一言で言えば,「体の他の部分(=傷ついていない部分)の健康な皮膚を採取して(これを「採皮」という),創面に移植して傷を治す手術」である。
これは形成外科医,皮膚科医にとってはごく当たり前の知識だが,それ以外の人間にとってはちょっと衝撃的な説明ではないだろうか。なぜかというと「怪我をした部分を治すために,怪我をしていない部分を犠牲にする」ということになるからだ。
こういうことを書くと,形成外科医,皮膚科医の皆さんは「何を今更そんな当然のことを問題にするの?」と思われると思うが,「右の腎臓がダメになったので,左の腎臓を摘出して右に移植する」,「後頭部の毛髪を前頭部に移植して前頭部禿髪を治療」と言い換えてみると,「オイオイ,それって何?」と思わないだろうか。
つまりどう考えても,右手のお金(=右手の皮膚)を左手に移すようなものでありお金は増えないからだ。それって治療と言えるんだろうか?
また同時に,次のような疑問が生じると思う。「皮膚を移植された傷の部分は治っていいけど,皮膚を取られた部分はどうなるの? 皮膚がなくなったら傷だよね。それってヤケドをしたのと同じになるんじゃないの?」・・・と。実は私は学生時代に皮膚科の講義でこの話を聞き,なぜこの手術で治ったことになるのか理解できなかったのだ。
この疑問に答えるためには,ちょっと回り道になるが皮膚移植術の種類を理解してもらう必要がある。皮膚移植術の論理を理解するためには,いろいろな前提知識が必要なのだ。
いずれにしても,「傷のない正常な皮膚に傷をつけなければできない手術」が皮膚移植術であることは覚えておいて損はない。
(2011/05/13)