網目状にしたりパッチ状にするのはなぜ?


 採取した分層皮膚はそのままで移植することもあるが,網目状にしたり小さく切り分けて移植することが多い。とりわけ,広範囲な熱傷では網目状にして移植することが多く, mesh skin graft と呼ばれていて,メッシュにするために専用の機械(メッシュダーマトーム)を用いる。


 なぜこんなことをするかというと,「小さく取った皮膚で広い傷を覆いたい」からだ。つまり,5センチ四方の皮膚でなんとか7センチ四方の皮膚が覆えないか,ということから考案された手技なのである。なぜこんなことを考えるかというと、「傷のない皮膚を取って傷の部分を覆う」のが皮膚移植である以上,傷がない部分に傷を付けざるを得ず,それならなるべく小さな傷にしたい,と考えるのは人情だからである。

 そのために,採取した皮膚(分層皮膚)に短冊状の切れ目を入れて広げたり,小さく切り分けて間隔を開けて置き,それで創面を覆うわけである。これで,最初の皮膚より広い面積の熱傷創を覆うことができることになるのだ。要するに,これはミカンの網袋にミカンを沢山入れられるのと同じ原理である。
 メッシュ状にする場合は2倍の面積とか3倍の面積に広げて移植するのが一般的だ。ちなみに,網目と網目の間には傷(=移植皮膚で覆われていない部分)が残るが、これは生着した皮膚が延びてきて治ることになる。ちなみにこの説明で判るように,網目を大きくするとそれだけ広い面積を覆えるが,逆に網目の間は広くなり,完全に治るまで日数がかかる。


 「小さな皮膚で広い傷が覆えるなら超ラッキー!」と思うかもしれないが,もちろんうまい話ばかりではない。見栄えが非常に悪いのだ。網目状に移植した皮膚は数十年経っても網目が消えず,どうみても「鱗だらけの皮膚」にしか見えないのだ。次の例は24年前に網状植皮を受けた患者さんの状態である。

 この写真を見て「きれいに治ってよかった」とか,「こんなにきれいに治るんなら自分の皮膚移植してもらおう」と思う人はいないと思うがどうだろうか。というか,これを見て「きれいだ」と感じる人がいたら,美的センスが狂っていると思う。

 しかし,患者に網状植皮を勧める医者の中で,患者にきちんと「死ぬまで鱗のような網目が消えません。正常の皮膚にもなりません」と説明している人はほとんどいない。私の知る限り,皆無である。
 もしも,「いずれきれいになります」と医者が説明して網状植皮術を勧めたら,そいつは間違い無く詐欺師である。


 ちなみに知り合いの形成外科医は絶対に名前を出さないことを条件に次のように言った。

自分の家族がヤケドをしてもなるべく皮膚移植はしたくないし,特にメッシュ状植皮は絶対に嫌だな。植皮しないで治る方法があって,しかも拘縮が起きないのならば絶対にそっちの方を選ぶ。自分の家族ならなおさらだ。しかし,大学病院の医者なのでどんな熱傷患者にも皮膚移植をしている。自分でもおかしいと思っている。

(2011/05/17)

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