ゲーベン(R)は傷を深くする


【目 的】
 熱傷治療で広く使われているのがゲーベンクリーム(R)だが,実は「浅い熱傷には使用してはいけない」という注意事項があるのに,それを知らずに使っている専門医がかなり多いのが現実だ。また,この薬剤は熱傷以外にも,広く感染創の治療に使われている。
 一方,この薬剤が創面に対してどう作用するかについてを調べた実験は存在しない。ならば自分でやるしかない。


【Material and Method】
 自分の左肘部屈側を実験部位とし,ガムテープを30回連続で張って剥がし,角層損傷を行った。ここを二等分して尺側をゲーベン塗布,橈側を乾燥部位とし,一日に4~6回,実験部位を洗ってゲーベン塗布し直した。実験は2008年2月29日に開始し,結果が得られるまで続けた。
 観察は実体顕微鏡Dino-Lite Plusで行い,拡大率は60倍とした。


【結 果】

2月28日:破壊前の状態 破壊後の状態 実験部位 半分にゲーベンを塗布

 実験開始時の状態。この時点では,ゲーベンを塗布した部分と乾燥させた部分の痛みの差は感じなかった・・・というか,一様に痛かった。その後,ちょっと時間が経過するとゲーベン塗布部分のチクチクした痛みが次第に強くなってきた。


2月29日:ゲーベン 乾燥

 翌日の状態。肉眼でもゲーベン塗布部分が赤っぽい。顕微鏡で見ると創面全体が充血しているような感じ。痛みは昨日より微増し,シャワーの水が当たるとゲーベン部分はかなり痛い。


3月1日:ゲーベン 乾燥

 3月1日,ゲーベン塗布部分は一段と痛みが増強。乾燥部分は触れたりしなければ普段は痛みがないのと対照的。特にゲーベン塗布部分にシャワーの水が当たると,飛び上がるほど痛い。顕微鏡で見ると一段と創面が荒れている。


3月2日:ゲーベン ゲーベン・その2 乾燥

 3月2日。ゲーベン塗布部分の発赤が強くなり,顕微鏡で見ると今までに見たことがないほどの皮膚の荒廃が観察された・・・が,実はこれは序の口だった。痛みの程度は前日と同じ。


3月3日:ゲーベン ゲーベン・その2 薄い痂皮が覆っていた

 3月3日。朝起きたら,ゲーベン塗布部分だけ茶褐色になっていた。顕微鏡写真でもわかるとおり,これは薄い痂皮だったが,その下には浅い潰瘍ができていて(左端の写真),ここにゲーベンを塗布するとかなり痛い。
 そろそろ実験を止めたくなったが,気合と根性で乗り切ろう,と自分に言い聞かせる。


3月4日:ゲーベン 乾燥

 3月4日。潰瘍が次第に拡大。


3月5日:ゲーベン 乾燥

 乾燥部分は痛みは触れるとヒリヒリする感じ。ゲーベンの部分は安静にしていても痛い。シャワーを浴びるときに,水に触れないようにしないと安心してシャワーを浴びれない状態になった。


3月6日:ゲーベン 乾燥


3月7日:ゲーベン 乾燥 こんな感じになった

 右端の写真でわかるとおり,ゲーベン塗布部分(写真の下側)が黒ずんでいるのがわかる。顕微鏡で見ると山岳地帯というか,深い渓谷というか,なんだかすごいことになっている。痛みも強く,これで実験終了とした。


3月7日:ゲーベンと正常部の境界 乾燥と正常部の境界

 正常部分との境目を観察すると,乾燥させた部分もゲーベンを塗布した部分も瘢痕化していることがわかるが,ゲーベンの方がより荒廃している。


【感想みたいなもの】
 とにかく,ゲーベンは痛い。塗布した直後はそれほどでもないが,時間がたつほど痛くなるし,日にちが過ぎるほど痛みが強くなる。これは,皮膚の破壊(潰瘍化)がゲーベンにより進行し,それについて痛みが強くなっているものと思われた。これまでに「救急外来でラップで治療を受けていたときは痛くなかったのに,形成外科に転科してからゲーベンクリームを塗られ,それから痛みで歩けなくなった」という患者さんを何人も知っているが,それがなぜか納得できた。1センチ足らずの傷でもあれだけ痛いのに,熱傷創面全体に塗られたら,それこそ拷問級の痛みだと思う。

 はっきり言う。ゲーベンなんてクソの役にも立たないクズ薬剤だ。地球から消滅させるべき毒薬だ。どうしてもゲーベンを使いたいという医者がいたら,私と同じ実験をしてみるべきだ。ゲーベンを擁護する医者がいたら,私はその見識を疑う。

 そんなことを言ったって,抗菌力ある軟膏も必要では・・・というのであれば,痛みがない軟膏を開発すべきだ。そんな努力もせずに,昔から使っているからという理由で漫然とゲーベンを使う医者は,単なるサディストか,無知で不勉強な医者だと断罪する。

 ゲーベンクリームに対する私の考えに対する異論,反論,大歓迎だ。ただし,反論するなら自分の体で同様の実験をしてからだ。そういう勇気ある医者からの反論なら私はいつでも受けてたつ。

(2008/03/12)