「上からの改革」にはすぐに対応できますが,「下からの改革」には対応できません。それは大組織の宿命であり弱点です。湿潤治療は「下からの改革」ですから大学病院のような巨大組織には広がらないのです。

     上からの改革とは厚生省とか学会などからの「新しい制度はこれなので従うように」というようなお達しのことです。この場合,厚生省⇒大学病院トップ⇒各科の教授⇒医局員と上意下達に命令が伝わるため,短期間に新しい制度に対応できます。
     一方の下からの改革とは,個人の医者が始めた新しい治療などのことです。この場合,その治療法を知るのは個人としての医者であって組織ではありません。この点,個人医院の場合なら「明日から消毒はやめて乾燥させない治療をしてみるからね」と宣言するだけで,翌日から湿潤治療が始められますし,治療効果を認めたらずっと続けてくれるでしょう。だから,開業医の先生ほどどんどん治療を進められます。
     しかし大学病院の場合,一人の医者がこの治療を知ったとしても,それを実践しようとしたら数々の難問が立ちはだかります。まず,外来担当医は毎日変わりますから,月曜日に消毒なしで治療しても翌日の医者は消毒するでしょうし,治療のたびに治療法が違っているため不信感をもたれかねません。それなら医局全体の医者に湿潤治療を普及させたらいいのでは,と思われるかもしれませんが,これはほとんど不可能です。教授なり医局長なりが「そんな治療は俺は聞いたことがない。だからそんな治療を認めるわけにはいかない」の鶴の一声で潰されます。また,全医局員の理解が得られたとしても,大学の医者は出入りが多いため,新しい医者が入るたびに治療法の説明を位置からやり直ししなければいけません。要するに,個人医院の医者と大学病院の医者では,湿潤治療を行う際の障壁は段違いです。
     また,大きな組織ほど保守的になるというのは人間社会普遍に見られる現象ですが,これも作用します。つまり,大きな組織になればなるほど変化を嫌い,元通りのやり方に固執します。

     このようなわけで,湿潤治療については個人医院や小規模病院が最先端を走り,そのすぐ後を医療の素人(で湿潤治療についての知識がある)人が追い,大学病院や大規模病院が最後尾でまだ走り始めてもいない,という状況です。恐らく,「消毒治療から消毒なし治療へ」のパラダイムシフトが起き,「大学ではまだ消毒しているよ」と言われるようになってから変化するのではないかと思われます。

     同様に,熱傷の局所治療についても大学病院や熱傷センターが最も旧習的,因習的な古臭い治療に固執している傾向が強く(実際,いろいろな大学病院や熱傷センターの内部のスタッフから,いまだに一生懸命消毒していて患者さんが可哀想です,というタレコミを多数いただいております),素人より始末に終えないようです。現時点では,全身熱傷でもない限り,湿潤治療をしている個人医院や小規模病院で治療してもらったほうが安全といえます。熱傷専門医ほど古臭い熱傷局所治療に固執しているというのは,結構滑稽ですね。
     

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    ピアスによる耳垂部ケロイドの再建について
     ピアスケロイドに限らず,耳垂部の全層皮膚欠損(前面か後面の皮膚軟部組織は残っている)を保存的治療(湿潤治療)したことはありますが,耳垂部は free border ですので,急速に創は収縮して上皮化しますが,瘢痕はそれなりに目立ちまが,この方法でケロイドが再発したことはありません。どうやら,ピアスに合併する耳垂部のケロイドは部位的な問題というより,金属アレルギーが持続的に起こっていることが大きいのかもしれません。
     耳垂部ケロイドを切除して,丸く打ち抜いたように耳垂部全層欠損になった場合,耳垂前面を頭側(上方)からの rotation flap で閉鎖し,頬部(耳垂下部)に作った subcutaneous flap を移植して耳垂後面の欠損部を閉鎖するという手もあります。手技的に面倒ですが結構きれいに治ります。
     

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    擦過創をワセリンとラップで治療していて,赤くなったりトビヒ(膿痂疹)ができることがありますが
     ワセリンとラップで創周囲の皮膚が真っ赤になることがあります。これは滲出液による接触性皮膚炎です。滲出液(細胞成長因子を含む)傷にとっては薬ですが,皮膚にとっては余計物だからです。理由は
    に書いてあるのと同じで,皮膚は本来排泄器官であり,密封されると機能低下をきたすからです。要するに「傷は密封して欲しいが皮膚は密封されたくない」ということになります。
     だから,密封型のラップやデュオアクティブでは接触性皮膚炎が起きます。小児でラップを使うととびひができやすいのも同じ理由でしょう。

     対策ですが,汗疹やトビヒの部分にステロイド軟膏を塗ってプラスモイストで覆うと,通常は数日でよくなります。ちなみに,プラスモイストは余計な浸出液を吸収しますので,汗疹やトビヒを作りにくいです。
     

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    熱傷水疱はどうしたらいいでしょうか
     熱傷水疱はすべて除去し,その上でワセリンを塗布したラップか,プラスモイストを貼付してください。水疱を残して治療をしていると,水疱の中の水疱液そのものが細菌の培養液になってしまい,細菌感染の原因となるからです。

     実は,初期の頃は「熱傷水疱はなるべく破らないで,水疱液のみ注射器で吸えばいい」と書いていました。9割の症例はそれで問題なく治ってよかったのですが,1割前後の患者で創感染と高熱が見られました。そこで,感染症例の創部を徹底的に観察したら,全例で「水疱膜の下に濁った水疱液が溜まっていて,その部位に一致して発赤と腫脹があり,圧痛もある」ことがわかりました。一度水疱液を抜いても,また溜まるんですね。そして,溜まった水疱液はタンパク質の塊ですから,細菌にとっては絶好の培地になっていたわけです。そのため感染が起きたことがわかりました。

     となれば,このような感染を防ぐためには,感染源である水疱液の貯留を防ぐしかありません。そのためには水疱膜を全て除去するしかない,という結論になり,水疱膜を残しつつ治療をするという選択肢はありません。だから,水疱膜は残してはダメなのです。実際,水疱膜を全て除去するように方針転換してから,過去5年間で熱傷症例の感染は1例か2例です。

     なぜそこまで徹底するかというと,「従来の熱傷治療での感染例は起きて当然と考えるが,新しい治療での感染は100例に1例でも大騒ぎされる」からです。つまり,従来の治療で5例中1例感染してもそれは普通であり異常事態ではありませんが,新しい治療では100例中1例の感染でも異常事態で,鬼の首でも取ったように大騒ぎされるのです。実際,そのように大騒ぎしている連中はたくさんいます。だから,新しい治療を提唱するなら100例でも1000例でもトラブルゼロにしなければいけないのです。そこまで世の中は要求してくるからです。

     すでに湿潤治療に慣れている先生だったら,治療中に感染が起きてもうまく対処できますが,医者になって初めて湿潤治療を行った熱傷症例が運悪く感染を起こしてしまったら,その医者は恐怖でもう二度と湿潤治療に手を出せなくなります。
     私はそういう医者を一人でも作りたくないし,私を信じてついて来てくれている医者には誰一人,怖い思いをさせたくないのです。私が先頭を歩いている以上,後ろを歩いている多くの医者たちの風よけにならなければいけないし,皆が安全に歩ける道を作らなければいけないのです。それが私の仕事だと思っています。

     繰り返しになりますが,水疱膜を残して治療をしても10例中9例はうまくいきます。しかし,そういう治療をしていると,いつか必ず痛い目にあいます。感染が起きた患者さんには「今まで感染は起きていないのに」という言い訳は通用しないということを肝に銘じて治療にあたってください。
     

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    腹膜透析チューブの出口部感染の治療法は?
     まず,本当に感染なのかという問題をクリアしなければいけません。私がこれまで医師から「出口部感染だ」と治療を依頼された症例を数十例見ていますが,ほとんど全ては単なる肉芽への細菌常在(colonization)であり,本当に感染はゼロでした。  このような場合の局所治療については下記ページをお読み下さい。
    1. 「創外固定ピン感染にZNCを使用した症例」
    2. 「胃瘻部びらん」
     ちなみに抗生剤は全く不要です。colonizationに対しては治療そのものが不要だからです。肉芽を放置して抗生剤を投与すれば菌交代を起こすだけです。意味がありません。しかし,創を治して上皮化させれば肉芽がなくなり,健常な皮膚を再生させれば,肉芽にしか生活できない細菌(S.aureus)は生存できなくなり,健常な皮膚でしか生活できない細菌(皮膚常在菌)に交代します。

     地球上では,無菌の傷は存在しませんし,どう頑張っても傷は無菌になりません。無菌室だろうが,宇宙ステーションだろうが,傷という物理的環境ができれば,それに適応した細菌が登場します。
     その理由は,そもそも人間を含めたすべての多細胞生物は,細菌との共生体だからです。細菌との共生関係を持たない多細胞生物は地球には存在しないようです。
     

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    腹膜透析チューブの出口部の処置について
     基本的には入浴時によく洗う,表面を覆うものは不要,患者さんが気にするならガーゼなどをあてる,気にしないなら直接下着があたってよい,となります。
    CAPD出口部の処置マニュアルを御参照下さい。
     また,その根拠については下記のページをお読み下さい。
    http://www.wound-treatment.jp/title_shoudoku.htmの「皮膚常在菌からカテーテル刺入部の処置を考える」  要するに,皮膚常在菌の生態と増殖条件,感染起炎菌の生態と増殖条件,カテーテル刺入部と深部の物理的・化学的環境から演繹すると,このような結論になるはずです。
     

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    耳の後ろの数センチの皮下腫瘍切除術を受けました。現在痛みも腫れもありませんが,テニスなどのスポーツはしていいでしょうか?
     ごく一般的な話ですが,術後数日間,異常なく経過しているようですから,特に運動を制限する理由はありません。
     私は術後の安静という奴はほとんど眉唾だと思っています。局麻手術で術後に安静が必要なのは,腱縫合後,神経縫合後,骨折整復後,植皮後など限られた手術の術後か,あるいは,動かすことによって出血が予想されたり血腫形成が予想される創(死腔が残っている,死腔面に血管が露出している,関節部にかかっている),そして動かすことで痛みが発生している創だけだと考えます。
     運動して痛みがある場合は無理をしないでください。痛みは体が発する警告信号ですから,それを無視してまでがんばってはいけません。
     

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    帯状疱疹の治療
     要するに,ウイルスに対する治療部分と,表皮内水疱に対する治療部分を分離するというのが,治療の基本的な考え方です。表皮内水疱を破ってしまえばそこは表皮の部分欠損となりますので,それに対してプラスモイストで治療するわけです。
     プラスモイストでなくハイドロサイトでも治療できますが,「皮膚欠損創」という病名が必要になります。
     

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    水いぼ(伝染性軟屬腫)の治療
     水いぼ(伝染性軟屬腫)を取るかどうかは専門家の間でも意見が分かれているが,取るのであれば痛くないほうがいいに決まっている。以下の方法なら素人が自宅でも痛くなく取れるはずだ。
    1. スピール膏(タコやウオノメ治療用絆創膏。薬局で買えます)を水いぼの上に張る。一日一回は張り替える。
    2. 3~4日後にスピール膏と一緒に水いぼが取れる。もちろん,痛みは全くない。
    3. 取れた後は,プラスモイストかデュオアクティブ(あるいはキズパワーパッド)で覆う。翌日にはきれいに治っているはずだ。
     

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    発展途上国の水道で傷を洗っても大丈夫ですか?
     まず,通常の創感染を起こす細菌は水中にはいません。通常の傷を化膿させる細菌は黄色ブドウ球菌ですが,これは好気性菌ですので水中には住めません。
     また,水中で生存している細菌にしても水中で暮らしているわけではなく,
    通常は何かの表面に付着して生活しています。つまり,水中とはもともと細菌が少ない環境です。
     もちろん,日本住血吸虫のような皮膚から入り込む原虫もいますが,そのような水はもともと飲用には適しませんので,現地の人も飲用を経験的に避けているはずです。また,特殊条件下の海水中にいるビブリオが感染を起こすことがありますがこれは「温度の高い汽水」というかなり特殊な条件で,真水にはいない細菌です。コレラ菌のように消化器症状を起こす細菌が水に含まれることもありますが,これらの細菌は傷を化膿させる細菌ではありません。
     要するに,現地の人間が飲んで安全な水には,感染起炎菌もその他の感染症をおこす菌もいません。従って,現地の人たちが飲んでいる水であれば,傷を洗っても安全です。
     また,多少の細菌が水にいたとしても,傷口にいる細菌の方がはるかに多いわけで,このような水で傷口を洗ったとして,細菌は「傷口から水中」に移動しますが,その逆,つまり「水中から傷口へ」の移動は起こりえません。宇宙不変の法則であるエントロピー増大の法則に反するからです。つまり,細菌がいる水で傷口を洗った場合,水が細菌が汚れ,傷口はきれいになります。
     

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    手術やケガの痕の気になります/5年前のケガの痕もきれいになりますか?
     手術の傷跡やケガの痕,やけどの痕をきれいにする治療は形成外科でしていて,より目立たなくすることは可能です。また,5年前の傷でも10年前のものでも動揺に治療できます。これらの治療は原則的に保険診療で行っています。
     ただし,「より目立たない傷跡にする」のであって,「完全に傷跡を消す,傷が全くない状態にする」ことではないので(手術は魔法ではありませんから),その点は御了承下さい。
     また,美容外科を受診する必要もありません。形成外科を標榜しているところで十分な治療が受けられます。
     

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    肥満女性の腹部手術後の創離開を防ぐには
     ちょっと(?)太目の女性が婦人科などで腹部の手術を受けた後に,手術の傷が化膿したり開いたりすることはよくあります。なぜかというと,脂肪層(脂肪組織)は非常に血流が乏しい組織であるために治癒が遅れる(=要するに脂肪層同士がくっつきにくい)ためです。
     では,分厚い脂肪層をしっかりと縫合すればいいだろうと縫合すると,かえって傷が開くことになります。脂肪層は非常に脆弱であるために縫合糸で縛った脂肪層が切れてしまい,そこが結果的に死腔となるからです。その死腔には,切れた脂肪組織の中の組織液などがたまり,これが二次性の感染源となり,術後1週間位してからいきなり感染したりすることがよく観察されます。この場合の感染ルートですが,通常は縫合部の皮膚には発赤などの異常はないため皮膚からの感染とは考えにくく,そのほとんどは血行性由来の細菌による感染と思われます。
     したがって,死腔をなくすという目的で脂肪層を縫合すればするほど感染が増えるということになります。かといって,死腔をそのまま放置すれば,いずれその死腔が感染源になります。
     ではどうするか。縫合せずに脂肪層の死腔をなくせばいいだけのことで,Jバッグなどの持続吸引バックの付いたドレーンを脂肪層内に留置すればいいと思います。脂肪が分厚い場合にはドレーンを複数本入れ,さらに腹部を外から軽く圧迫すればいいのではないかと思われます。なお,このタイプのドレーンの使い方慣れていなければ,同じ病院の外科に教えてもらってください。
     

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    テラジアパスタという軟膏はどうでしょうか?
     何の取り柄もないクズ軟膏です。
     テラジアパスタを傷に塗ると強烈な痛みが発生します。この痛みの原因は基剤のマクロゴールと取材のスルファジアジン,両者の作用と思われます。激痛がお好きなら傷に塗って下さい。
     テラジアパスタの水溶性軟膏基剤マクロゴール(ポリエチレングリコール)は浸透圧が高い物質ですので,創面に塗ると創面の水分を吸収して乾燥させます。つまり,傷の治癒を遅らせるように作用します。また,マクロゴールを基材とする
    アクトシン軟膏が激痛を起こし,傷を深くすることから,マクロゴールという基材そのものが諸悪の根源と思われます。
     スルファジアジンは銀を含有する抗菌剤ですが,いくら抗菌作用を有していたとしても,肝心の傷の治癒が遅れてしまっては,結局は菌交代を起こすだけです。
     創面の細菌を減らす唯一の手段は抗菌剤の使用ではなく,速く傷を治すことです。創が治り,正常皮膚が再生すれば,そこは皮膚常在菌しか棲めない環境になり,黄色ブドウ球菌やMRSAの生存に適さない環境になります。一方,正常皮膚でない創面は正常な皮膚常在菌が棲めない環境であり,その環境に適した細菌(多くは黄色ブドウ球菌)が定着します。これは自然現象であり,病的現象ではありません。
     

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    性同一性障害(GID)やRokitansky症候群の造腟術の方法について。神戸大学や防衛医大では,プロテーゼにテルダーミスやインターシードを巻きつける方法で治療していますが,これはどうでしょうか。
     造腟術ですが,東北大学形成外科に所属していた当時,1990年頃から95年頃にかけて,主にRokitansky症候群に対する手術をおよそ10例以上したことがあります。
     
    http://www.wound-treatment.jp/next/wound259.htm
     手術法は,植皮による再建(全層皮膚,分層皮膚),皮弁による再建(主に大体内側皮弁)などをしましたが,結局,「出っ張ったもの,凹んだもの,トンネル状のもの」を作るのは簡単だが,その状態を維持するのはすごく大変だという結論になりました。

     皮膚が薄ければ生着は容易ですがすぐに拘縮してくるし,皮膚が厚ければ拘縮は少ないけれど皮膚の分泌物独特の臭気が気になるし,皮弁となると皮膚そのものですから,毛嚢,感染からの分泌物がずっと続きます。これが猛烈な臭気になります。

     また,拘縮の問題も深刻でした。できるだけ大きなプロテーゼに皮膚を巻きつけて移植したり,深部の組織に縫合固定したり,長期間プロテーゼを挿入させたりしましたが,結局は拘縮は避けられないような印象でした。
     つまり,「出っ張ったもの,凹んだもの」にはそれを維持する構造があり,それがなければ結局は力学的にもっとも安定した構造,つまり造腟前の状態に戻る,ということです。
     肋軟骨という硬組織で作った耳は結構長期間形(凹凸)を維持しますが,皮弁だけで作った耳垂は結局縮んできて小さくなります。頭皮の皮弁で大きなdog-earができても数週間で平坦になります。これらは,「力学的にもっとも安定した状態になった」と考えると理解できます。
     同様に,移植皮膚の拘縮も,局所にかかる張力のバランスでもっとも安定した状態になっているだけのことでしょう。
     「中年になると体型がたるむ」のも,皮膚が持つ張力と重力のバランスの問題で,それが力学的にもっとも安定しているからです。

     作った腟が構造的に安定しないのは,括約筋も腹圧も「作った腟腔をつぶす」方向に働くからでしょう。生体の腟が安定しているのは,それらの圧に抵抗するのに十分な筋肉組織と,その筋を維持するのに必要な血流などが保たれているからです。

     「プロテーゼにテルダーミスなどを巻きつける方法」ですが,これは要するに,単に内腔を作り,それにテルダーミスなどで覆ったプロテーゼを入れているだけですよね。この内腔を覆う上皮は結局,会陰部皮膚から侵入しているもので,それ以外のルートから上皮組織(皮膚・粘膜)が入り込む余地はありません。これはインターシードでも同様でしょう。
     つまり,テルダーミス(インターシード)の上を上皮細胞が移動,増殖することで内腔の上皮化が得られると考えられます。となると,細胞の増殖の条件になっているかどうか,局所の血流はどうか,プロテーゼ表面にかかる周囲からの圧迫(括約筋と腹圧両方がかかります)はどのように細胞増殖に作用するか,という問題がらみで考える必要があります。したがって,テルダーミスだからどうだ,インターシードだからよい,という事はないと思いますし,もっと生物学的,物理学的なアプローチが必要でしょう。

     造腟術は手術法,内腔を覆う組織の種類(皮膚か粘膜か),プロテーゼの形,挿入期間などの問題は実は瑣末な問題で,物理学的・生物学的なアプローチをしない限り,先には進めないと思います。繰り返しますが,人工的に作った腔を長期間維持させるためには,それを保たせるための動的構造が常に維持されていることが前提だろうと思います。
     

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    開頭術した症例ですが,術後2ヶ月以上してから創部に肉芽を生じ離解が始まりました。組織を取ると「浮腫性肉芽」といったなじみのない病理診断で,少なくとも感染や腫瘍浸潤ではないようでした。湿潤治療を続けていますが,肉芽のままで上皮化しません。どうしたらいいでしょうか。なお,潰瘍部分の骨は骨膜が欠損しています。
     この症例ですが,露出している骨は一度取り出して,その後戻した骨ですか?  その場合,再度入れた骨は一旦すべての血流が遮断されているため,骨への血流はないと思われます。だから,骨表面(骨皮質)からの肉芽形成もなく,見えている肉芽は周囲の組織から出て,外見的に骨表面を覆っているだけではないかと思います。そのため,肉芽が浮腫状になっているのではないでしょうか。  骨自体に血流があれば,骨皮質からでも肉芽がどんどんあがってきますが,骨に血流がない場合には肉芽形成は望めません。
     この場合には,やはり形成術が必要です(Galeaを反転させて植皮するとか)。形成外科に相談するのが一番ではないかと思います。
     

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    アズノール軟膏を傷につけるのはどうでしょうか?
     製品のアズノール軟膏の説明これを見ると,アズレン 0.1g と〔白色ワセリン+ラノリン〕299.9g からなるのがアズノール軟膏です。つまり,ほとんどが白色ワセリンとラノリンです。ちなみにラノリンは,羊毛からウールを作るときにできる副産物の「ウールグリース」を精製した蝋状物質で,高級アルコール及び高級脂肪酸の混合物です。
     アズノールはキク科の植物のカミツレ(カモミール。古くから民間薬として使われている)の成分,グアイアズレンとその水溶性誘導体を含んだ薬剤です。そのなかにカムアズレンと呼ばれる青色油状のセスキテルペンがあり,これに抗炎症作用が認められ,古くから外用剤として使われてきたようです。ただ,まれにアズノールに対してアレルギー反応を起こす人がいます。
     一方,高純度のワセリンは純粋な炭化水素(C20H42)で,分子量は284と小さいため,理論的には抗原抗体反応を起こさず,アレルギーは起きません。
     だから,安全性を考えればワセリンより値段の高いアズノール軟膏を選ぶ必要はないと思います。
     

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    シャント術後の処置はどのようにしていくと良いでしょうか。透析導入される患者さまは,糖尿病の方が多いので感染を気にされる先生も多く,また慢性糸球体腎炎からの導入患者さまより,傷がつきにくいため,抜糸の時期も遅くなってます。
     「シャント術後はどうしたらいいのか」,「腎不全があるから別ではないか」,「糖尿病患者は易感染性なので消毒が必要だろう」・・・という発想をしている限り,術後創感染は防げません。

     人間の皮膚に常在菌がいて,その常在菌群が感染を防いでいることは同じだからです。健常人と腎不全患者(易感染性患者)で皮膚の構造は同じです。そのため,易感染性の患者であれば尚更,皮膚常在菌叢を乱す行為(シャント部位の消毒)は危険です。
     「皮膚にバイキンがついているから感染予防のために手を消毒(=手をよく洗え)」という発想も間違っています。手(皮膚)についているのは常在菌と外来菌であって,外来菌(病原菌など)だけではありません。

     消毒を繰り返すと接触性皮膚炎などの炎症が起こり滲出液が出てきます。そのため皮膚表面の pH は中性に傾き,皮膚常在菌 pH 5.5前後でないと生きていけない)は生存できなくなり,逆に黄色ブドウ球菌 pH 6.8前後が生存条件)が増えます。だから,消毒するのは感染の機会をふやす効果しかありません。消毒で感染を防げたというエビデンスは存在しません
     皮膚とは何かといえば,莫大な数の複数の皮膚常在菌が生存する生態系です。これは易感染性の患者だろうが糖尿病患者だろうが同じです。この常在菌が皮膚からの外来菌の進入を防いでくれています。皮膚常在菌叢が乱れたときに感染症が起こります。
     感染を防ぐのであれば,まず,皮膚とは何かを知ることが第一歩です。これを知らずに感染対策をとっても無駄です。

     ちなみに,皮膚からの感染を100%防ぐことは理論上不可能です。これは「絶対に泥棒に入られないマンションを作れ」というのと同じです。もちろん,絶対に泥棒に入られないマンションは作れます。ドアも窓も通気穴もなく,外部から完全遮断すれば泥棒は入れません。しかしそれでは生活できません。だから,最低限,ドアと窓は必要になります。するとそこから泥棒も入れます。「泥棒は入れないが,住人だけ入れる」というドアを作ることは不可能です。
     人間の皮膚は本来,ドアも窓もない建物です。さらに常在菌が守っています。だから通常は皮膚から感染しません。一方,皮膚にカテーテルや留置針を入れる(あるいは,留置する)という医療行為はそのような建物に穴を開けることです。だから,ある確率で感染が起こります。そこを消毒すると,感染の機会を増やします。
     

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    手術後の創感染を減らすためにはどうしたらいいでしょうか。
    • 真皮の切開で電気メスを使わない。
    • 真皮直下からの出血をしつこく止血しない。絨毯爆撃的電気メス止血をしない。
    • 術中の創縁の乾燥を防ぐ。
    • 筋膜縫合後に脂肪層を消毒しない。皮膚縫合前に創を消毒しない。
    • 脂肪層は縫合しない。
    • 脂肪層が厚い場合は,血腫形成を予防のために吸引ドレーンを入れる。厚さによっては複数のドレーン挿入も考慮する。
    • 血腫形成を予防するため,患部に適切な圧迫を加える。
    • 皮膚縫合は強く結紮しない。
    • 縫合創縁の緊張が強い場合はテーピングを併用する。
    • 縫合後の消毒をしない。
    • 術後は回診時の消毒をしない。
    • 術後離開創は消毒しない。ゲーベンクリームなどを入れない。ヨードホルムガーゼを入れない。
     皮膚切開した際の真皮直下からの出血を気にして,ヒステリックに電気メスで止血すると,結局,皮膚が火傷を起こして損傷され,このような皮膚を縫ってもやがて創縁が壊死し,結果的に傷が開きます。開いた創には細菌が定着します。しかし,「細菌の定着(Colonization)」を「感染(Infection)」と勘違いすると,「これは創感染だ」と判断して消毒を始め,傷は消毒薬で損傷されて次第に深くなり,それに伴って細菌も深部に移動します。これはゲーベンクリームやヨードホルムガーゼがさらに助長します。ガーゼを創にギューギューづめにすればするほど,傷は深くなります。やがて骨髄炎や深部感染に移行します。これを「医原性感染」「消毒性感染」と呼びましょう。
     

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    老人保健施設で創傷被覆材がありません。表皮剥離や擦過傷の処置はどうしたらいいでしょうか。
     このようなご質問を頂きましたが,フィルムやハイドロコロイドすら使わずに初期治療はできます。使用するのは「台所三角コーナー用ゴミ袋」と「紙オムツ」です。鳥谷部先生の「褥創のラップ療法」で詳しく説明されています。http://www.geocities.jp/pressure_ulcer/sub582.htm
     この方法による治療の具体例は,鳥谷部先生の著書「これでわかった!褥創のラップ療法」(三輪書店)でも詳細に説明されているようです。
     また,表皮剥離に伴う出血程度なら,上記の「穴あきポリ袋+おむつ」を創部に当てて包帯を軽く巻き,患肢挙上するだけで止まります。
     

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    皮下脂肪層に直径4センチの膿瘍が発生し表面の1センチの穴からアイテルがでていました。内部を洗浄し落ち着いていますが,内部はポケット状のスペースになっています。どうしたらいいでしょうか。
     入り口が小さくて直径4センチのポケットになっている,ということですね。この程度であれば,ナイロン糸ドレナージを入れて圧迫しておけば,ポケットは肉芽で埋まって狭くなってきます。ナイロン糸は5本を2~3組くらい入れると確実にドレナージできます。もしも,ポケットの収縮が遅く,入口部の収縮が起きてしまう場合には,切開して開放したほうがいいです。
     ちなみに,肘頭部の膿瘍(化膿性滑膜炎)の場合には入れたナイロン糸が抜けやすいので(恐らく,肘の動きのため),ちょっと切開してペンローズドレーンを入れた方が確実なようです。
     

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    痔ろうが肛門付近,外陰部に瘻孔を作っている場合も洗浄後にテガダームなどを貼付するだけで良いでしょうか?
     瘻孔内部は既に滲出液で湿潤環境にあります。つまり,「湿潤でないから治らない」わけでありません。ではなぜ瘻孔が治らないかといえば,瘻孔が維持される(=瘻孔内部に正常な肉芽形成が起こらない)原因があるからです。その原因を放置して瘻孔表面の処置をしても全く無意味です。
     瘻孔の治療は基本的にドレナージです。ドレナージなしに治ることはありません。瘻孔入口部が大きければペンローズドレーンでもいいでしょうし,入り口が小さければナイロン糸ドレナージが有用です。
     これで治癒しない場合には,瘻孔深部に「根本原因」がありますので,その除去が絶対に必要です。それを除去することが瘻孔の治療になります。
     いわゆるガーゼドレナージにはドレナージ効果はほとんどなく,実際にはタンポナーデにしかなっていませんので,ガーゼドレナージはしても無駄です。ガーゼドレナージがなぜドレナージでないかは,毛細管現象が維持されないからです。高校程度の物理の知識です。
     

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    なゼラップにワセリンを塗るのでしょうか。ラップだけでも効果があるはずですが。
     傷の痛みの原因の一つは創面の乾燥です。いかに創面を空気に触れさせないかが重要です。
     ラップ単独でも創面の乾燥は防げますが,ラップにワセリンを塗るとさらに密着度が高まり,空気と接触しなくなるため,より鎮痛効果があります。
     逆に言えば,ラップ単独で痛みがなければラップだけでいいし,ラップ単独で痛みがあるようならワセリンを併用します。
     

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    アトピー性皮膚炎にも有効ですか?
     個人的な経験の範囲内でしかありませんが,有効です。治療法はこちらをお読み下さい
     

    キズパワーパッドやデュオアクティブは何日張り続けても大丈夫?
     ハイドロコロイド(デュオアクティブ,キズパワーパッド)の添付文書には1週間張り続けて大丈夫,と書かれていますが,それを真に受けるととんでもないことが起こることがあります。トビヒになったりアセモを作ったりします。普通に働いたり遊んだりしている人は,一日一回はハイドロコロイドを剥がし,周囲の皮膚の汚れ,垢を洗い落とし,それから新しいハイドロコロイドを張るべきです。皮膚は基本的に排泄器官だからです。皮膚の重要な機能である不感蒸泄がハイドロコロイド貼付で妨げられたから,皮膚のトラブルが起こるのです。
     「何日も張り続けて大丈夫」なのは,褥瘡などの寝たきり患者さんの場合のみです。
     

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    赤ちゃんの哺乳瓶は毎日消毒しないといけないんでしょうか?
     常識的に考えれば,ミルクの中に多少の細菌がいたとしても,そのほとんどは胃酸で殺菌されるはずです。また,胃を無事に通過して腸管に入ったとしても,今度は腸管常在菌叢がこれらの外来菌の定着・侵入を防ぎます。
     哺乳瓶の中にミルクが残っている状態で放置しておけば,ミルクの中でさまざまな細菌が増殖しますが,これはあくまでもミルク(と水分)があっての話です。最低限,水分がなければ細菌は増殖できません。
     ですから,普通の食器と同じように哺乳瓶を洗剤で洗い,中を十分に乾かせば細菌は増殖できませんから,それで十分に安全ではないかと思います。
     

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    カイロで腰が低温やけどになり,水疱が出来ている状態です。 3箇所あり,最大は,10mm×20mm位です。痕を残さずに治したいのですが・・・。
     低温熱傷は通常の熱湯などによる熱傷と全く違います。http://www.wound-treatment.jp/wound151.htmで説明してあるとおり,まず最初に皮下脂肪層にダメージがあります。この段階では皮膚には小さな水疱ができる程度です。しかし,次第に脂肪組織のダメージが進み,1週間くらいで突然,皮膚が真っ黒になり,真っ赤にはれて化膿します。
     問題なのは,この「皮下脂肪のダメージ」は低温熱傷に気がついた時点で既に完成していて,その後にどんな治療をしても(例:軟膏を使う,創傷被覆材を使うなど),その悪化を食い止められない点にあります。
     もちろん,軽度の低温熱傷で水疱もできないようなものではたまに,特に悪化することもなく治る例もありますが,そのような例はかなりまれで,多くの例は「どんなに治療をしても皮膚が真っ黒になり,傷が化膿する」という経過をたどります。
     通常,真っ黒になった皮膚を切除して膿を出し,それから「湿潤治療」を行いつつ,傷が閉じるのを待つ,という治療経過をたどります。http://www.wound-treatment.jp/wound046.htm

     ですから,「火傷の痕を残さないように」という治療法はないと思ってください。熱湯による火傷の場合には痕があまり残らないようにすることは可能ですが,低温熱傷はそんなに生易しいものではありません。跡が残ろうが,とにかく傷を治すことを最優先して考えるべきです。
     また,通常の低温熱傷はきちんと治療をしても,数センチのものを完治させるのに2ヶ月以上かかります。
     これでお判りのように,低温熱傷を自分で治そうというのは無謀です。低温熱傷の治療に慣れた医者を受診すべきです。
     取りあえず,「熱傷を湿潤治療している医師」に掲載している医者で通院できそうなところに片っ端から電話をかけて事情を説明し,低温熱傷の治療をしているかどうかを尋ね,治療可能という病院があったらそこを受診してください。また,受診する際は必ず,私に相談して受診を勧められたと,おっしゃってください。
     

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    下腿骨々折で,現在ギプス固定をして金属固定Ope予定している方ですが,ギプスのなかで広範囲な水疱ができて破れてしまいました。整形外科としてびらんがある近くで金属を体内に留置するOpeは骨髄炎の危険があります。何かいい治療法はないでしょうか。
     お尋ねの症例ですが,これが参考になるでしょうか?
      
    「前腕骨折固定時に血疱を併発した症例」
     術前に水疱が破れてしまったのであれば,水疱膜を全て除去してハイドロサイト,プラスモイスト(以前のZNCの改良版です)などで被覆し,上皮化が完了してから手術すべきでしょう。
     

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    そもそも,金属挿入部近くに湿潤創がある状態で手術すると,感染率が高くなる率はなぜでしょうか。
     正常の皮膚(傷のない皮膚)と創面では物理的・化学的性状が異なるため,そこに生息する細菌も異なります。与えられた環境にもっとも適した細菌のみが繁殖できるからです。
     正常皮膚,つまり,汗や皮脂が分泌されてこれが表面を覆っている皮膚ですが,これにもっとも適応した細菌は表皮ブドウ球菌で,これは人体に対する病原性はきわめて低いです。
     それに対し,創面(滲出液のために水分が多く,蛋白質も多い)に生着する細菌は,その物理的・化学的性状によって黄色ブドウ球菌だったり緑膿菌だったり,カンジダだったりします。これらは表皮ブドウ球菌に比べ,病原性は高くなります。
     だから,湿潤創面を切開した場合,正常皮膚を切開するより感染が多くなるのは,当然です。このあたりについては,
    http://www.wound-treatment.jp/title_kanou.htmの「生態系としての創感染」もお読み下さい。
     創面に定着した細菌を消す唯一の方法は,傷を治すことです。つまり,正常皮膚を再生させることです。正常皮膚が再生すれば,緑膿菌も黄色ブドウ球菌も生存できず,唯一,表皮ブドウ球菌のみが生存できるからです。

     手術で,湿潤創面(=肉芽面)をどうしても切開しないといけない場合,どうしたら創感染を減らせるかですが,全ての肉芽(創面)を全て切除して新鮮創面にし,直ちに手術を開始する方法です。つまり,湿潤創面を完全に剥ぎ取ります。
     これなら,肉芽面の切除が完全にできれば感染率は正常皮膚と同じになるはずですが,完璧なデブリードマンが要求され,中途半端なデブリードマンでは感染必発です。これ以外に,感染を減らす方法はありません。
     要するに,「細菌とはどういう生物か」ということを前提に,その上で何ができるかを考えるべきだと思います。
     

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    手術の傷跡がケロイドになった(医師向けバージョン)
     ケロイドと肥厚性瘢痕はまったく異なっていて,大多数の医者の言う「ケロイド」はケロイドではありません。
    「真のケロイド」は前胸部正中などの決まった部位に発生し,傷の元々の大きさ以上に広がり,正常皮膚に広がっていくもので,悪性腫瘍のような増殖をします。この場合は,手術で切除すればするほど広がるため,手術治療は禁忌,絶対にしてはいけません。
     「偽のケロイド」とも言うべき肥厚性瘢痕は,正常皮膚を侵すことはありません。また,単に「広がった傷痕」は肥厚性瘢痕でもケロイドでもありません。

     術後に発生する肥厚性瘢痕はほぼ全例,瘢痕拘縮(傷のひきつれ)に合併して起こります。瘢痕拘縮があるために発生する肥厚性瘢痕です。だからこの場合には,Z形成術などを行って瘢痕拘縮の治療をすれば,肥厚性瘢痕は収まります。つまり,肥厚性瘢痕を切除しなくても症状は改善します。
     瘢痕拘縮を伴わない肥厚性瘢痕の場合,ステロイド剤(トリアムシノロン)の局所注射,ストロングタイプのステロイド軟膏塗布,ステロイド含有テープの貼付,シリコンシート貼付,トラニラスト内服などの治療をします。
     

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    ケロイド体質と医者にいわれましたが(患者向けバージョン)
     多分,その医者が間違っていると思います。「ケロイド体質」の患者はほとんどいないからです。私は25年近く形成外科医をしていますが,本当のケロイド体質の患者さんは一度も見たことがありません。これは他の専門医も同じでしょう。
     本当のケロイド体質では,体のさまざまな部位に「真のケロイド」が発生しますが,このようなことは極めてまれです。だから,医者が「あなたはケロイド体質だから諦めましょう」といったら,それは,嘘をついているか,ケロイドについての医学的知識が欠落しているか,デタラメを言っているか,そのいずれかだと診断できます。こういう医者はさっさと見切りをつけて,まともな医者にかかりましょう。正しいことを知らない医者にまともな治療ができるわけがないからです。
     

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    数年前,ガラスで腕を切り病院で縫合してもらいましたが,傷が盛り上がって目立ちます。何とかならないでしょうか。また,このような傷を切り取って湿潤治療すればきれいになりませんか。
     このような傷跡を目立たなくする治療は,形成外科で普通に行っています。全国どこの形成外科でも,ほぼ同じ治療をしていますで,お近くの形成外科(総合病院の形成外科でも開業医でもよい)で相談してみてください。
     傷跡を全くなくすことは不可能ですが,より目立たなくすることは可能でしょう。
     なお,この場合は湿潤治療をする必要はありませんし,湿潤治療の知識のない形成外科医でも,問題なく治療できます。
     また,手術での治療でなくても,ステロイド剤の局所注射,ステロイドテープの貼付で盛り上がりは平らになります。シリコンシート貼付でもかなり効果がありますし,内服薬を併用することもあります。このような治療は全国どこでもしている普通の治療ですから,御近所の形成外科で御相談下さい。
     

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    どうしても縫合しなければならない新鮮外傷で真皮縫合や,もっと深部を縫合しなければならないことがあると思います。その際の縫合の時の消毒も不要で水道水洗浄のみでいいのでしょうか
     「傷の中に消毒薬を入れてはいけない」というのは既に外科の教科書(1990年以降に出版された英語の教科書)に書かれています。これは傷すべてに共通していることで,深いも浅いもありません。つまり,「深い傷だから消毒」をいう発想そのものが教科書レベルでも否定されています。
     結局,消毒薬を使うかどうかは,消毒薬によるメリット,デメリットのトレードオフです。まな板や布巾を消毒するなら消毒薬や熱湯で十分ですが,生体(皮膚,傷,臓器など)を消毒するときに熱湯で消毒する馬鹿はいません。消毒薬による殺菌と熱湯による殺菌は,細菌に対する作用機序という意味ではまったく同じです。つまり,生体にとって消毒薬は熱湯同様に危険なものだと思います。だから,メリットがなくデメリットしかなく,考慮の対象ですらありません。
     

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    その際の手袋は滅菌済みですか?未滅菌のものですか?
     http://www.wound-treatment.jp/title_bunken.htmの文献にあるとおりです。やはり,深い傷だろうが浅い傷だろうが外傷に関する限り感染率に差はないようです。
     

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    穴あき覆布は使われているのでしょうか? 糸は圧巾の外にでているのでしょうか?
     「穴あき覆布」は使います。縫合糸を見つけやすいからです。しかし,縫合糸が覆布の外に触れても気にはしていません。
     

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    不潔と清潔の違いをどう考えたらいいのでしょうか
     「不潔」「清潔(無菌)」を二つに分ける考えは既に古いです。「不潔」「準清潔(準不潔)」「清潔(無菌)」と3通りで考えるのが世界標準です。
     「滅菌物を使うこと,無菌操作をすること」と,「院内感染を防ぐ,術後創感染を防ぐこと」はまったく関係ありません。院内感染を防ぐことの本質は「複数の患者関で使用する共有物を細菌汚染しない」ことです。無菌操作・滅菌物の使用はそのための手段の一つに過ぎません。手段は他にいくらでもあります。
     患者にとって最大の共有物は「医者と看護師の手」です。だから手洗いが必要です。しかしだからといって,手をしつこく洗ったり消毒薬で洗うと,皮膚が荒れてきてやがてMRSAなどの細菌が常在します。つまり,手を無菌にしようとすると,逆に手は細菌汚染され,それが院内感染の原因になります。つまり,「手洗いで院内感染」は半分正しく,半分正しくありません。
     これを避けるためには,手洗いする前にワセリンで保護膜(油の皮膜)を作り,それから手洗いするしかありません。
     ちなみに,手についている細菌は,常在菌と通過菌に分かれます。通過菌で水で洗って落ちない細菌はありません。
     

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    子供の顔面外傷は原則的に縫合しないとのことですが母親の手前,初めは勇気が必要だったのではないでしょうか。必ず綺麗に治るという根拠,自信はどこからできたものでしょうか?
     交通事故などの多発裂創で全ての裂創を縫う余裕がないときに,テーピングだけした傷が数日後にきれいに治ることを見ています。
     また,私はもともと形成外科医です。つまり,傷を修正したり,より目立たなくするのが仕事です。だから,もしもテーピングで傷が目立っても自分で修正すればいいだけのことです。
     以上から,恐らくテーピングで大丈夫なこと,万一傷が開いたままでもきれいに治ること
    http://www.wound-treatment.jp/next/wound202.htm,万一傷が目立っても自分で治せることから,テーピング主体で治療することにしました。患者さんの両親には,きれいに治る写真を見せると納得されます。
     どんな親だって,子供が泣く声は聞きたくないと思います。
     

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    フィブラストスプレーについては,どのように先生はお考えですか?
     ここに書いてあるとおり,まったく無効な薬剤です。
     フィブラストスプレーの有効性を示すデータそのものがおかしいのです。製薬メーカーのデータは,ユーパスタを対照薬とし,ユーパスタより有効だからという数字を出していますが,この時点でそもそもインチキです。なぜなら,ユーパスタは「傷を治さない特効薬」の一つだからです。ユーパスタの基剤(ショ糖)は高浸透圧で創面を乾燥・壊死させ,一方,主剤はポビドンヨードという生体毒だからです。
     つまり,ユーパスタと比べれば,水道水だって治療効果があります。ユーパスタを止めただけで傷が治ってくるからです。マイナスの効果のある薬剤を基準にすれば,ゼロだってプラスに見えます。
     だから,ユーパスタと比較して治療効果があるという実験系そのものがインチキです。
     製薬メーカーのデータを鵜呑みにするのは,極めて危険です。

     ちなみに,フィブラストを創面に噴霧するとムチャクチャ痛いです。これはフィブラストの浸透圧が高いためと思われます。だから,フィブラストを使う医者は,患者を痛めつけて喜んでいるとしか思えません。
     

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    眼軟膏は普通の軟膏とどう違うのでしょうか?
     「塗り薬」は基剤によって分類されているようです。基剤により軟膏(白色ワセリン,あるいはプラスチベースなどの油脂が基剤),クリーム(クリームが基剤),ローションなどに分けられます。
     しかし,本来はクリーム基剤なのに,軟膏という名前で販売されているものがあり(例:オロナイン軟膏,オルセノン軟膏),名前だけでは判断できません。
     ちなみに,軟膏(油脂基剤)は半透明,クリームは不透明で白やピンクなど色がついています。
     眼軟膏全てを調べたわけではありませんが,そのほとんどは白色ワセリンの中でもっとも純度の高いプロペトが基剤です。恐らく,安全性を考えて,不純物が最も少ないプロペトが選ばれたものと思われます。
     

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    外用抗菌薬は浸透しないと常識的になっていますが,では白癬菌はどうなのでしょうか?
     白癬菌は角質内で増殖して足白癬を発症しますので,角質表面の白癬菌を除去することは,足白癬の治療とは無関係ではないかと思われます。
     白癬治療軟膏についてはよく知らないのですが,色を見る限りクリーム基剤でしょう。恐らくそれに尿素を混入して角質を溶解(=破壊)する作用を持たせ,薬剤を角質内の白癬菌に作用させていると予想されますが,もしかしたら間違っているかもしれません。
     

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