【目 的】
創傷治癒の基本は湿潤環境の維持であるが,それは本当に正しいのだろうか。もしかしたら乾燥とあまり変化がないのではないだろうか。そういう原点に戻って人体実験した。
【Material and Method】
自分の左前腕近部部屈側に角質欠損創を作り(ガムテープを張っては剥がし,を30回ほど繰り返した),ここを二つに分け,一方は乾燥(何も覆わない),一方は乾燥を防ぐためにワセリンを一日数回塗布した。一日一回,実体顕微鏡Dino-Lite Plusで観察した。実験はは2008年2月29日に開始し,3月4日まで行った。
【結 果】
実験前:正常な状態 | 角化層破壊後の状態:2月29日 |
実験開始直前と角質損傷直後の状態。ヒリヒリとした痛みがひどい。
3月1日:ワセリン塗布 | 3月1日:乾燥 |
翌日の状態。顕微鏡で観察すると乾燥させている部位は細かい溝が縦横に走っている感じになっていることがわかる。乾燥部位は依然として痛みがあるが,ワセリン塗布部位は痛みはない。
3月2日:ワセリン塗布 | 3月2日:乾燥 |
ワセリンを塗布した部位では既に正常な皮膚紋理のようなものが出現しているが,乾燥部位の「縦横に走る溝」はさらに深くなっている。また,痛みはさらに強くなった。
3月3日:ワセリン塗布 | 3月3日:乾燥 |
ワセリン塗布部は皮膚紋理がかなり戻っているが,乾燥部位にはわずかに出血が認めら(衣服にくっついたらしい),創面全体が赤い。
3月4日:ワセリン塗布 | 3月4日:乾燥 | 3月4日:実験終了 |
3月4日,実験終了時。ワセリン塗布太乾燥部位の違いは肉眼でもはっきりわかり,線を引いたように乾燥部位(向かって左側)は赤くて乾燥し,ワセリン塗布部(向かって右)は白くて周囲の皮膚との違いはわからないまでに回復。
顕微鏡で観察すると乾燥部位はさらに損傷が進んでいることがわかる。ワセリン塗布部位はあと一息で正常になりそうな感じ。
【わかったこと,考察】
これぞ一目瞭然という実験結果が得られた。やはり,創面を乾燥させると治癒せず,乾燥を防ぐだけで痛みがなくなり治癒も早い。実験者であり被験者であるという経験から言うと,湿潤治療の最大のメリットは痛みがないということに尽きる。
実験は3月4日で終了した。もちろん,顕微鏡で観察する限り,ワセリンを塗布した部分はまだ健常な皮膚に戻っていないのだが,これ以上実験を続けると「乾燥部位」に確実に瘢痕が残りそうだったためこれで終了とした。
(2008/03/05)