傷にイソジン(R)を塗るとどうなるのか?
【目 的】
ポピドンヨード(イソジン(R))を傷に塗るとどうなるのだろうか。本当に傷の治癒を障害するのだろうか。細胞レベルでは細胞障害性は確認されているが,人体でそれを確認した実験はまだないようだ。ならば自分の体で試すしかない。
【Material and Method】
筆者自身の左前腕伸側遠位に角質損傷モデルを作成し(ガムテープを張っては剥がし・・・を30回繰り返した),それを3つに分け,それぞれイソジン塗布,ドレッシングで覆わずに乾燥,ワセリンを塗布してフィルム材で密封とした。イソジンとワセリンは一日数回塗布とし,塗布する前に十分に水道水でしてから再度塗布した。
観察は実体顕微鏡Dino-Lite Plusで行い,倍率は65倍前後とした。
【結 果】
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3月3日:損傷前の状態 |
30回の剥離刺激後 |
その時の状態 |
イソジン塗布! 痛い! |
- 3月3日,人体実験を開始した。まず実験部位にガムテープを貼付してそれを剥がす,という作業を30回繰り返した。30回で止めたのは痛みに耐えられなかったからである。
- それを当初は2等分し,遠位部をイソジン塗布,近位を乾燥としたが,1回目の塗布で痛みでちょっと軟弱になり,3時間後の2回目イソジン塗布から3等分して遠位部から順にイソジン塗布,乾燥,ワセリンとフィルムで湿潤として,痛いイソジン部分を小さくした。科学者といえども,我が身は可愛いのである。
- 角質損傷後の実験部位はどれも痛かった。
- ワセリンを塗布してフィルムで覆うと痛みは速やかに消退した。
- イソジンを塗布した直後には痛みはそれほどでもないが,5秒後くらいから痛みが強くなり,それはしばらく続いた。
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3月4日:イソジン塗布 |
乾燥 |
ワセリン塗布+フィルム密封 |
- 肉眼的には3つの部分にはそれほど違いはなかったが,ワセリン塗布部の痛みは全くなく,乾燥部とイソジン塗布部は衣服で擦れるたびにピリピリと痛い。
- 顕微鏡で見るとイソジン塗布部は浅い潰瘍ができているような感じに見えた。
- ワセリン塗布部はきらきら光っているため,きれいな写真を撮るのが難しい。洗ってもワセリンが十分に除去できないためらしい。
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3月5日:イソジン |
乾燥 |
ワセリンとフィルム |
洗ってみたらイソジン部だけ・・・ |
- 3月5日の状態。ワセリン塗布部はきらきら光っている。治っているかどうかはこれだけでは判断できない・・・が,痛みは全くない。
- 乾燥部分,イソジン塗布部分には浅い潰瘍が認められるが,イソジン塗布部には潰瘍が全体に認められる。両部分ともに水道で洗った直後の痛みがあり,特にイソジン部分で痛みが強い。イソジン部分を洗うのが苦痛になってきた。
- 右端の写真は水道水で全体を洗ったあとの状態だが,イソジン塗布部のみ水で濡れ,乾燥部とワセリン塗布部は水をはじいていることがわかる。イソジンには安定剤として界面活性剤が含まれているが,その作用なのだろうか。
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3月6日:イソジン |
乾燥 |
「ワセリン+フィルム」と乾燥部の境界 |
- イソジン塗布部はさらに痛みが強くなり,水洗いした直後の痛みはかなりひどい。実験を止めたくなってきた。
- イソジン塗布部には肉眼でもわかる潰瘍が出現した。
- イソジン塗布部の痛みは日を追うごとにひどくなった。実験開始直後より痛みが強くなったのは,潰瘍が深くなったためと思われる。
- 乾燥部分も痛みはあるが,イソジン部分よりはひどくない。
- ワセリンとフィルムの部分はツルツル・ピカピカの皮膚が覆っていて,触っても痛みは全くない。右端の写真は乾燥部分との境界を撮影したものだが(上が乾燥部,下はワセリン部),その違いは一目瞭然。
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3月7日:イソジン |
同じ日の別のイソジン部 |
全体像 |
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3月7日:イソジンと正常皮膚の境界 |
イソジンと正常皮膚の境界 |
乾燥部と正常皮膚の境界 |
湿潤部と正常皮膚の境界 |
- 実験最終日。イソジン塗布直後の痛みが耐え難くなったため,実験中止とした。
- イソジン部と他の部位の違いは肉眼的にもはっきりと認められる。
- イソジン塗布部を顕微鏡で見ると潰瘍が多発していて,見るからに痛々しい。
- 正常皮膚との境界部を撮影したが,ワセリンとフィルムの部分は皮膚紋理が再生していることがわかるが,イソジン部,乾燥部では皮膚紋理は再生の兆しも見えない。
- イソジン塗布部と正常皮膚の境界部を見ると,イソジンの恐ろしいまでの破壊力がよくわかる。まさに毒物以外の何者でもない。
【わかったこと・考察】
- イソジンを傷に塗ると,傷は深くなり潰瘍を生じる。
- イソジンに創傷治癒効果は認められない。
- イソジンを傷に作用させる人体実験は非常に苦痛である。
- 創面の乾燥にも創傷治癒効果は認められないが,イソジン塗布よりは創傷治癒阻害効果は小さいようだ。
- 傷にイソジンを塗布した直後は痛くないが,それからちょっとたってから痛みが襲来した。油断した頃に痛くなるわけで,非常に性格が悪い薬剤である。
- ワセリンとフィルムで痛みは速やかになくなり,ピカピカと光る皮膚が再生したが,このピカピカのために顕微鏡写真を撮るのが難しいかった。
- 顕微鏡で撮影する場合は,実験部位単独より,正常皮膚との移行部(境界部)を撮影するほうが,治癒の程度や損傷の程度がよりわかりやすい。今後の人体実験の記録では「境界部」の撮影を活用しようと思う。
(2008/03/10)