【目 的】
前回の人体実験でアクトシン軟膏を傷に塗ると非常に痛く,しかも傷が深くなることを経験したが,その追試を行った。
【Material and Method】
自分の上腕遠位部屈側を実験部位とし,ガムテープを50回ほど「張っては剥がす」操作を繰り返して皮膚表面を損傷した。これを二つに分け,一方はプラスモイスト貼付,もう一方はアクトシンを塗布しガーゼで覆った。プラスモイストとアクトシンは一日に2~3回交換した。
観察は実体顕微鏡Dino-Lite Plusで行い,拡大率は60倍とした。
【結 果】
3月14日:実験前 | 角質破壊後 |
実験開始時の状態。衣服に擦れるととても痛い。
12時間後:プラスモイスト | アクトシン |
プラスモイストを貼付した部位は数分で痛みが治まったが,アクトシンを塗布した部分は塗布直後から強い痛みが襲ってきた。我慢できないほどの痛みではないが,ジンジンとする痛みで,時間の経過とともに痛みは強くなった。この痛みは1時間以上続いた。
顕微鏡で見ると,プラスモイスト貼付部位は滲出液で覆われてきらきらと光っているが,アクトシン塗布部は乾燥している。「アクトシンを塗ると傷が治る」と思っている先生が少なくないが,恐らく,〔アクトシンを塗ると滲出液が減る〕という現象を〔傷が治ってきたから〕と勘違いしていらっしゃるのだろう。
3月15日:プラスモイスト | アクトシン |
実験開始24時間後。顕微鏡で見るとアクトシン塗布創面はさらに乾燥している。一見治ったように見えるが,アクトシン塗布直後の痛みはさらに増強。
3月15日:プラスモイストと健常部の境界 | アクトシンと健常部の境界 |
同じ日に,それぞれの実験部位と周囲の健常部分の境界を撮影した。プラスモイスト貼付部位は皮膚紋理がなく,アクトシン塗布部位には皮膚紋理らしきものが見えるが,これは皮膚紋理ではないことは翌日の写真を見るとよくわかる。なお,左側の写真の黒い線は,位置決めのために皮膚に描いた油性マジックの線の名残である。
3月16日:プラスモイスト | アクトシン |
3月16日,アクトシン部分の痛みは続き,塗布して数分後にチクチクとした痛みが続く。プラスモイスト貼付部は全く痛みがなく,洗っても痛くない。
顕微鏡で見ると,プラスモイスト部分は滲出液もなく乾燥し,皮膚らしきものが覆っているが,アクトシン塗布部位には潰瘍が出現している。
3月17日:プラスモイスト | アクトシン | アクトシン その2 |
3月17日,アクトシン塗布部位の痛みが強くなり,これで実験を終了した。創面全体に潰瘍が出現している。
一方のプラスモイスト貼付部には皮膚紋理が再生していることがわかる。
3月17日:プラスモイストと健常部の境界 | アクトシンと健常部の境界 |
アクトシン塗布部を見ると,潰瘍がない部分は乾燥していて,一見治っているように見えるが,これは後述のように見せかけだった。
【わかったこと】
アクトシン軟膏を浅い潰瘍に塗布すると痛いということを再確認した。やはりとんでもない薬剤であり,患者さんに使ってはいけないものだと思う。しかも,日を追うごとに痛みが強くなるのも前回の実験と同様だった。
この実験でわかるように,アクトシン軟膏を塗布した部分は3月15日で一旦乾燥しているが,これは治癒して乾燥したのでなく,痂皮が覆って乾燥しているだけだった。アクトシンで傷が治る,というのはこれを見て「治った」と考えていたものだろう。
その証拠に,アクトシンを塗布して痛みがある部分を治そうとデュオアクティブETを貼付したところ,乾燥して一見治ったように見える部分が全て潰瘍化したからである。これは痂皮が剥げてその下の潰瘍が露出したものだった。同様の現象は,後日行ったカデックス軟膏による人体実験でも見られた(こちらのほうは,痂皮である証拠写真も撮ってある)。
よく,「デュオアクティブ貼付でいつまでたっても治らない傷にアクトシンを塗ったら治ったが,これはアクトシンの有効性を示すものだ」と主張される先生がいらっしゃるが,これは痂皮と再生皮膚を見誤っているのだろうと思われる。
少なくとも私の体の傷に対しては,アクトシンは創悪化要因であり,創破壊薬・疼痛発生薬としてのみ有効であった。
(2008/03/25)